第3話 フクロウとミツバチ

「今日は元気そうだな、お月さんや。」

春の嵐は仕事を終えたらしい。久しぶりに静かな夜だ。


「あなたは毎日ここでお月さまとお話しされてるの?」

私の隣に、小さなミツバチが腰かけた。


「お月さんは毎日顔出してくれるわけじゃないんだよ。雲たちがいなくて、二人きりになるのは久々ってもんさ。」

「あら、お邪魔して、ごめんなさいね。」

「いいのさ、夏の楽団が仕事を始めるまで、まだ時間がある。」

「じゃあ少しご一緒しようかしら。」


「君、働きバチさんだろう。仕事はいいのかい?」

「働きバチと言われても、起きてる間ずっと仕事しているわけじゃないのよ。」

「なるほど、休憩あっての仕事というわけか。」

「そう、仕事あっての休憩よ。」

「仲間にどやされないか?」

「大丈夫よ、皆それぞれ見えないところでサボっているものよ。」

「賢い働き方だな。」

「でしょ。」


「君は何のために仕事をしている?」

「どうかしらね、考えたことなかったわ。」

「それで仕事は楽しいかい?」

「案外楽しいものよ、職場では同僚と他愛もない話をして、外回りに行けばお花のいい香り。」


「…」

「くだらない?」

「いいや、そうやって組織っていうのは成り立つんだろうね。」

「ソシキって?」

「君たちのようなものさ、女王バチさんってのがいるんだろう。」

「ええ、とても強い方よ。」

「君たちは、女王バチさんのために働くのか?」

「それも少し違うわね。女王様も、女王様のお世話係も、巣作り係も、蜜集め係も、ただの役割よ。」

「誰が偉いとか、そういうことじゃないわけだな。」

「そうね。考えてみれば、女王様は私たちに偉そうにしたことはないわ。」


一つ高いところにある枝に飛び移ると、少しだけ風が吹いた。

「君たちは、いい関係だな。この世ではきっと珍しい。なあ、お月さんや。」

「お月さまは、この世のすべてをご存じなのかしら。」

ミツバチも同じ枝に飛び乗った。

「僕たちよりは広く見えているだろうよ。」

「お月さまは女王様で、お星さまは私たちみたいね。」

「そうかもしれないなあ。君たちの国も、夜空も一緒かもしれない。」


「そろそろ戻ろうかしら。」

「休憩も、度が過ぎると同僚にどやされるぞ。」

「ふふ、そうね、早く帰らなくちゃ。」

そう言って飛び立った背中は、どうも嬉しそうだった。



それから数日して、夏の楽団が仕事を始めた。

「この心地いい音楽を指揮しているのは誰だろうか。」







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*20200723一部修正

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