第3話「異世界でもイジメって有るんですね」


「えっと……ここか……」


 俺は翌日、指定された場所へ係の者に案内された。もちろん案内は近衛の面々ではなく城のメイドだ。だが俺が先日まで世話になっていたメイドとは服が違った。


「はい、こちらで第三騎士団の詰め所です」


 昨日までお世話になっていたのは黒のメイド服で一般人がイメージする普通のメイドとなら、先ほどから案内するメイドは服装もグレーで粗末だが何より所作などが昨日のメイドより雑だった。


「どうも」

(なんつ~か三流メイドみたいな、素人に毛が生えた感じだ)


 だが俺はこっちの方が性に合う。昨日までは高級フレンチの店にいた感じだが今は町の中華料理屋にいる感じだ。そして扉を開けて入った俺の予想は正しかった。はっきり言って騎士というより鎧を着た、ならず者にしか見えない連中だ。


「あのぉ~、すいません」


「あぁん? おっと、もしかして勇者さまですか~?」


「はぁ、そう……ですが、陛下に言われて来たのですが」


 俺の言葉を聞いた第三騎士団の者の動きは二者に別れた。一つは値踏みするように視線を向ける者、もう一つはニヤニヤして見てくる者だ。共通するのは俺を観察している感じで嫌な視線だった。


「そうですかい、俺はぁ、ジタンカ……兵士長でさぁ」


「秋山快利、一応は勇者です」


「分かりやした、勇者さまさまを、ごあんな~い」


 う~ん、こいつ好きになれないな、柄が悪いし元の世界で俺をイジメてた奴の一人に似ている……気がする。そして俺の勘は正しかったと後で知る事になる。


「それで……俺の特訓ってのは?」


「知らねえんで、団長んとこに案内しますぜ」


 俺を完全に下に見ているような目付きで学校を思い出す。そして脳裏に過ぎる彼女のことも……だけど今、この世界では関係無い。上の者に会えば事態は変わると俺は信じて疑わなかった。




「だんちょ~、連れて来やしたぜ」


「分かった」


 そして奥の扉を開けると三人の人間がいた。中央の身なりの良い男、おそらく第三騎士団の団長が彼なのだろうと推測する。


「ど、どうも」


「よく来られたな勇者殿」


 あまり覇気を感じられない人だ。むしろ両サイドの人の方が威厳や気迫を感じられる……というよりも殺気みたいなものを出してる気がするのは気のせいだろうか。


「いえいえ、陛下にここに来いとしか言われてないんですが?」


「ええ、今回は勇者殿の修行をとのことで、ここにいる副団長のガイマーと百騎長のユインズが務めさせて頂きます。詳しくは二人に」


 それだけ言うと俺たちを追い出すように外にシッシッと手でやるのは正直どうかと思う。行儀が悪いというよりも純粋に態度が悪過ぎだろ。一応は、この世界の大人だろコイツと思ったが、こんなの序の口だった。


「勇者殿、私はガイマー、第三騎士団の副団長です。この書をお読み下さい」


 俺が副団長から手紙を受け取ると百騎長が俺を睨んでいる。俺が何したってんだと思うが今は王様からの手紙を読む事にした。


『快利へ、この手紙を読んでいる頃、お前は混乱しているだろう。だから手紙でこらからお前の訓練内容を教えておく。その名『魔法鬼ごっこ‐デッド・オア・デス‐』という。これは極めて単純で魔力を感じるための訓練だ。その身に弱い魔法を受け続け修得するのだ。早ければ一ヶ月もすれば魔法が使えるようになるはずだ。昔、わたしは戦場で似たような状況で一部の魔法を習得した。お前なら出来ると私は信じている。頑張ってくれ勇者よ……そなただけが頼みの綱だ。』


 それを読んで俺は混乱した。いや、だって魔法を受けろって正気なのかと色々と疑問だらけだ。


「これを、本当に?」


「ええ、そうです。百騎長、説明を」


 ここで初めてユインズ百騎長が口を開いた。向こうは指示書を読んで驚いていた。今のリアクションだと彼は知らなかったらしい。


「勇者殿、あなたは良いのか?」


「はい」


「返事が軽いな……君は学生と聞く、戦えるのか?」


 それは当然だろう覚悟が違うし向こうからしたら俺は素人だ。先ほどから百騎長が驚いた顔と同じくらい不快そうな顔をしている原因もそれだろう。イジメを受けてたから人の顔色は常に見ていて分かるんだ。


