第一部『異世界転移一年目』
第1話「情けない俺は異世界転移してしまいました」
◇
昨日ベッドで寝て朝起きたら異世界だったなんて言われたら信じられるだろうか。俺は信じられなかったし起きたと同時にベッドの周りに鎧を着た屈強な兵士が囲んでいて寝巻のジャージ姿の俺は固まった。
「なっ、なんですかぁ……あなた達は」
見るからに茶髪や金髪に目の色まで緑やら青で日本人じゃない。そんな人間が鎧なんて着てるからドッキリとかイジメの延長線上だと思うのが普通だ。だって俺、現在進行形で学校でイジメられてるし……。
「こんな子供が……」
「だが王が……」
「とにかく話しかけてみよう」
どう見ても外国人なのに日本語めっちゃ上手いんですけど……どうなってるんだと考えて俺は気付いた。これは大学生である義理の姉のユリ姉さんの仕業だ。だって高校生が出来るような規模のドッキリじゃないと思う。
「あっ、えっと……」
最近は急に見た目が派手に変わってギャルっぽくなったから悪い友達が出来て頼んだのかもしれない。昔は優しくて俺の初恋だったとか過去を思い出している暇は無かった。様子を見ていた兵士の男が声をかけて来たからだ。
「勇者様、でしょうか?」
「はへ? お、俺は……」
「「「俺は?」」」
圧が凄い。特に三人衆の真ん中の人の背が有り得ないくらい大きい。身長190は絶対に越えてるから平均身長の俺の頭二つ分以上デカい。
「ちっ、違います……お、俺は秋山快利、ただの高校生です、えっと学生です」
俺が言った瞬間、静寂が広がる。そして三人は一斉に騒ぎ出した。
「おおっ!? ほ、本物だ!! 陛下の言う通りだ!!」
「ささっ、勇者様、隣の部屋で王がお待ちです」
「本当に成功したのか……これで我が国も」
「え? な、何で!? なんでえええええええ!?」
こうして俺は異世界の王国『グレスタード王国』へと召喚された。ジャージ姿のままスマホと充電器それと愛用の小型のショルダーバッグを掴むと三人の鎧を着た男たちに半ば強引に連行された。
◇
「勇者様、王の御前です、キチンと礼を取って頂きませんと」
「え? お、王って、いや……お、俺は」
俺の前には王様だと紹介された人がいた。五十代後半くらいのダンディなおじさんで宝石を付けた王冠も豪華なマントを羽織ってもいないが風格は有ると思う。どうしようとビクビクした俺は王様をチラリと見るが何と意外なことに向こうも驚いていて余計に混乱あする。
「なっ!? かいっ……いや……失礼、ふぅ、君の名を知りたい、良いかな?」
「えっと、その……俺は、いえ、じ、自分は秋山 快利……です」
「年は?」
「じゅ、十七、さい……です」
俺が言うと三人の兵士がザワザワし出すのを聞いて焦った。何かマズイことを言ったのだろうか。てかドッキリなら早くネタバラシしてくれ。風美でも姉さんでも誰でも良いから解放してくれ俺が何をしたって言うんだ。
「そうか、高校二年生か……ふむ聞いて欲しい快利よ」
「はっ、はい」(ま~だ続くんですか、この茶番!?)
