第2話 フクロウとイヌ

すっかり桜の木が衣替えをしたらしい。

こういう清々しい日は、木漏れ日にあたり、公園でいろんな声や音を聞きながら寝るのが心地いい。

なんとなくだが、お天道さんに寝顔は見られたくない。


ふと目が覚めたとき、木陰に少し窶れたイヌが入ってきた。


「起こしたかい、邪魔して悪いね。」

「いいんだよ、こうして珍しい方と話ができる。」

そう言って、2つほど低い枝に移動した。


「じいさん、こんなところで休んでいていいのか?あの少年と遊んでいたんだろう?」

「もう老いぼれなもんでな、見た目より体力がないのさ。」

「だからあんたは紐に繋がれてないのか。」

「この公園にいる間は、いつもこうさ。現役の頃からな。」

「信用されてるんだな。」

「信用っていうのとは、少し違うかもしれんが。」

「忠誠心ってやつか?」

「そう表現するやつもおるが、単に家族というだけだ。」

「家族ねえ…。」

それから、私とイヌのじいさんは、しばらく何も言わず、公園で遊ぶ少年と父親を眺めていた。


じいさんが重い腰を上げたから、少年と遊びに行くのかと思った、が、顎を乗せていた前足を組み替えただけらしい。

だから私は、気づいた時にはじいさんにこう聞いていた。

「行かないのか。」

「あの子にとっては、父親と遊ぶ時間のほうが、むしろ貴重なのさ。」

「大人だねえ。」

「ふふ。ただの、じじいさ。」

そう言いながら、じいさんは半分寝ている。


西日がさしてきたので、少し影の方に移動した時、じいさんが口を開いた。

「光があるところには、影がある。」

「光が大きければ、影も大きい。」

「私ら家族には影がない。」

「光もないということか?少なくとも、あの少年と父親を見てる限り、そうではないだろう。」

「その理屈が通用しないのが家族ってやつなんだろうな。」

「影を生まない光…ね。」


少年がイヌのじいさんに向かって手を振っている。

「あの子が生まれ、家族が増えた。それで気づいたんだよ。」

「人間の言う、愛ってやつか?」

「私は言葉に詳しくないが、そう呼ぶやつもいるよ。」


次に思ったことを聞こうとしたとき、少年の父親がじいさんに紐をつけていた。

じいさんは、その紐を嬉しそうに持った少年と、その父親と帰っていった。


1匹と2人の間に、紐は必要ないと見える。


もう少し聞きたいことがあった。

それが頭の中をぐるぐる巡っているうちに、そのまま日が暮れるまで寝てしまった。





____________________________


*20200722一部修正

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