第7話「やっと勇者っぽいチートが判明しました!!」


「ヤラレタ~」


 俺は適度に兵士を数十人倒した後にわざと負けた振りをし倒れた。猟師さんと別れて一ヶ月弱、間も無く異世界に来てから二ヵ月が経つ。あれから俺はスキルを次々と修得し今は自分の状態確認できるスキル『身分確認ステータス』を覚えた。


「強かったのは一瞬だったな」


「まあ、これでも強くなったんじゃねえのか」


「ギャハハハハ!!」


 俺は実験していた。このユインズ百騎長の部下の百人そして副団長の直属の百人そして団長の直属の五十人の中で誰が強いのか、第三騎士団をギャフンと言わすための作戦を考えていた。


 この二ヵ月のローテで二週間ごとに俺の相手はチェンジするのが判明していた。最初はユインズの隊、そして次はガイマー副団長で団長の隊は警邏ばかりで一度も俺の特訓には出て来なかった。


 そして俺は次の週の演習で仕掛ける予定だ。猟師さんと約束したし何より王様との約束も有る。騙されたけど俺を特訓して強くしようとしているのは本気みたいだし何より俺は待っていた。


(この身分確認ステータスで見た俺のスキル『???』これだ)


 俺が気になったEX『???』となっているスキル。これを確認すべきだと直感が告げていた。そしてスキルが判明したのは正にその夜だった。魔物を狩っていた時に出たスキルで名前が……。


「えっと『勇者の心技体』だと?」


 問題はスキルの効果だった。勇者の心技体、その効果が凄まじかった。効果が三つ、一つ目が全ての行動における経験値が千倍になる、二つ目、あらゆる魔法・魔術・スキルの習得が可能となる。そして三つ目が身体能力の大幅向上だった。


 しかし三点目の能力はこの時点で実感できなかった。実はこれは段階的に開放されるもので最終的には片手でドラゴンを放り投げたり、全長数百メートルの邪神の腕を押しのけたりできるようになるのだが今はまだ弱かった。


「じゃあ来週仕掛けますか……」


 こうして俺は第三騎士団に対しての、ざまぁを敢行する事を決めた。その夜の獲物は近くを徘徊していたブラック・バジリスクを捕まえて串焼きだ。それを小屋で食べながら俺は計画を綿密に立てた。




「さて、まずは十人」


「そろそろ終わりっ――――「んな訳無いだろ今日は本気だ!!」


 俺は今日こそ本気だった。木刀で未だに戦闘準備の出来ていない一人を昏倒させ呆けている一人の腹に手を当てゼロ距離で炎の初級魔法を二連射する。


「ぐああああああ!?」


「なっ!? お前っ、いきなっ――――「卑怯? お前らが言えるかよ!!」


 俺は相手が完全に口を開く前に木刀で殴って黙らせる。剣術スキル+5になった一閃で兵士たちを斬り付け昏倒させた。今日は副団長の隊の百人だが森の中で鍛え更に魔物を狩り食べていた事で戦う以外のレベルアップも俺はしていた。


「くっ、こいつ魔力も強くなってる、それに腹も減って雑魚なはず……」


「あのクソメイド共のまずい飯より自分で作った方がうまいんだよ!!」


 俺は今までの鬱憤を晴らすため魔法と剣技で奴らを容赦なく叩き潰し始める。魔力も神気も転移して来た直後の何倍にも増えている。昨日までは様子見で演技していたが必要も無いし今日から全力で行く。


「ぐぁっ!?」


「あのクソメイド共が作ったゴミ飯で!! 動けるんだろ雑魚が!!」


 俺は木刀でさらに三人を昏倒させ近付いて来た二人に至近距離で炎と氷の初級魔法を鎧の隙間に叩きつける。これは猟師のエイスさんの教えで弓の戦い方を覚えた際に弱点を狙う事も覚えた。


「なっ!? 鎧の上からでも魔法が!?」


「上からじゃ……ねえよ!!」


 そして反対側の相手に飛び掛かるようにして蹴りを入れた。そして木刀を投げつけ昏倒させトドメの一撃で殴り飛ばす。これで二十人以上を倒した事になる。だが、まだ敵は多いから俺は振り向いて残りの震えている兵士たちを睨み付けた。


「どうなってんだ……昨日まで雑魚だったのに」


「さあて、まだまだ行くぞ!!」


 そして目の前には顔面蒼白になったガイマー副団長だけが残された。俺は全力で戦い数十分をかけて残りの団員八十人以上を戦闘不能にしていた。実はこの時に勇者スキルが他にも発動していたのだが隠しスキルで俺は気付いていなかった。