目の前のダンディな王様は表情を改めると厳かに口を開いた。先ほどまでの動揺した顔とは違い真剣な表情で語り出すのはドッキリにしては凄い演技力だと感心した。だから俺は少しだけ真剣に聞いてみた。
「――――以上が我がグレスタード王国の現状だ。情けない話だが国土の半分は奴ら魔族の手に落ち、隣国や同盟国も同じか滅ぼされてしまった」
話を聞いて行くと割とよく聞くファンタジーな世界観で俺もアニメやゲームは人並み以上にやるから理解は出来た。ドッキリにしては出来過ぎてるよ。これは俺が特殊メイクしたモンスターみたいな仕掛け人に驚かされた所でネタバラシだな。
「なるほど大変ですね~」(ネタバラシはよして、驚いてやるから)
「ああ、大変なのだ。だから君を召喚したのだ勇者殿よ」
そう来たか。でも俺がゲームとかに詳しく無かったらどうする気だったんだ? いや、ルリ……じゃなくて今は風美なら俺の趣味は知ってるから、このおかしなドッキリも仕掛けられるな。
「そうですか……」
あいつとは中学までは親友で……俺はあの子の風美瑠理香のことが……いや、今はイジメを受けている側と首謀者側だ。もう昔のように戻れないんだ。そう思うと急に胸が痛くなって早くこの茶番を終わらせて欲しくなった。
「だから我らとしてはだな、心苦しいが君に……」
「良いですよ。勇者にでも何にでもなりますよ」(早くネタバラシしろよ)
そう言った瞬間、室内がざわざわし出す。目の前の王様は驚いたように目を丸くし、俺を連れて来た兵士は変な祈りのポーズみたいなのをしている。エキストラさん演技力スゲーなとか思ってしまう。
「おおっ、やはり我らが勇者は救世主になってくれるそうだ皆の者よ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」
この時、この瞬間に俺、秋山快利の運命は確定した。異世界転移先のグレスタード王国に勇者召喚され、そこで七年間も戦うことになるのが決定してしまった瞬間だった。
「ではまず勇者快利を迎える儀式と宴について国中に伝令を走らせる!! 貴族連盟や四大侯爵家にも使いの手配を!!」
「はっ!!」
王様が言うと三人は急いで部屋から駆け出した。そして室内には俺と王様の二人だけになった。不思議なのは俺を見る目がどこか懐かしく同時に何か別なものを見ているような感覚がしたことだ。
「快利、こちらのテラスに来てくれ」
「はいは~い」
俺はこの瞬間を一生忘れない、だって異世界転移したって初めて自覚した瞬間だったからだ。
◇
「こ、これって……」
王様に呼ばれ出たテラスから見た光景は凄まじかった。まずは空、そりゃ王城の最上階に近い位置だから高い場所に有る。だけど俺は全部セットや作り物だと思っていたから衝撃が大きかった。
「あそこが我がグレスタードの王都を守る『ガイズードの門』だ、中央に見える噴水のある広場は王都の泉、戦時中は飲み水はあそこで確保する、他には――――」
「あ、あの……ここって、本当に異世界?」
見た事も無いが中世のヨーロッパの都市はこんな感じと素人が想像するような光景が目の前に広がっていた。小さく人も見えるが皆、俺が見たこと無い古風な恰好で現実感が一気に増していき俺の背を冷や汗が伝う。
「異世界か、確かにお前から見たら異世界だな……快利」
「じゃあ、じゃあ俺って本当に異世界に来ちゃったのか……ウソだろ」
俺は腰を抜かしてテラスで座り込んだ。そんな俺を上から見下ろす王様は少しだけ厳めしい顔をして口を開く。
「どうした? 今さら実感がわいたのか?」
「そ、それは……でも夢かそれとも冗談かと思って、俺……家に」
だけど俺は「家に帰りたい」と言うことが出来なかった。祖父が死んでから心の拠り所の無かった俺は家に帰りたいなんて思ったことが無いからだ。母は元より父にも見捨てられ新しく出来た義母や義姉たちとも上手く行かず居場所なんて無かった。
「快利、いや勇者この国を、民を、平和を、どうかお前の手で守って欲しいのだ」
「で、でも俺は……ただの高校生で、情けないガキで……親友にも家族にも」
思い出すのは親友だと思っていた女の子の顔だが、それもどうでもよくなった。だって戻っても風美は昔みたいな親友じゃなくて今はイジメ側なのだから……。
「君が向こうの世界でどうだったかは知らない。だがここで、この世界で勇者として生きてみないか? 君にはその才能と強さが有ると私は確信しているのだ」
その言葉はなぜか俺の心の中にストンと入って来て俺は頷いていた。少なくとも向こうの世界より、こっちの世界の方が俺を必要としてくれる……そんな気がした。そしてこれが社畜勇者への第一歩になるなんて俺は思いもしなかった。
「こんな、こんな情けない俺で良ければ……やってみます」
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