転移先がブラックとか聞いてない!!――勇者になってもヌルゲーじゃありませんでした――

他津哉

エピローグから始まるプロローグ


※この作品は拙作『転移先がブラック過ぎたので帰ってきたらヌルゲーでした』の前日譚及び後日談を描いた外伝的作品で前提情報が本文内では少なく逆にネタバレが多数存在します。それでも大丈夫だよという方向けでのすのでご了承下さい。

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 社畜という言葉を知っているだろうか。よく聞くのはバイトやリーマンだったり、はたまたブラック企業だったりと聞く場面が色々あるだろうが実は他にも当てはまる人間がいたりするんだ。


「それが自治区長、裏では王様って呼ばれてる俺さ……」


 俺の名は秋山快利、職業は特別自治区の区長だ。ただ裏では治めている自治区ぶっちゃけ国なんだけど自治区と言い張ってる国の王、王様だ。俺は王様なのにブラックな訳だ。ところで王様と言えば何を思い浮かべる?


「でっかいベッドに寝転がって召使いが団扇うちわで扇いでくれたりとか、無駄に大きな晩餐会とか開いて年中パーリィとか思わないか?」


「思いませんね。早く書類に目を通して下さい後がつっかえてますので、ちなみに今日中に解決する案件は三十弱です快利」


 この世界で救世主になった俺にこんなことを言える人間は限られている。そんな彼女は自治区長の筆頭秘書の秋山那結果、俺の大事な妻の一人だ。


「わぁ~ったよ那結果……それで?」


「はい、我が国へ領海侵犯しやがった某国です。現在は由梨花さんがマリンさんと海上にて対応してますが面倒だから潰したいと……」


「てか、さっきから直接ユリ姉さんに言われてる、怪我人は出さないで欲しいんだけど……仕方ない、被害が出る前に呼び戻して海上の結界を展開しよう」


 この島が誕生し、その後イベドの呪いが残されていたことが判明し蔓延しないよう魔王イベド因子を封じ込めた戦いから十年以上の時が経過していた。色々とあったが面倒なこの土地の管理を任されたのは最終的に俺だった。


「分かりました、それと瑠理香とモニカが子供達のことで話が有るそうです」


「そ、そうか……ちなみに誰だ? さすがに全員は把握し切れてないんだけど……」


 そして五年前に正式に自治区として動き始めた時に一部グレスタード本国の法を導入し自治区内は一夫多妻制を許可、その逆も有りとした。更に警備部に所属するとある魔族の強い要望で同性婚も可能とし結果的にLGBTにまでも対応させていた。


「まったく……無計画に私達をポコポコ孕ませるからです、慧花さんが妊娠した際に次は計画的にと言いましたよね?」


「わ、悪かったって……だってルリが次は絶対って言うから後はそれがバレて今度はエリ姉さんとセリカに、後はズルズル全員と」


 俺は高校卒業後の事件の後に今の妻たち七人全員と正式に関係を持った。色々もめた結果、当初は誰とも結婚しないという方針で七人全員と事実婚という暴挙に出た俺だが気付けば当然のように子沢山になっていた。


「まあ、結果的に秋山王国いえ『七愁時因しっしゅうじいんグレスタード王国特別独立自治区』の区長ですから渡りに船でしたねハーレム作り放題ですから」


「俺はお前たち以外と結ばれる気は無い、お前らは特別だ」


 そして自治区内のあらゆる法整備をする際グレスタード本国と日本の法を織り込みつつ自治区設立のどさくさに紛れ、ハーレム関係の法も俺に優遇させる形で施行させたのは先ほど述べた通りだ。


「では隣国への対応はマリンさんに頼んでドカンと一発潰して頂き人命救助名目で人質として拘束し、たんまり賠償金カネを払わせましょう」


「ああ、それで頼む、てかユリ姉さん出ただけで逃げ出すと思うけどな」


「はい、SCEの緑の竜妃がいれば本島防衛は完璧ですので」


 SCE――――Seven Color's Empressとは俺の妻たち七名の総称だ。最終決戦時、世界規模の大災害を止めるため俺は救世主メサイア化をしたのだが、そのために必要な七名の総称を補佐官の一人、葦原補佐官と話していた時に決まった名称だ。


「ああ、じゃあユリ姉さんに連絡を――――」


 俺が指示を出そうとしたタイミングで政務室のドアが開く。魔術でロックされた部屋は許可された者と家族以外は開かないから犯人は絞れる。開いたドアを見ると入って来たのは小さな女の子だった。


「パパ~!!」


璃々奈りりな!! ここはママ達と一緒じゃないとダメだって話したろ?」


「先に来ただけだもん!! あ、那結果ママも、こんちには!!」


「ええ、こんちには璃々奈りりな、それであなたのお母さんは?」


湧利ゆうりと皆と……来た」


 すると開いた扉からゾロゾロと子供たちが入って来て、その後ろから動きやすい薄緑色のワンピースを着た茶髪の美女とメイド服を着た栗色の髪の美女の二人が入室した。ちなみに二人とも俺の妻だ。


