第7話 リアルかくれんぼ

 俺はあかりの友達を連れて校舎裏に来ると、近くの雑木林の中に入る。

 足場は悪いがわざわざこんな場所に立ち入る生徒もいない。

 俺が本当に一人になりたい時に逃げ込む隠れ家の一つだ。ここはあかりにも知られていない。

 林の中なら外から姿が見えることもないし、流石のあかりもこんなところまで探しには来ないだろう。


 しばらく進んで、少し開けた場所に出たところで俺は手を離してあかりの友達と向き合う。

 両腕で体を抱き込むあかりの友達は、露骨に顔をしかめて俺を睨んでくる。


「い、いきなりこんなところに連れ込んでナニするつもり……?」


「一緒にいるところをあかりに見られたくないんだ。話ならここで頼む」


「……ほんと?」


「当たり前だろ。早く要件を言ってくれないか。時間がない」


 まったく女ってやつはすぐにこうだ。

 いやまあ突然林の中に連れ込む男が頭おかしいことは自覚してますけども。

 あかりの友達はいまだに俺を警戒しながらも話し始める。


「あんたあかりに何したの? 昨日からあかりの様子がおかしいんだけど。今日だって、なんかあたしに塩対応っていうか……シカトするし」


「あー……」


 あかりの呪詛を思い出す。

 間違いなく関係はあるだろうけど、どう説明したものか。


「そうだ、屋上で何かあったんでしょ。あかりの弱みでも握ってるわけ? そうでなきゃあかりがあたしをシカトするわけない」


「何もなかったわけじゃないけど弱みなんて握ってないよ」


「なにかあったのは認めるんだ」


 やべ、選択肢ミスった。早くロードしないと……。

 そういえばこれ現実じゃん。

 やり直しがきかないとかクソゲーもいいとこだ。

 逃げても地の果てまで追いかけてきそうな彼女の気迫に気圧されて、俺は観念して口を開く。


「告白されたんだ。お前たちの罰ゲームで」


「それは知ってるって。その後のことを聞いてるの。なんであんたたちはゲーセンにいたわけ? それも腕なんて組んで」


「俺が聞きたいよ。あかりの面目のためにやりたくもない罰ゲームに付き合ってやったのに、なんかそのまま恋人になっちゃってさ」


「そんなの、信じられるわけ……」


 その時、俺のポケットのスマホが鳴る。

 俺は即座に取り出すと、名前を確認する。


「待て、あかりだ」


 3コール以内に出ないとなにをされるかわからない。

 俺はあかりの友達に待ったの合図を見せて急いで電話に出る。


「あ、あかり? どうしたの?」


『ごめん清太、ちょっと先輩に呼ばれてて。今から行くから校門で待っててくれない?』


 なんか一緒に帰ることがすでに決定しているような言い方だな……。

 あかりの友達を見る。

 訝しげに俺を見る彼女。俺があかりと電話してることが不満か。

 思い返せば彼女はあかりの友達の中でも特に仲が良かった気がする。

 親友ってやつだろうか。

 彼女にしてみれば、大切な友達が変な男に誑かされて、あまつさえ自分が蔑ろにされているように感じているのかもしれない。


 彼女は俺を疑っているし恨んでいる。

 でも大切な人が狂ってしまったという認識においては共通しているのも事実だ。


「……あーごめん、一緒に帰るとは思わなかったから先に学校出ちゃった。今は巷で話題の喫茶店にいてさ、コーヒー飲んだら帰るから今日はちょっと」


『え、そうなの? どこ?』


「画像送るよ」


 俺は先日一人で行った喫茶店のケーキの写真を偽装のために送る。

 誰に見せるわけでもないのに映える写真を溜めていた甲斐があった。

 これであかりは完全に騙されるだろう。


『あ、そこ知ってる。へー、その喫茶店オープンテラスできたんだ』


「は? いや写真で見てわかるだろ。店内に決まってるじゃん」


『店内なの? あれ? おかしいな……ならどうして鳥の鳴き声が聞こえるの』


 ハッとして近くの木を見上げる。

 枝の上で小鳥が元気に鳴いていた。

 しまった。あかりの聴覚を侮っていた。

 こんなことならいっそ電話を無視した方がよかったと後悔するけど、すでに手遅れだ。


『ねえ、清太……今どこにいるの』


 あかりの抑揚のない声を聞いて、俺は反射的に電話を切ってしまう。

 その直後、再び電話がかかる。

 俺は震える手でスマホの電源を落とすと、そっとポケットにしまってあかりの友達に目を向ける。


「場所、変えようか」


「う、うん」

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