第2話「歓迎されたはいいけど絶望的でした」


 そんな感じで俺は王様ことグレスタード国王と邂逅した。ちなみに俺はこの人の名がフリードリヒ・グレスタード=センジェルトだと知ったのは随分と後だった。王自身に名前ではなく王と呼ぶように言われ俺は『王様』と呼ぶことにした。


「どうだった歓迎の宴は?」


「はい、色々と衝撃的でした」


 先ほど俺は歓迎の宴と呼ばれる王侯貴族を集めた宴に参加した。それにしても王様の息子さん、つまり王子様は二人とも金髪に碧眼で超絶イケメンだった。並んで紹介された時は恥ずかし過ぎて死にそうだったぜ。


「敬語などよい快利、お主と私の仲ではないか」


「分かりました……てか言うほど深い仲じゃないっすよね?」


「言うではないか……お前にこの国の命運を託した私とお前は言わば運命共同体。堅苦しいのは抜きにしようではないか」


 国王ってこんなフランクで良いんだろうか? もっと違うイメージが有ったけど気を遣わないで良いのは助かった。なんか話しやすいんだよな王様。


「にしても息子さんイケメンっすね」


「ふっ、私に似てな……もう一人、王子がいるのだが今は前線に出ている」


「前線て……王子様が戦場に出てるんすか!?」


 よく物語とかで王子が勇者やら凄腕の剣士っていう設定が有るけど実際は無いだろと俺は思っていたから驚いた。わざわざ王子様が危険な場所に行く理由なんて無いはずだと元の世界の頃から思ってた。


「ああ、名はケーニッヒ……全盛期の私と同じかそれ以上の強さを持っている」


「王子様が最前線て結構ヤバいんですね~」


 てか王様も元は勇者扱いだったらしい。しかし、それは十代から二十代の話で軽く三十年以上は前の話だそうだ。元勇者で王様て……どこのゲーム世界だよ。


「ああ、今日来れなかった四大侯爵のうちの二家の当主は別の前線を支えている。他にも各所の国境では辺境伯らが戦っているはずだよ」


「なら割と余裕っすね」


 辺境伯って知ってます!! 何か凄い強くて特別な地位の貴族ですよね。俺が向こうの世界で小説とかアニメになってたのを見たこと有るんですよ。そんな感想を持ったから余裕なんて言葉が出てしまった。


「ふっ……だがな快利よ、前線は約二日ごとに王都に向け後退しているのだ」


「は?」


 言葉の意味が一瞬分からなかった。王都ってのはここだよな。王様の名前の愛称の『フリッツ』を付けた名前で『フリッツランド・シティ』と言う。ここに二日ごとに後退……逃げて来てるって意味だ。


「恐らくは持って半年……そうなれば王都での籠城、決戦であろう……」


「その……王様、これって思ったよりピンチ?」


「そうだ、我が国の危機だ。だから快利……そなたを召喚したのだ」


 そりゃそうだ、じゃなきゃ俺を召喚しない……でも俺って実際のところは何が出来るんだろうか? 本当にただ呼ばれただけで能力も武器も何も無い。ただのイジメられっ子で弱くて情けない男それが俺、秋山快利だ。




「快利、状況は今言ったように最悪でな明日から訓練に入ってもらいたい」


「それは……戦闘の?」


「そうだ、な~に召喚された勇者なら魔法が使えないはずが無いだろうよ」


 そんな楽観的に言ってくれますけど俺、勇者って言っても向こうじゃ一般人だし正直に言うと自信なんて少しも有りません。


「そう言うものですか?」


「ああ、私が考案した訓練方法なら間違いなく、お前の能力は開花する」


 ここまで自信満々なら大丈夫かもしれない、な~んて安易に考えていた。だけど実際はそんなことは無かった。翌日から最初に王様と一緒に俺を迎えた騎士三人から戦闘の基礎訓練を受けていたのだが……。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 そりゃこうなるよ体育の成績は3だし体力は平均より少し上、あとは義理の姉に技の実験台にされていただけの高校生なんだから当然だろ。


