第5話「実は俺って基本スペックは高めなんです」
◇
翌朝、三日目は何も夢を見る事なく目を覚ます。フラフラしながら扉を開けると目の前には兵士がいた。
「目ぇ覚めたか、団長たちが呼んでるから来いガキ」
ついに勇者とすら呼ばれなくなったと思いながら俺は無言で頷くと体の中に何かの存在を自覚する。これが魔力と呼ばれる物なのだが当時、俺は知らなかった。
「早くしろよガキがよ」
何人かに囲まれて肩をパンチされたりしたが無視して歩く。案内されたのは初日の詰所で団長ら三人がいた。俺が入室すると全員が殺気の籠った目で俺を見て来て俺はビビッて一歩引いたけど後ろのドアは閉まっていた。
「勇者殿、魔法を習得されたとか?」
「にわかには信じられないのですが、嘘では有りませんか?」
団長と副団長が俺を睨み付けて言うが俺は震えた声で否と言った。そして俺は当たり前のことを言う。
「お、俺は異世界から来ただけだ、昨日まで魔法なんて知らなかった」
「ですが変だ、前代未聞です」
「正直に言った方が身のためです」
俺の言葉に団長と副団長が言うが俺は少し調子に乗っていた。それに異世界生活も五日目にして頭にも来ていた。イジメにも耐え、家での酷い扱いにも耐えて来た俺だけど今回は無理だ。だって生きるか死ぬかなんだから。
「証拠は有るんですか? そもそも言いがかりだ」
「は?」
だから自然と口が動いていた。こう見えてもイジメは受けていたけど元来の俺は口が立つ方だった。爺ちゃんに言いたい事は言える時に言えと教えられた。俺が唯一尊敬する人だったが去年、亡くなってしまった。
「根拠も無いのに大の大人が青二才に何言ってんのって感じで気分わりいわ」
「へ?」
団長が目を丸くしていたが百騎長は顔を真っ赤にして俺を睨んで来て恐いです。でも今さら引き下がる訳には行かない。
「エビデンス、ああ、そう言えば、この世界って識字率低いってことは学力も低い人間しか居ないんですよね? 俺みたいな普通の人間でも知識チート出来そうだわ」
「勇者よ大概に――――「ガキ一人に寄ってたかってイジメしといて何偉そうに言ってんだよ、騎士モドキさん?」
そして俺はドヤ顔で言った瞬間、殴り飛ばされ気を失った。うん、調子乗り過ぎたみたいです。そして次に目覚めた場所はいつもの演習場だった。
◇
「頭の大変すばらしい勇者殿がお前らを指導してくれるらしい!! なんと勇者殿は二日で魔法を習得した大天才だ!!」
すっげえブーイングが聞こえる。しかも今までとは違ってユインズ百騎長も不満を隠さず宣言した。そして三日目の地獄の鬼ごっこの前にルールが追加された。
「今日より勇者様を実戦形式で鍛えて行く、刃の無い剣での攻撃と探知系のスキルの使用を許可、その他、生活系の魔術も使用を許す!!」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」
「本気でおもてなしをしてやれ!!」
そして地獄が再び始まる。そう誰もが思ったことだろう。だが今回は違った。
「バカ、な……」
「つええ……」
「なんで、こいつ剣が」
俺は渡された剣を断り木刀を頼んだ。手に馴染んでるし俺はこっちの方が使い勝手が良いのは五日前の近衛の人達との模擬戦で分かっていたからだ。
「俺、一応は剣道二段なんで、それに義姉に鍛えられてるから体も物理には強いんで、てかイジメ受けても大丈夫なくらいは頑丈なんで」
「何だケンドーとは?」
「俺の元の世界の剣術ですよ?」
俺が木刀を構えて簡単に三人を倒すと兵士たちは引き下がった。こんなの俺の義理の姉の絵梨花姉さんより全然遅い。それにコイツらは近衛の騎士と違って剣を振り回してるだけで、言わば鉄の棒を振り回して鈍器のように扱っていた。
「おい!! 誰か感知系スキルを覚えている者!! 勇者を確認しろ!!」
「ユインズ百騎長!! こいつ剣術スキルが+3で!! 格闘術スキルも同じで他のスキルも軒並みたけえ!?」
