第6話「勇者にもサバイバル能力が必要な理由は一つ」


「あの、俺の……飯」


「勇者に食わせる物なんて無いわよ!!」


 ついにフラフラの俺はメイドにですら突き飛ばされて袋叩きに有っていた。どうやら昨日、今日とボコボコにした兵士の恋人や家族達だったらしい。


「ぐっ、そう……か」


「とっとと出てけ!!」


 そして部屋に追い立てられた。これは団長らに言うだけ無駄だろう。鍋や皿が飛んで来るし俺の荷物は盗まれるしで最悪だ。俺は笑われたりしながら出て行くと部屋に戻らず街中をフラフラしていたが当時の王国は食糧事情が切迫していた。


「金は有っても……ダメ、か」


 王や近衛から万が一にと渡されていたお金で外で食べようにも戦時中で食料は配給制でダメだった。だから考えたのは森の中でキノコとか拾ったり魔法が使えるから動物を捕まえようと考えた。


「これ、食えるのかな?」


 森に来た俺は惨めに毒キノコを焼いて食べていた。ただ幸いにも死に至る毒を持ったキノコは王都周辺には自生しておらず腹を壊したり、眩暈がしただけで何とかなった。それでも腹は減っていた。


「ちくしょう、クソ……」


 そんな生活が一週間続いた。俺の動きはフラフラで精彩を欠き袋叩きにされた。城内でも第三騎士団に関わる者はもちろん、それ以外の人間からも迫害された。後で判明するのだが当時の王城内は反国王派が多く、その中心が第三騎士団だった。


「おらおら!! 魔法使えても動けないんじゃ、大したことねえな!!」


「くっ、まだだ……」


「おらっ!! 飯を恵んで下さい兵士長様って言えば!! 残飯くらい用意するように言ってやるよ!!」


「ぐっ……そう、か……」


 俺は木刀を支えに眩暈と空腹状態のまま立ち上がる。常にボロボロで味方は居ない。そうか、やっぱり異世界でも元の世界と同じように味方は誰も居ない。今日も一方的に殴られ魔法で攻撃された。


「そこまで!! では勇者殿、回復を」


 回復や治療はしてくれるが百騎長も飯はくれない。この人は中立だと思っていたのになと思うと俺は見つからないように部屋を出て森で狩りの真似事をしていた。


「よし、キノコは三つか……後は」


 だが、次の瞬間、俺は殺気を感じ飛びのいた。そして背後を見て驚いた。羽の生えた大型の蛇が三体も居た。


「なん……だ、コイツら?」


 後で知るのだが、コイツらは蛇モドキという種類のモンスターで蛇が魔物化した生物だった。しかし俺には違う物に見えていた。


「蛇って……食用も……有る、よな?」


 そして木刀だけで蛇を倒すと俺はバーンで火を付けて食べようと試みる。一匹目は黒焦げでダメだ。二匹は生でアウト……そして良い火加減が分かった三匹目を食べようとした時だった。


「死ぬぞ、お前……」


「は? 俺は、腹、減ってんだよ……」


 見ると目の前には男らしき人間がいた。らしきと言う理由は口元をマフラーのような物で隠し目には大型のゴーグルを付け頭は帽子で鼻先くらいしか見えない変な恰好だからだ。声からして男だと思って俺は答えていた。


「そうか、なら食え」


「言われなくても!!」


 そして俺は食って数分後に酷い腹痛に襲われ食べた物を全部吐き出しゲロって気を失った。




「ううっ、ここ……は?」


「起きたか?」


 見ると先ほどの男がいた。室内なのに恰好はそのままで不思議だったが本人いわく顔が焼け爛れ人に顔を見せたくないらしい。


「看病、してくれたん、ですか?」


「ああ、魔物を食べるとは魔力を食うのと同義だ。ガキでも知ってる」


 そうだったのか。でも魔力は回復してない。いつも使い切ったら朝まで自身の魔力は回復しないから訓練では手を抜き、夜のために魔力を温存していたから自分の回復速度は知っている。


「すいません、俺は……」


「事情を聞いてやる」


 そこで俺は全く関係無い目の前の男に今までの話を全て話していた。異世界転移して来た以外にも向こうの元の世界での話もだ。不思議だったのは元の世界での話をした時に目の前の男は酷く怒っていたことだ。


