第6話 日常の変化
登校時、あかりはなぜか口を開かなかった。
話があるんじゃなかったのか。なんて自分から言える空気でもなく、俺たちは無言で学校に到着してしまう。
あちこちから視線が刺さる。昨日の放課後、あかりが見せびらかすように俺にスキンシップを迫ってきたからだ。
学校でも頂点に君臨する美少女と肩を並べて歩く隠キャモブがいれば誰だって奇異の視線を向けるというもの。物珍しいというだけならいいけど、明らかに殺意の眼差しを向けてくる男子もいる。
自分の教室の前まできて、俺はあかりと別れる。
クラスが別でよかったと心から思ったのはこの日が初めてだ。
俺はため息を吐いて自分の席に座るけど、机の惨状を見て戦慄する。
「……マジか」
俺の机が地上最強の息子の家くらい落書きまみれになっていた。
たった一日でよくもやったものだ。
いじめがない穏やかな校風の学校なのに、俺の席だけコテコテの不良漫画みたいになっちゃったよ。先生に見られたら職員会議待った無しである。
とりあえず消せるところは消して、机の上に教科書を散りばめることで誤魔化す作戦にする。
授業は何事もなく乗り切れた。
教科書をこれでもかと開いているせいで先生にいつになくやる気があると思われてしまったが、気のせいだから何度も指名しないでください。
休み時間には当然のようにあかりが乱入してくる。あかりがいる手前ちょっかいをかけられない様子の男子たちが俺を鬼の形相で睨んでくるが、あかりには見えていないらしい。
どうでもいいけど休み時間くらい休ませてくれませんかね……。
そんな感じで放課後。
学校生活でここまで疲れたのは初めてだ。
肉体疲労よりも精神疲労の方が深刻という話は本当だったらしい。
一週間くらい無人島で過ごしたい。誰も俺に構わないでほしい。
とにもかくにも、帰りのホームルームも終わったというのにいつまでも教室にはいられない。
クラスの男子なんて怖くはない。俺が一番恐れているのはあかりなんだ。
あかりが来る前に教室を出ると、俺は身を潜めながら下駄箱に向かう。
念のために壁を背にして様子を伺うけど、あかりの姿は見えない。
「……よし!」
「なにがよしなの?」
「うわああああぎゃあああああ!!?」
自分でも信じられないような悲鳴が出た。
あかりに見つかった。そう思って慌てて声の主を見ると、そこにはツインテール美少女はいなかった。
「お、お前……」
あかりの友達だ。昨日あかりに殺されかけた。
「どうしてここに?」
「あんたを探してたから」
「な、なんで?」
「話があるからに決まってるじゃん。バカなの?」
どうやって俺を見つけたんだ?
五感が生物の限界点に至っていると囁かれているあかりよりも先に俺を捕まえるなんて人間の所業とは思えない。
いやそんなことはこの際どうでもいい。俺が他の女と一緒にいるところを見られたら四肢切断監禁ルート突入不可避だ。
「と、とりあえず外に出よう! いい隠れスポットを知ってるんだ」
「なんで隠れるの。ここでいいじゃん」
「よくないから! 早く行こう!」
「ちょ、ちょっと! 引っ張るな!」
あかりの友達の手を引いて、俺は強引に外に出る。
危機感のない女だ。ホラーアニメだったら一人でフラフラしていつの間にか退場してるタイプだな。
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