「バカな……まだ三週間も経ってないぞ」


「だから? 副団長……少し疲れたけど楽しませてくれよ?」


 かなり疲労は溜まっていたけど何とかなるレベルなのも確かだった。そして俺は副団長との一騎打ちに入り十秒で蹴りを付けていた。


「うっ……」


「大した事は無かったな」


 ガイマー副団長は無駄にデップリ太っていたがパワー系という訳でも無く普通のオッサンだった。正直に言うと町の八百屋の店長の方が似合ってそうな人間だった。


「こ、これはっ!? どういうことだ!?」


 そして想定通りに来たのはユインズ百騎長の部隊だった。さてと、では宣言させてもらおうかと俺は不敵笑みを浮かべて宣言した。


「勇者の本気だ、じゃあ今日はこれで失礼する百騎長?」


 そして俺は意気揚々と自室では無く森の小屋に戻っていた。安全なのはここだけだと俺は周囲に罠を張り巡らせ椅子に腰かけ眠りについた。そして一ヶ月が経った頃には完全に立場は逆転していた。




「どうした? 団長、今日は何を教えてくれるんだ?」


 俺は団長である男を踏みつけて団長の椅子に座り言った。正直に言うと少し調子に乗っていた。でも仕方ないだろう? 俺が転移して来て二ヵ月と少し経ったが俺は既に第三騎士団を二度ほど全滅させていたからだ。


「そ、それは……」


「団長、それにガイマーにユインズさんさぁ、模擬戦またやるか?」


 一ヵ月前まで騎士団と俺の関係性は狩る者と獲物だった。しかし今は違う圧倒的に俺が強い。全員に一度は勝ったし各部隊を百名単位で叩き潰し団長麾下の五十名も簡単に倒した。正直もう飽きていたのだが口ごもる団長と副団長を置いて口を開いた者がいた。


「勇者様、良いでしょうか?」


「何だユインズ百騎長?」


 今だ心が折れていないように見える男がいた。それがユインズ百騎長と彼の部下たち数十名弱だ。もっとも俺との戦力差は歴然で何をしようにも手遅れだ。この時の俺はそう思っていた。


「明日、我が第三騎士団の総力をかけて勇者様と戦いたく思います」


「それはつまり?」


「はっ、我が騎士団の予備役含め三百名弱全てと勇者さま一人で戦って頂きたく思います!! いかがですか?」


 それを言われて俺は即座に「良いだろう」と言って。部屋を出て小屋に戻って溜息を付いて言った。


「やっちまったぁ……どう考えても無理だろ」


 冷静に考えて無理だ。絶対に無理だ。今まで百人単位を倒すのに魔力と神気そして体力は少し余裕が有る程度だった。逆に言えば二百、三百人単位なんて戦える訳が無い。例え倒せても二百弱だ。つまりユインズの狙いは……。


「消耗戦だ……あ~あ、やらかしたな……」


 ユインズは俺が魔力切れを起こしたシーンを何度か見ていたし剣技も同じくらいだ。つまり俺を消耗させて追い込めばチャンスは有る事が分かっている。だから俺の魔力切れを狙って戦う気なのだろう。


「クッソ……やっと落ち着いて来たのに……」


 そんな悪態を付いたけど俺は取りあえず食べる物を食べ準備を始めた。少しでも継戦能力を上げるための作戦や装備それに準備を一通り終えると後は寝る事にした。寝るのが一番の回復方法なのは異世界でも変わらないからだ。




「じゃあ始めるか」


「お願いします、勇者様」


 そして俺は目の前に整列したフル武装の三百名の騎士を見て覚悟を決めた。俺の装備は軽装で練習用だが奴らの装備は完全装備だ。しかも武器も模擬戦の物じゃなくて本物の刃が入った物となっている。


る気満々じゃねえか……)


「勇者様、開始の合図を」


「ああ、じゃあ始め!!」


 言った瞬間、目の前の隊列が割け後方に既に構えた兵士や騎士たちが居た。魔法の発射体勢は整っていた。


「撃てえええええええええええええ!!」


 副団長が叫んでビクッとした俺は最初こそ焦ったが、すぐに冷静に対処できた。スキル『読み通しスキャン』で魔法の軌道を読みながら一目散に逃げ出していた。いくら勇者でも今の時点では物量には勝てません!!

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