「戦えるようになるために僕は、いえ俺は連れて来られたのかと……」


「了解した。では我が隊が指導する……付いて来られよ」


 俺の回答に一応は納得したようで外に案内された。付いて行くと彼の指揮する中隊へと案内され、そのまま王城付近の森に俺は案内された。一緒に帯同するのは百騎長の部隊だ。


「それでは勇者殿、この訓練ですが三ヶ月を予定しています。その際に魔法を習得して頂き同時に各種の戦場での必須な知識を習得して頂く、字は読めますか?」


「はい、読めますけど?」


 本当に日本語で良かったよ、こっちの文字が……なんか都合が良い気がするけど気にするだけ損だ。そもそも今から訓練で考えてる暇は無い。


「それは重畳、さすがは勇者殿……では始めましょう」


「でも、俺は魔法は……」


「ええ、かなり荒っぽいですが覚悟を!!」


 そして俺はいきなり電撃系の魔法を打ち込まれた。それを理解した時には俺は一撃で吹き飛ばされていた。


「がはっ!? ぐっ……ああっ……うっ」


「陛下の指示で死なない程度に魔法を体験して頂くというものでして……ですから今から我らの下級魔法を受けて頂く」


 その言葉が始まりだった。そこから俺の地獄のような訓練いや、訓練という名のイジメが始まったんだ。




「えっ、待っ――――「行くぜええええ勇者さまよおおお!!」


 熱い、痺れる、冷たい、痛い、苦しい……これが魔法か。体がズタズタでキツい。火傷に裂傷は、まだ軽い方で一番キツかったのは何度も宙に舞い飛ばされた後に叩き落とされる落下ダメージだった。


「な、んで……こっ、んな……」


「わりいなぁ、勇者様よぉ!! 俺らも命令でなぁ!!」


 明らかにガラの悪い兵士が俺に炎の魔法を放つのを見た。そして同時に思い出す。ああ、こういう顔してる奴いた。俺を高校でイジメて奴らだ。


「がはっ、うぐっ……ああっ、やめっ――――」


「勇者殿、起きて下さい」


 痛みで気絶した俺を起こす声が聞こえて目を覚ますと俺は数分ほど意識を失っていたらしい。倒れた俺を無理やり立たせると百騎長は口を開いた。


「えっ、ああ……ユイン、ズさん?」


「回復魔法と医療魔術を施しました、これを日が暮れるまでして頂きます、回復は私や数名で回しますのでお願いします」


「え? 何を……」


 言ってる意味が分からない。でも痛みは消えていた。鎧とか装備はボロボロだけど怪我は回復していたし疲労も戻っていて魔法で治されたのを理解した。


「なお、陛下の命令では逃げても大丈夫です。この演習場の森の中だけですが……では、お前たち、勇者殿をもてなせ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」」


 そして俺は真っ先に逃げ出した。必死に逃げる。だけど俺の背中に固い氷の玉が直撃する。嫌な感触と激痛が走るけど逃げるしか俺には出来ない。


「さあ、楽しい勇者狩りの始まりだ~!!」


「行くぜお前ら~!!」


 この時になって俺は気付いた。騙された……こんなふざけた修行が有る訳が無い。俺は必死になって追跡してくる五人の兵士から逃げ出す。だが無理だった。なぜなら奴らの言葉通り、それは狩りだったからだ。


「はぁ、はぁ、ぐあっ!?」


「勇者様よぉ、もっと逃げてくれなきゃダメだろうが!!」


 俺の体を電撃と炎が貫く、ボロボロにされた俺は死なない程度に痛めつけられ最初の広場に運ばれ回復されるとまだ追い回される。それを繰り返されている内に俺は意識が朦朧としたまま逃げ延びるためだけに不様に走った。


「ああ、こっちでも俺は……ルリ……俺は」


 何度目かの意識が途切れて回復された時に俺はイジメの主犯でかつての想い人の名前を呟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る