第4話 幼馴染はすでに曇っていました
「ねえ、あそこに行きましょ!」
「ああ、うん」
あかりは俺の腕を引いてゲームセンターを目指す。
屋上からずっと腕組み状態だ。
当然ながら学校の連中には穴が開くほどガン見された。
公開処刑もいいところである。
明日から嫌がらせとかされたらどうしよう……。
あかりは俺のことが好きだと思っていたけど、こんな手の込んだ仕込みから罰ゲーム宣言とか悪意の塊じゃないか。
本気で俺の精神を木っ端微塵に破壊しにきてるだろ。この女、絶対泣かす……!
「ねえ! UFOキャッチャーがあるわよ!」
「うん、ゲーセンだからね」
当たり前だね。
小さなことでも世紀の大発見もかくやといった反応を見せるあかり。
幼馴染が幸せならオーケーです。
でもちょっと子どもっぽいから静かにしような? 君いろいろ目立つんだよ。
「この子、可愛い」
「ん? あー……」
あかりが指すぬいぐるみを見る。
なにかの爬虫類だった。
え、可愛い?
まあデフォルメされてるし、見ようによっては可愛いか。
キモカワってやつだろう。女子ってそういうの好きだよね。
「うん、かわいいね!」
「でしょ!?」
俺知ってんだ。女子との会話は全肯定マシーンなれば間違いないって。
あかりは楽しそうに俺の腕に胸を押し潰して顔を近づけてくる。
は、早く罰ゲームでしたと言ってくれ! 取り返しのつかないことになっても知らんぞ!
「私この子持って帰るわ!」
「あかりってこういうの得意だっけ」
「やったことないけど、私なら取れるわよ!」
「そんな簡単に取れるものじゃないよ。こういうのはテクニックがあるんだ」
俺だって中学生の頃からなけなしのお小遣いを叩いて鍛錬を積んだ。
あかりはどうせ取れないだろうから、3回くらいやらせて俺が格好良くとってやるのもいいかもしれない。おっと、惚れるなよ?
「取れたわ!」
「は?」
一発で取りやがった。
なにこの女、全能かよ。弱点がなさすぎる。
完璧人間はモテないんだぞ。
ツンデレ属性で辛うじて人の姿を留めている悲しい怪物に見えてきた。
「んふふー」
ご満悦な様子でぬいぐるみを抱えるあかり。
両手で抱いてもいいんだよ。
二人でゲームセンターを回って一通り遊ぶ。
なんだか本当にデートをしている気分になる。
あかりがなぜここまでデレデレキャラを演じているのか理由は定かではないが、ここまでくると感嘆するほかない。
こいつその気になれば学校中の男子を即オチさせる才能持ってるわ。俺が幼馴染じゃなかったら死んでた。
ゲームセンターを出る頃にはいい時間だった。
「あ、もうこんな時間ね」
「……そうだね」
さて、恋人ごっこを切り上げるタイミングとしてはちょうどいいだろう。
俺はあかりの言葉を待つ。
しかしいつまで経っても俺の望んだ言葉は出てこない。もしかして本当にこのまま解散するつもりか?
「あれ? あかりじゃん!」
その時、人混みの向こうからあかりの友達が声をかけてきた。
罰ゲームに参加していた奴だ。
屋上で姿が見えないと思っていたら、こんなところで遊び呆けていたのか。
あかりの友達は俺の顔を見ると急に爆笑する。
「やっぱ用事あるって追い返したくせに、ちゃっかり引っ掛けてんじゃん!」
ビクリとあかりの体が震えるのがわかった。
これだけ密着しているから当然だが。
「恋人のフリとか流石に意地悪すぎじゃない? ウケるけど」
ウケねーよ。こちとらヒヤヒヤしっぱなしだわ。
とはいえ想定外だがようやく恋人ごっこは終わりらしい。
これであかりも一緒になって高笑いして、ゲラゲラゲラゲラと二人して俺を囲んでくれれば仕返し甲斐があるというものだ。
前フリも兼ねて騙された哀れな平凡高校生を演じるか。
「あ、あかり……恋人のフリって、なに?」
「…………」
「俺のこと、騙したの? 好きっていうのも嘘だったの?」
「…………」
俯いて沈黙するあかり。
身体は小刻みに震えている。笑いを堪えているのだろうか。
さあ罰ゲームと言え! 言うんだ!
「……かく……とが…………して……」
「ん?」
なんか聞こえる。
俺はあかりの顔に耳を近づけてみる。
「……想い続けたと思ってるのいつも失敗ばかりでダメだと思ってたけどオーケーもらえて嬉しかったのに余計なこと言って清太を不安にさせて私の気持ちまで嘘だと思われたらどうしてくれるの殺すわ絶対殺す私の清太を奪う奴はみんなころ――」
おっっっっっっも!!
ゲキ重じゃん!
いつの間にかツンデレからヤンデレにジョブチェンジしてやがる!
欲しくないからそういう曇り!
「えー? どうしたのあかり?」
あかりの独り言が聞こえていない友達が気さくに声をかけてくる。
やばいってこれどうすんだオイオイオイ、死んだわこいつ。
ヤンデレの対処法ってどうすればいいんだ。アニソンの歌詞しか頭に浮かんでこない。俺は浮気なんてしてないのに!
「あかりー、ねえってば」
「さ、触るな!」
手を伸ばしてきた友達を遠ざける。
近づくな、死ぬぞ……。
早乙女あかりはやると言ったらやる女だ。殺すとか口走っちゃってる今、友達を近づけるわけにはいかない。
「はあ? なに?」
俺を睨んでくる友達。
くそ、能天気な奴め。そもそもお前たちがあかりにこんな罰ゲームを押しつけなければきっと多分あかりはツンデレのままだったんだ!
これから俺はヤンデレ巨乳ツインテール美少女の幼馴染と付き合うことになるんだぞ。人生の損失だ。
「……清太?」
あかりが虚な目で俺を見上げてくる。
「違うの清太。私はね」
「わかってる。わかってるから。帰ろう。お前の精神状態おかしいよ」
俺は強引にあかりの腕を引いて帰路につく。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
背後からあかりの友達が叫ぶ。
やめてくれよ……。もうキャパオーバーだから。
延々と何か言ってくる友達の声を無視して、俺はあかりを無事に家まで送り届けることに成功する。
そのあと脱衣所で服を脱いだら腕に痣ができてた。ウケる。
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