第4話 武器
花園と出会った俺は彼女に小屋の裏にあるアイテムボックスに連れていってもらった。
ここでいうのもなんだが、某サバイバルゲームの物資箱とものすごく似ている外観だった。
「これがそのアイテムボックスよ、私が見つけたのはこれで2つ目。もう一つは海沿いにあったからまた案内するわ」
「ありがとうな花園」
「あと、先に言っておくけど、何が出てくるかはもちろん運だし、同じ場所のボックスは一回だけしか利用できないらしいから忘れないでね」
確かにそうだろう。一人で何回も引けたらずっとその場所で待機するし、武器だって無限に確保し放題でほぼ無双状態になる。さすがの運営も公平性は保っているらしい。
「あと花園、お前はこれは引いたんだよな、どうやってやったらいいんだ?」
すると花園は少し呆れたような顔をして、
「あなたちゃんとルール読んだの?」
「いや、読む暇なんてねぇよ」
「はぁ、これだから世話の焼ける男は。いい?まずリュックに入っているよくわからない鍵あるでしょ?それを出して」
彼女に言われるがままに俺はリュックから鍵を出す。
「それをボックスにある鍵穴に挿して、そしたら鍵が開いて中から武器の名前とシルエットが描かれてるカードがあるからそれをあなたの持ってるスマホのアプリでアイテムって書かれてるやつを開いて読み取るの」
「ええっと、これを鍵穴に挿して中かにあるカードを取ると」
「なんかおじいちゃんみたいね」
「うるさいわ!」
カードにはライフルのようなシルエットが描かれており、その下に7.62mm ライフルと書かれていた。またよくわからないが星が三つもある。
「へぇ、すごいじゃん紫宮、それ一番レア度高いランクだよ。私の『分身』と同じ星三つ」
ここで俺はある不可解なことに気づいた。
「そうだよ、そもそもなんで花園の分身なんか作れるんだよ。現実ではあり得なくないか?」
すると、花園はふふっととてつもなくかわいい笑みを浮かべた。
「それができるのがこのスマホなんだよ?騙されたと思ってそのカードを端末に差し込んでアプリで読み取ってみて」
その通りにすると、急にスマホが神々しく光り始めた。
「えっ、何が起こってるんだよ!?」
「見てればわかる」
少し待ってみると、急にポンっと音がしたあと、さっきまでの光が一瞬で消え、そこから先ほどのカードに描かれてるシルエットと同じライフルが具現化され、地面に落ちた。
「どうなってやがんだよこのゲーム」
「そう、このゲームの凄さ。多分だけどこの技術はまだ世に出ていない。そんな素晴らしいものを私たちがいち早く使用できている。これってもはや奇跡としか言いようがないでしょ!ねぇ紫宮!」
なぜか彼女は嬉しそうに語ろうとしているが、俺はこの現象に恐怖を覚えていた。
(こんな人を簡単に殺すようなものが一瞬でしかもこんなにリアルに。こんなことをする奴らがこのゲームを仕切っているのか?嫌な予感しかしない)
俺は地面に落ちている銃を拾い上げる。まだわずかにだが雨が降っているため、もうすでに泥がついてしまってはいるが、ちゃんと色付けもされていてじんわり重い。
「なぁ花園、もしかして俺はこれを使ってこれから人を殺していかないといけないってことか?」
「何当たり前なこと言ってるのよ、当たり前じゃない。それに初めはものすごく罪悪感とか罪の意識とかあるけど、二日も経ったらだんだん薄れてきちゃった。それにこのSPIRAL GAME が終わったら当の本人の記憶がどうやら削除されるらしいの、何もかも全て。ここであったことが無かったことになるって」
「そうなのか、記憶が削除されるもしくは負けて死ぬかだから躊躇なく人を殺せる?飛んだゲームだな。それにお前はゲームが始まった当日にちゃっかり殺してるのかよ。それにびっくりだわ」
俺はいつのまにかこいつに殺されるのではないかという恐怖に襲われたが、今はこいつに殺意は無さそうに思える(多分)。
「まぁ殺したというか事故みたいな感じかもしれないけど。それに殺したのは私の友達というか元カレのクズ。私、そいつのこと好きじゃなかったし、身体しか求めてこない脳内腐ってるやつは死んで当然。だから、一緒に参加して崖から突き落としたの」
「マジ?」
「うん、海に沈んじゃったしちゃんと死体までは見れてないんだけど」
俺は今とんでもないようなことをたくさん聞いたような気がした。
「花園が殺したとかそれよりもお前は自分からこのゲームに参加したのか!?いつ、どこでどうやって」
当の花園は「えっ、そっち?」とも言いたげな表情を浮かべたが素直に答えてくれた。
「なんかネットの裏サイトというか私も元カレからURL送られてきたから詳しくは知らないけど、まだ誰も体験したことのない未知のゲームに参加してみませんか?っていうのがきたらしい」
「それっていつ頃?」
「えっと、今日が十二月七日だからざっと1ヶ月くらい前かな」
「そんな前から………」
「じゃあ逆に、紫宮はいつ招待状がきたの?」
「いや、俺はそんなんじゃない。学校帰りにサングラスの男に拉致られた」
「嘘………」
花園は俺が拉致られたことをしり、なんとも言えない表情を浮かべていた。まぁ無理もないだろう。
「だから俺は一刻でも早くこんなクソゲーからは抜け出したいんだよ。あいつのためにも早く戻らないといけないし」
「あいつ?」
「俺の幼馴染なんだけど、俺あいつに言わなきゃいけないことあるから絶対にこんなところでは死ねない」
これは俺が密かに決めていたことだが、俺はこのクリスマスに夢乃に告白する予定だった。そう、俺は夢乃のことが好きなのだ。あいつに喜んでもらえるように最高の準備を前々から進めていたのだ。
「そ、そうなんだ………」
花園のテンションが少しだけ下がったような気がした。
「だから、俺はなんとしてでもこのゲームをクリアして家に帰る」
「そうね、それが一番よね。応援してるから、私もできる限り協力する」
「ありがとう花園」
俺は花園に向かって手を出した。これは俺のこれからのけじめでもある。
「え、何?」
「握手。よろしくてきな」
「ああ、そういう」
花園は俺の手をそっと握り返す。
かくして、二人はこのゲームを共にするパートナーとなった。
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