「大丈夫ですか勇者様……」


「技能はそこそこ……体力が無いですな、こりゃ」


「いや、それは違う……徴兵した者よりは有るし動きは悪くない新兵並みだ」


 ちなみに三人衆がそれぞれ判断した通りで俺はグレスタード王国の一般人より体力は有るけど訓練を受けた者よりは劣っていた。

 後から分かるのだが当時は国力が弱っていた上に体作りはもちろん教育もまともに受けていない人間より現代日本で衣食住事足りていた俺の方が上なのは当然だった。


「それ……で、俺は……何を、するん、ですか、ね?」


「それですが……勇者様」


 俺を心配していた騎士カミルの口が重くなり同時に他の二人の騎士も困惑した表情をしていた。それで何となく理解した。


「ふぅ、ふぅ……いいよ何をするんだカミルさん?」


「私など呼び捨てで結構でございます勇者さま、その……陛下が考案された特訓方法を今朝渡されまして明日から実行せよと」


 そして概要を記したものだと書簡を渡された。しかも俺用らしく騎士たちには口頭で告げたらしい。中身はこうだ……明日より第三騎士団と自分が作り出した特訓方法で合同訓練をしてもらいたいという話だった。


「第三騎士団……陛下はなぜ……」


「なんかヤベー連中なの?」


「い、いえ……彼らの多くは平民出身で何かと陛下にも反発していて」


 カミルさんや他の二人の話では第三騎士団は四つある騎士団の中で最下位で予備兵力らしい。団長と副団長も名誉貴族つまりは元平民で規則も緩く城下の警邏や近隣の街の警備などがメインで戦場には第一、第二そして近衛騎士団より出撃は圧倒的に少ないそうだ。


「ちなみに我らは近衛から出向している身ででございます」


「ってことは貴族様なの三人とも」


「そうですね……と言っても我らは跡目を継げない三男以下ですが……それに勇者カイリ様、あなたは扱いが貴族なんかより上でございますよ?」


 そうだったのかよ……でもそうか選ばれし者で召喚されたんだから特別待遇なのか、言われてみればゲームとかでも扱いは特別だった。でも最初は棒とか鍋の蓋とかで魔王倒せとか言われるんだろうな……。


「マジ?」


「まじ? ああ、本当ですよ……それにしても陛下と同じで造語が多くてらっしゃいますね勇者様は……では次のレクチャーに参ります」


 その後、俺は戦闘訓練で剣術は基礎は問題無しと判断され魔法の基礎を教えられたのだが習得は出来なかった。そして俺は翌日から地獄を見ることになる。だが、この時はまだ楽観的に考えていたんだ。




「それにしても異世界生活も二日目だけど魔法とか使えないじゃん王様」


「そうか、ふふっ……まあ明日から始まる訓練でお前も使えるようになるさ」


 そんな風に笑う王様に俺は大丈夫なのかと不安でしかない。それにしても王様はなぜか俺と食事を一緒にと誘って来た。それが不思議だったが明日から王様は前線の視察に行くらしく、その話をしたかったそうだ。


「お前に付けていた近衛の者も私に帯同させる、お前の身柄は第三騎士団に任せる」


「ああ、カミルさんに聞きました。じゃあ少しの間お別れですか?」


「ふっ、そうなるな……次に会う時に成長を期待しているぞ?」

(快利よ、頑張るのだぞ……そうすればお前は本当の勇者になれるのだ)


 王様の視線が少し変だったのが気になったけど俺は、その晩ぐっすり眠った。だけど、これがこの世界で最後の安眠の出来た夜になるなんて思わなかった。俺はこれ以降の七年の間で一度も枕を高くして眠ることなんて出来なかったのだから……。

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