「そんな、感じで……」


「子供が一人でフラフラしていたのは、それが原因か」


「え? は、はい……」


 俺は今の言葉に違和感を覚えたが頷いておいた。そしてら目の前の男は美味そうな匂いのスープの皿を渡して来たからだ。


「飲め、体が温まる」


「はい!! うまっ……はぐっ、ふぐっ!! おいじぃ……よ……ううっ」


 スープ一杯で俺はボロボロ泣いていた。美味しかった。とにかく腹に染み渡るキチンとした料理で一週間振りのまともな食べ物だった。


「ううっ、ぐっ……」


「泣くな、快利」


「うっ、だって……これ、ターメリック入っててカレーっぽいから美味くて」


 なぜか男は背を向けて肩を震わせていた。そして俺に今いる小屋は自由に使えと言われ明日、同じ時間にまた来て狩りを教えると言われた。俺は疑うことも一切しないで頷くと明日が楽しみになった。




「来ました!!」


 翌日も訓練を手抜きして殴られ魔法を撃ちこまれ負けた振りをし、体力を温存して夜になると城を抜け出し森の中の小屋に向かった。


「来たか、では今日からお前に狩りや山での生き方を教えてやろう」


「はい!! あの、その……名前聞いてもいいですか?」


 俺は昨日すっかり聞きそびれていた恩人に名前を聞いた。その恩人の男は一瞬迷った後にしゃがれ声で名乗った。


「そうか、ふむ、わしは、いや俺はエイス、元猟師だ」


「そうですか、エイスさん、昨日はありがとうございました!!」


 俺がこの名前を思い出すのは、かなり後の話なのだが正体は……次の閑話で話すとしよう。でも俺はこの人のおかげで色々と覚えることが出来た。


「まずは獲物だ、全てスキルで覚えられる、だが経験を積まねばスキルは成長しない……今日から一週間で教えてやる」


「はい!!」


 そして、この日から一週間で俺の狩猟スキルは+4にまで成長することになる。他にも探知系それに感応系などのスキルを普通に覚えて行った。


「お前は昨日、魔物を食べて食当たりをした。キチンとした手順を取らなければ魔物は食べる事は出来んのだ」


 それ以外にも寄生虫やらの危険性や血抜きをしていないと魔力も浄化されず危険なのだが当時の俺は知らず、何度も腹を壊して苦しんだが結果的にスキル『頑丈』が鍛えられ状態異常にも強くなっていた。


「なるほど、初めて知りました」


「まずは食べなければ始まらんからな、体は資本だ」


「はいっ!!」


 俺の返事に何を思ったのかフッと息が漏れた気がしたが口元も目すら見えないから、それが笑みを浮かべていたなんて俺は分からなかった。それからの一週間は俺のかけがえのない財産になった。


「エイスさん!! やりました!」


「ふむ、弓の扱いも悪くないな」


 狩猟の基本は弓で魔術で強化した矢で射ることで威力や正確性を増す事が出来る。この世界でのスキルとは文字通りの経験して得られるモノで、元の世界と違う点は必ず同じ効果として発揮されることだ。


「だから同じスキルという言葉でも、こっちの方が実用性有りますね」


「なるほど、そのような観点が……スキルはこの世界では、それが普通だ、覚えたら一生ものだからな」


 同じ努力でも毎回結果が違う物と同じ物、どちらが良いかは人それぞれだが一定の効果を得られ認められる効果の方が俺は好きだ。少しだけ、この世界に好感持ち始めた所だった。そして一週間はあっという間だった。


「ではな快利、俺は行くぞ」


「はい!! お世話になりました!!」


「お前はどうする、俺と来るか?」


 その言葉に俺は凄く揺れた。このまま猟師さんに付いて行って生きるのも悪くないと思う。だけど俺の答えはノーだった。


「はい……と言いたいですけど借りを返してからです、それに面倒ですけど約束しちゃったんで、俺、勇者になったんで」


「っ!? そ、そうか……では頑張れよ」


 その言葉を最後に俺の一番最初の師匠の猟師さんとは二度と会う事が無かった。

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