何やら俺を探っているみたいだが単純にコイツらは弱い。昨日までは魔法を使って縛っていたから分からなかったが基本の動きが剣術ではなく喧嘩だ。これなら今は廃れている八相の構えや下段の構えでも対応できそうなくらいの弱さだった。
「勉強も武道もエリ姉さんに鍛えられてたんで……」
俺がルリや他の人間からのイジメを耐えられていたのは偏に、エリ姉さんの鍛錬の賜物だ。それにエリ姉さんの詰め込み式スパルタ教育のせいで進学校でも真ん中の成績を保てていた。
「向こうの世界の学生は皆こうなのか……」
「俺は少し鍛えてるだけで部活をキチンとやっている人間や勉強頑張ってる奴には負けますよ……でも、棒を振り回している奴ら程度になら戦える!!」
そして俺の逆襲が始まった。剣を使っていいのなら俺は木刀を振り回しながら困った時は魔法を使って怯ませて更に途中で木刀に水や風の魔法を付与できるのに気付いてからは、それで戦いまくった。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう無理、限界……」
「い、いえ……昨日とは雲泥の差です」
俺は回復魔法を受けながらあらためて周囲を見ると倒れた兵士が五十人近くいた。俺も反撃を受けてボロボロだったが今日はスッキリした。
「なんか途中で剣に魔法くっ付けられたし、それも良かったのかも」
「なっ!? まさか魔術を使われたのか!?」
その百騎長の言葉でさらに場は静まった。
◇
「いや魔法を剣にエンチャントしただけで……」
「それを魔術というのです!!」
「えぇ~、魔法と魔術が分かれてる系か、めんど」
よく有るゲームだと魔法か魔術のどっちかで別れてなんてあんまり無いよな。ラノベとかでは、どっちかが上とか下とか有りそうだけど……。
「とにかく異常だ、魔法は二日で魔術を使いスキルは自動で発動しているなんて」
お? これはもしかしてチートですかね? いやぁ、武器も能力も無いからおかしいと思ったんですよ。なるほどステータスが底上げされてるのか。でも変だ……俺は魔法を使えるようになった以外は普通だ。
「それは凄いんすか?」
「凄い……とは思われます、前例が無いので」
当時の俺が凄まじかったと分かるのは三ヵ月後なのだが当時は自分の力がチートというよりもバフが少しかかってるんだろうな程度にしか考えて無かった。だが俺はそんな事を考える間も無く次の問題が襲い掛かって来たからだ。
「ま、明日からも特訓、お願いしま~す」
そう言って悠々と帰ってクソマズ夕食を摂ると俺は眠った。もっとも眠ってからが地獄だった。その夜はイジメの時の夢だったからだ。悪夢だった……だが本当の悪夢は起きてからも続いていた。
「あれ? 俺のスマホは? それにパジャマも無い……」
昨日は疲れて眠ってパジャマに着替えることすらしてなかった。それに何より命の次に大事な俺のスマホが無い。あの中には大事な思い出が有るのに……。そして朝起きて食堂に行くと俺の朝食は無かった。
「あのぉ、朝ご飯ですけど」
「あ~忙しい、忙しい」
第三騎士団付きのメイドさんに言うけどガン無視された。これは俺のイジメを受けた経験上分かる。あれだ、イジメに関わりたくないけど助けたら自分がターゲッティングされるから無視するアレだ。
「あの!!」
「勇者さま~? どうしたんだ~? ナンパか?」
俺は比較的弱そうなオバサンメイドに声をかけると例の兵士長が遮るように妨害してくる。まるで俺が悪役みたいな構図だ。
「いや、朝ご飯……」
「もう時間は終わってんだよ、ぐっすり寝てるからじゃねえですかい?」
「あぁ、そうか……なら仕方ないな」
朝食時間なんて無かっただろとツッコミを入れるが俺は、そのまま訓練に連れて行かれて空腹のまま戦わされた。昨日より明らかに精彩を欠いた状態で俺は魔法を使い続け空腹のまま倒れた。
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