閑話その1「子供たちには聞かせられない裏話」


「それでそれでパパどうなっちゃったの?」


「ああ、パパはその後にお腹空いて逃げ出すんだよ」


 今、俺の膝に乗っかているのは娘の璃々奈りりなだ。ちなみに、この子は先ほどから話題に出ているルリとの娘で顔はソックリだった。


「ほら璃々奈りりな、次は雷姫らきちゃんの番よ」


「でもママぁ……わかった」


 そう言いながら母親のルリに抱っこされて今度はユリ姉さんとの子の雷姫と交代してもらった。五分毎の交代制らしい。俺の休み時間も一時間しか無いからな。


「ありがと、りりちゃん、パパ……」


「おいで、よしよし」


 雷姫は俺の義理の姉の由梨花姉さんとの娘で双子の妹だ。兄は陸也で今も俺の足にくっ付いている。甘えん坊なところはベッドの中でのユリ姉さんに似ていると不謹慎な事を思ってしまう。


「それでパパが向こうの世界のげせんな者共をせーばいした方法は何ですの~?」


 少し前に膝から降ろされたルフィナがニコニコしながら聞いて来る。二年前にグレスタードに旅行してから逞しくなったように思う。弟が出来てお姉ちゃんになったからかもしれない。


「そういえば亜断アダンは?」


「もう寝てますよ」


 モニカに言われ執務室の備え付けベッドを見ると四人の俺の子達が寝息を立てて静かに寝ていた。セリカとの息子のアダンを除くと那結果との二人目の子の零士れいじ、ユリ姉さんとの一番下の娘の海奏うみかそしてエリ姉さんとの子の戦梨せんりだ。


「それよりパパの話のつづき~、あとパパの夢の話は何で秘密なの?」


 そう言ってルリとの息子で璃々奈の弟の湧利ゆうりが文句を言い出した。当然ながら自分の母親が父親を高校時代イジメてましたなんて教えられないから夢の話は全部カットだ。他にも子供たちの教育に悪い所も全カットしている。


「それはな夢の中の試練は一人で立ち向かわなくては勇者になれないからだ、そして他の人に言ったら勇者じゃ居られないんだぞ?」


「ふ~ん、そうなんだ」


「ああ、そうさ湧利……夢の中身を話すのは勇者失格なんだぞ?」


 ああ、俺は今、自分の息子にテキトーな嘘を付いてます。何年したらバレるんだろうかと俺はルリとモニカを見るがルリは目をそらすし、モニカは苦笑していた。


「そ、そうよ湧利、パパのイウトオリヨ~」


 ルリは顔面蒼白だが昔のようにイジけたり重くなったりはしないで耐えていた。もう二児の母親で立派な妻の彼女は今は立ち直っているから問題無いのだろう。


(カイ、今夜はいっぱい慰めてね……)


(分かった。今夜は頑張ろう)


 まだ直ってないみたいだ。勇者コールで甘えて来たルリは早くも精神崩壊一歩手前だった。今夜がルリの番で良かったと思う。実は俺は毎日帰る部屋が違う。嫁七人と子供達が生活してる部屋を毎週、代わる代わる訪問する生活をしている。


「なんか有ったの? たっだいま~!!」


「「ママっ!!」」


 このタイミングで部屋に入って来たのは島の防衛担当にして俺の元義姉、そして妻の秋山由梨花だった。恰好は島の制服だが、上から着ている緑色のマントのようなローブは厨二病全開で魔女っぽく見える。


「ろく、ラキただいま、それと快利も……あれ? うみは?」


「海奏はベッドで寝てるよ、お疲れ様ユリ姉さん」


 そして用意していた弁当をモニカが渡すと喜んで食べ始めた。やはり結界の維持は大変なんだろう。最近やって来た魔族の者や一部こちらに移住した者らの力を借りていても完璧では無い。やはり例のシステムの完成を急がせなくていけない。




「それで何してたの?」


「パパの昔の話聞いてた~」


 雷姫はすぐに俺から離れると母親のユリ姉さんの方に甘えていた。陸也も同じで悲しかったが代わりに今は那結果との娘の零未れいみが膝の上に座っている。他の子たちが急かすが俺はユリ姉さんが固まったのを見逃さなかった。


「か、快利?」


「流れでね……ユリ姉さん途中から勇者コール切っちゃったし」


「マリンに任せて来ちゃったから……コール切ってたのよ」


 まあ、島内なら安全だしセーフティも何重にもかかっているユリ姉さんなら安心だけど少し危険だとは思う。


「気を付けてね、ユリ姉さんは要なんだからさ」


「分かってるわよ、フラッシュ繋いで」


『かしこまりました、主よ』


 そう言うと雷姫の近くで声がした。それはユリ姉さんの眷属の一体であるフラッシュドラゴンだ。今は俺たちの娘である雷姫たちの護衛をメインにしてもらっている。


(そんで、何を話したのよ!!)


(大丈夫だから、今はルリのターンだし)


 そう言うと露骨に安心した顔をするユリ姉さんと顔色が悪くなるルリを見て今夜は覚悟しないといけないと思った。子供達が寝静まった後が大変だ。


「パパ? なぜかパパの過去はデータの閲覧もできないので聞きたいです」


「そうか、じゃあ俺が腹減って、ひもじい思いをしている所からだな」


 俺が言うと子供たちは「ひもじい?」と意味すら分かってないようだが妻達は四人とも複雑な表情だ。でも子供たちに隠してもある程度は本当の事を話す必要が有る。それに俺自身としても例のプロジェクト前に心の整理をしたいと思っていた。だから話そうと思う……俺の過去を。

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