加害者側の気持ちも斟酌して

  『加害者側の気持ちも斟酌して』


 「…普段の振る舞いからもう少し鈍感かと思ったんだがな」

 紅潮とも蒼白ともつかない顔色を浮かべながら浜辺に打ち上げられた海豚の様に弱々しく息をする彼を見下ろしながら呟いた。

 「…アンタがそうやって人の尊厳を言葉で弄ぶ趣味が有るのは知ってたさ」

 羞恥の極みに死んでしまいたいと言わんばかりの表情で睨み上げてくる。


 散々に弄り倒した直後であり、経験の差も言わずもがな

 「三擦り半でイッちまったのがそんなに悔しいものかね」

 持久戦タイプの自分には寧ろ鋭敏な肢体は羨むべき対象なのだが。

 「しょ、しょうがないよ!兄やん上手だから!」

 「そ、そうね…素人の私から見ても分かる程の手管だったもの」

 手解きを受けた事で彼我の実力差を一部でも感じ取ったらしい少女らがフォローに入るが…男の尊厳と言う観点から言えば逆効果にしかならんだろう。

 「…もうおムコに行けない」

 それ見た事か。


 ___


 「で、誰かさんの仕上げは後日に回すとして」

 振り返って目を合わせると最後の一人は大仰に肩を跳ねさせた。

 「…大丈夫かよ、お嬢?」

 せめてもの心の準備にと彼に先鋒を努めて貰ったのだが、どうも褥の生々しさに大分当てられている様に思えてならない。 

 「…正直、面食らっている事は否定できないわ」

 隣で心配そうに見つめる少女が励ます様に手を取り肩を抱いた。

 「でも、ここで私だけ逃げようなんて…それこそ私たちが陥り掛けた独善と裏切りにも劣る行為だと理解もしている心算よ」

 いや…そんな物と天秤に掛けるほど抵抗が有ると言われた加害者側の気持ちも斟酌して欲しいんだが。

 「何を言ってるのかしらこの好色漢は、花を散らす役得に悦びを隠そうともしていない癖に」

 お、それ言っちゃうか。

 「『提案を飲んだのは私達』、其れは否定しません」

 肩に添えられた手をそっと下ろして私の方へとにじり寄る。

 「だからこそ、提案者に相応しい振る舞いを貴方に求めます」


 「…具体的には?」

 真剣な眼差しに茶化す気も毛頭無くなった私はただ続きを促した。

 「簡単な事よ」

 それだけを返すとお嬢は飛び込むようにして私の懐に身を寄せた。


 「変に伊達男ぶらないで、そのままの貴方で私達を愛すと誓いなさい」

 凛とした、ともすれば冷徹とすら受け取れる声色とは裏腹に、彼女の顔は懐炉にも勝る熱を私の胸に与えていた。


 「はっ、お願いする立場にしちゃあ随分無茶な注文をくれやがりますこと」

 「それも、今から三人同時によ」

 「…何言ってんのオマエ」

 「むり、二人に見られながら一対一なんて絶対に無理よ…聞かないなら貴方をこの場で⚪︎して死体の上で腰を振る方が余程マシだわ」

 「あ…兄やん、その声のトーンは多分いいんちょ本気だよ」

 「…お前らの良き友人で居続ける自信がこの数十秒でだいぶ失われたんだが」

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