第12話 事件勃発

次の日、ギルドに向かうとメアリーさんが俺をじぃ〜と見つめて、目が合った。

じぃ〜じぃ〜

なんだか照れくさい。


「ちょっとダイチ君、大変なのよ」

メアリーさんは俺の左手をグッと力強く握りしめ、ギルドを飛び出した。

ちょい動揺したが何となく分かった。


(朝っぱらから人妻と駆け落ちかい。そう言うのは普通夜やるもんじゃないの?きっとマスターと喧嘩でもしたんだろう)

「何かあなた変な事考えてない?」


メアリーさんに手を引かれ村の門を出ると、50mくらい先で朝っぱらから20人くらい人が集まりガヤガヤしていた。


「どうしたもんかのぅ?」

「何故こんな所に突然」

「何かの祟りかのぅ?」

「土竜の仕業じゃきっと」

「こう言うのを巷ではミステリー事件と言うらしいぞ!?」

村人A〜Eは口々に呟いている。


人垣をかき分け中に入ると、子供達A〜Dがやんややんやと大騒ぎ。

「これ、蹴っ飛ばしても壊れないぞ」

「ここに潜って戦争ごっこしようぜ」

「ここに木の枝敷いて土被せたら面白くね?」

「オレここに秘密基地作りたい」


そこには1×1mの土壁やら1×1m深さ50cmの穴が乱雑に散らばっていた。


「ダイチ君はこれ見てどう推理する?」

「メアリーさん。これは難事件です。おそらく迷宮入りしてしまうのでは!?」冷や汗が流れ掌もしっとりしてきた。


「そう?ならここは私に任せて。この中に犯人が居ます」

「え〜誰じゃ、誰じゃ、わしではないぞ」

村人達が騒ぎ出した。

「この自称名探偵メアリーに掛かれば、犯人なんてまるっと、ズバッとお見通しよ。犯人は子供よ」


「え〜オレたち関係ないし、なぁ皆んな知らないよな?こんなの自分で作れたら、村の広場に秘密基地作るもん。ブーブー」

子供達からメアリーさんはブーイングされた。


「待って、子供と言っても身体が子供とは言ってないわ。身体は大人でも精神が子供で、お調子者がこの中に一人だけ居るわ」

村人A「え〜わしはお調子者だが、40過ぎだし流石にこんな迷惑掛ける程、アホでは無いぞ」


グサッグサッグサ、お調子者、アホ、精神が子供、なんだか胸が痛い。


「犯人は昨日レベルアップして浮かれていたのよ。MP回復して多分スキップでもしながらルンルン♪気分で村に帰って来た。村の近くまで来たら安心して、魔法の練習で土魔法を連発したのよね。ダ・イ・チ・君」


「ご明察恐れ入りました」俺は膝を着き両手をくっつけて差し出した。

「はい、は〜い。と言う訳で犯人は確保したわ。皆んな解散よ。子供達も村に戻って広場で遊びなさい」


「え〜、もっとここで遊びたい。ブーブーブー」再びメアリーさんは子供達からブーイングをくらった。

俺はメアリーさんに連れられ、再びギルドに戻った。


ギルドに着くと、奥の丸いテーブルに座らせられた。

「いつから僕が犯人だと分かったんですか?」


「そんなもん朝、村人が騒ぎ始めて一度見に行った瞬間よ。ピピーンと来たわ。今までこんな事件は無かったし、先ず疑われるのは新参者の。あなた昨日八面鳥仕留めたり、がっぽり稼いでウキウキだったじゃない。『おまけにレベルアップしましたよ。テヘ』なんて言ってたし。クス」


「あ、あぁ確かに浮かれてました」

「まあ、でも土魔法使えるのは知らなかったから、現場に連れて行って様子をみたのよ。そしたら、あなた目が上向いてキョロキョロ目が泳いだから確信したわ」


「僕はどうしたら良いんでしょうか?」

「今日中とまでは言わないわ。スコップとハンマー貸して上げるから、2〜3日中に元通りにしなさい。術者がダイチ君なんだから、ディスペルの魔法使えれば簡単に直るかもね!?」