璃々奈りりな!! 先に行かないでって……あ、カイ、そろそろお昼だからモニカとお弁当作って持って来たの!!」


「すいません、瑠理香と話していたら皆に聞かれてしまいまして、今日は絵梨花姉さんも由梨花姉さんもいないからと……」


 この部屋に十四人いる子達だが全員が俺と妻たちの子供だ。一人を除いて全員が今この場にいる。この子たちを教育するのは七人の妻たちだが俺の元義理の姉で今は妻の二人が主に躾担当だ。ルリやモニカは子供に甘いからな。


「ああ、ユリ姉さんなら五分くらいで戻ってくるよ」


「ママくりゅ~?」


「ああ海奏うみか戦梨せんりもおいで」


 ルリの両手を塞いでいるのは実はユリ姉さんとエリ姉さんとの子達で海奏うみかはユリ姉さんとの、戦梨せんりはエリ姉さんとの間の子で二人とも三歳になったばかりで俺の子の中では最年少だ。


「よしよし、那結果、慧花は本国か、残りの二人は?」


 二人を抱っこしながら落ちないように補助に浮遊の魔法をかけるのを忘れてはいけない。子育てにもコッソリ魔法を使えるのは元勇者の特権だ。


「はい、絵梨花さんとセリカは空見澤で帰りは夕方になるかと」


 現在この場に居ないのは残りの妻三人。行き先はいずれも転移魔術疑似ゲートの設置されている場所で、その視察をしてもらっている。


「母よ、先ほど慧花義母かあ様よりSIGNで連絡が有ったが?」


「そうですか零未れいみ、情報感謝します、本当ですね私の所にも来ていました」


「いえいえ、カインリヒ義兄にいさま不在の間は私が要ですので」


 席に着くとニコリともせず年齢不相応なやり取りをしたのは秋山零未、俺と那結果の娘で既に那結果が色々と教え込んでいる将来有望な俺の娘の一人だ。


「零未、那結果のフォロー助かった、エライぞ」


「はぁい!! お父様ぁ~!! 冷血な母より優秀な娘の私をこれからもご寵愛下さい、型遅れのプロトタイプよりも新型が一番です!!」


 そして俺の隣に来てニコニコ笑っているのは、いい性格していて将来が色んな意味で楽しみだ。誰に似たのやら裏表が激しいが……娘だから可愛い。


「はぁ、性格のプログラミングだけはミスりました。私のように愛くるしく適度にお茶目にならないのは問題ですね、五歳児らしからぬ言動も含め調整が必要です」


「まあまあ那結果、じゃあ、お昼にしよ、モニカ、皆のお弁当配ろ?」


 那結果の髪色が黒と白のアシンメトリーからオレンジとコバルトが加わり若干キレた所にルリが間に入って止めていて、モニカの方は他の子供たちの世話をしつつ弁当を配り出した。


「はい、ほら静かにしないと食後にパパと遊べませんよ? それにお弁当をしっかり食べないとモッタイないお化けも出て来ますからね?」


「とにかく皆で、いただきますしような?」


 俺が言うと全員が席に着いて「いただきます」と言って昼食会は始まった。ちなみに今日は土曜で上の子たちの学校は休みだ。


「パパ~!! お話!! お話!!」


流火凪ルフィナまたか? 昔の話なんて面白くないぞ」


 弁当を食べ終わると一番最初に俺の膝に乗って来たのは今は不在の妻の一人セリカとの娘の秋山ルフィナ。無邪気で天真爛漫で可愛い大事な娘だ。昔のセリカにもそっくりで実は炎系の魔法が既に使えたりする。


「では今度は本当に昔の話はいかがですか快利?」


「那結果……それって俺の黒歴史か?」


「はい、せっかくですので快利の勇者時代のお話を聞かせて下さい」


 それを那結果が言った瞬間に反応は二つに別れた。子供達は大盛り上がりで興味津々だ。反対に妻たち秋山瑠理香と秋山モニカの二人は複雑な表情をしていた。二人にはある程度キチンと話したが断片的にしか知らない話も多く気にはなっているのだろう。


「まあ、ちょうど良い……じゃあ昔の話、すこ~しだけ聞いてくれるか?」


 元気よく十四の返事が返って来て苦笑する。俺も十五人の子持ちになるなんて当時は思いもしなかった。今この場に居ないのは長男の華因利陽カインリヒだけで、今頃は慧花と一緒にグレスタード本国を視察中なはずだ。


「カイ、別に無理に話さなくても……」


「いいさルリ、じゃあ話して行こうかな……パパの昔話をさ」


 思い出すのは転移直後だ。学生時代、目の前で心配そうな顔をしている妻に罵詈雑言を浴びせられ学校に行くのが嫌だと思って翌朝起きると俺は異世界のグレスタード王国という国に異世界転移していた。それが地獄の七年間の始まりだった。

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