「ディスペルですか、使った事ないですね」


メアリーさんが倉庫からスコップとハンマーを取り出し「はい、これで頑張ってね」と言われた。

それらを担いでトボトボ現場に向かって歩いた。

現場に着くと早速ディスペルを試してみたが、成功しなかった。


「スコップとハンマーじゃ時間掛かりそう」なんてブツブツ呟いた。もしかしたらと思い、今度は土壁に触れて唱えてみたら土壁が崩れた。

「やった〜成功したよ」


穴の方も穴に入らなくても、穴の空いた空間に手を翳して唱えたら成功した。


ダイチはディスペルを覚えた。


午後は薬草探しに行きたいので、MPを残し作業を中断してギルドに戻った。


「メアリーさんディスペル成功しました」

「そう、良かったわね。でも何でスコップとか担いで帰って来たの?インベントリに収納すればいいのにね」

「あ、色々考え事してたんで忘れてました。テヘ。未だ半分しか終わってませんが、午後は薬草探しに行きたいので良いですか?」

「勿論良いわよ。2〜3日中にやってくれれば」


「いらっしゃ〜い。本日は何をお探しで?」

「ゆがけって有ります?あとメモ用紙とペン」

「有りますよ。ちょっと待って下さいね」


クリケットさんがゆがけ2枚とメモ用紙と羽ペン2本持って来てくれた。

「あ、すいません。この右利きでは無く、ゆがけは左利き用が欲しいです」

「そんな珍しいの有りませんよ。…あ、ちょっと待って下さい」店の奥に行って何やらゴソゴソ探している。


「これどうですか?」

「あ〜イイ感じですね。まだ皮が硬いがサイズは合います」


「それは良かった。5年前に何枚か仕入れた時に混じってまして、中々売れないから倉庫にしまってたんです。本当は3000ギルですが2500ギルでいいですよ」


「このメモ用紙と羽ペンは幾らですか?」

「メモ用紙は50枚綴りで、こっちのザラっとしたのが3000ギル、こっちのサラっとしたのが5500ギルで、羽ペンはインク込みで2000ギルと3000ギルだよ」


「どう違うんですか?」

「3000ギルの方は紙質が落ちるけど、伝票とか使い捨てな感じで一般的な物。5500ギルの方は上質で書き残した書類を長く保管出来るよ。この間買って貰った本はこっちの材質だよ。羽ペンは単なる羽の素材で価格に差が出ただけだよ」

「それじゃ両方とも安い方で良いです。前から気になっていたんですが、その腰のバッグは何ですか?」


「流石坊ちゃん良い所に目がいきますね。これはマジックバッグ。こうやってベルトに通して置けば、ポーチみたいに落ちないしスラれない。私は主に貴重品や高価な商品を入れてます。これは生活魔法が使える魔道具の指輪。ちょっと試してみますか?」


「え、良いんですか?高価そうなのに。僕はクリーンとライト使えますよ」

「試して貰えば買ってくれるかも知れないし良いんですよ。それじゃイグナイトとヒートの指輪をはめて魔力を流してみて下さい」

大きめの指輪だったが魔力を流すと縮んでピッタリはまった。

「イグナイト!」お、指先から少し炎が出た。

「ヒート!」あれ?何も感じない。


「両手で膝や腰に手を当ててもう一度やって見てください」

両手を腰に当ててヒートを唱えたら、じんわり温かく感じる。

「お、成功しました。魔道具って凄いんですね。お幾らですか?」


「両方とも11万ギルです。この私が使ってるマジックバッグは30〜40万ギルですね」

「たたたた、たっか〜」


「そうでも無いですよ。指輪は個人差有りますが、半年から1〜2年使ってると指輪無しでも生活魔法が使えるようになります。そしたら中古でもお店で6〜7万ギルで買い取ってくれますからね。私の使ってるマジックバッグは容量一番少なくて2㎥ですけどね」

「2㎥ってどの位ですか?」


「立法メートルは縦、横、高さが1mの正方形の箱をイメージして下さい。それが2つ分ですよ。中級のマジックバッグなんて多分80〜100万ギルしますからね。まあ私はそれがどの位の容量かは知りませんが。ハハハ」


「流石にそんな大金持ってないので、この3つだけ買います」

「メモ用紙3000、羽ペン2000、ゆがけ2500で合計7500ギルです。毎度あり」


俺はこの間測って貰った身体測定値をメモ用紙に写させて貰い、雑貨屋さんを後にした。

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