第3話 花園栞

「嘘だろ………」


勝手に始まってたゲームに参加させられてるはめに早々に死にかけるなんて不安にも程がある。そもそも自分がどっちのチームに属しているのか、また今はどちらのターンなのかも知らないのに流石に理不尽すぎないか。


「とにかく、早くどこかに隠れないと」


深い森林になっているとはいえ、近くに隠れる場所なんてものは存在してなく………


「くっそ、矢が飛んでた方とは逆には逃げてるものの向こうからだとこっちの位置が丸見えなはずなんだよな。それに雨が降ってるからいつ足を滑らすかわからないし、まともに走れない」


休みなく飛んでくる矢に焦りを覚えるが、それでも羽黒は必死に逃げながら、対抗策を考える。


(そもそも俺は武器とか何一つ持ってないんだよ。丸腰の状態でどうやって抵抗したらいいんだ)


羽黒は普段サバイバルゲームをよくやっているが、ゲームをやっていても丸腰の状態で勝つのはまず不可能だ。今はまさにその状況である。しかし、半分諦めかけていた羽黒だったが、ふいにあることを思い出した。


(ああいうゲームだって武器がなかったら物資とか探して自分を強くしていく。だったら今も同じなんだからルールに書いてあったアイテムボックスを探し出すしかない。相手を殺傷できるくらいのアイテムが入ってるんだから殺さなくとも少しは抵抗できるはずだ)


羽黒はものすごい勢いで飛んでくる矢を間一髪で避け続けながら、小さな小屋まで辿り着いた。大体の予想だったが、サバイバルゲームをやっていても建物がいくつかこういった森の中にも存在している。そういうゲームをもとにこのゲームが作られているのならあるのではないかと思っていたがそれが見事に的中したらしい。


「………はぁ………はぁ………ここまでこれば一旦は矢を受けずに済む………ひとまずここで休憩して立て直さないと………もうしんどい」


やっとのおもいで辿り着いた羽黒の身体に一気に疲れが押し寄せる。

そして、小屋のドアをぐっと開いた羽黒だったが中にはなんと一人の美少女がいた。

彼女は女性にしては身長は少し高め。

豪奢なブルーのボブヘアーと透き通るような青い瞳。衣服も誰かのとは違い、どこかお嬢様のような雰囲気を持ち合わせている。

顔立ちとしては"綺麗"というよりかは"かわいい"の方が近いのだろうか。

孤島のお姫様というべきか否か。

そんな彼女に一瞬だけ羽黒は見惚れてしまっていたが、彼女のある一言ですぐに現実に戻された。


「残念ね。ここまで逃げたのはすごいけど来た場所が悪かったわね」


彼女は不敵な笑みを浮かべながら、どこかから取り出したのであろう弓矢をこちらに向けてきた。


「っ!?何で………」


俺は反射的に両手を上げて後ろに下がる。少女がわずかな隙を見せた瞬間逃げれるようにじわじわと距離を空けていたが、背後からも何か背中に突きつけられた感じがした。


「えっ」


すぐに振り返ってみると目の前にいる少女と同じ少女が弓矢を俺の方に向けていた。


「ふっ、気付いたみたいね。これは私が手に入れたアイテム『分身』よ。これで最初からあなたのことを追っていたわ」


「最初から誘導されてたってことか」


「ええそうよ。最初からあなたに逃げ場なんてものはない」


(あぁ、またずっと誘導されてたんだな。俺がどうこうしたって何も意味がなかったんだ。今からこの子にその弓で俺は殺されるってわけか………)


「そうだな、俺の負けだ。一思いに殺してくれ。こんな負けた俺がいうのもあれだが、俺の分も君には長く生きてくれたら嬉しい」


俺はもう抵抗することがないことを示し、その場に座り込む。そして、その時を待つ。


「え、君さっきから何してんの?」


ふいに先ほどの少女が不思議そうに声をかけた。


「え?いや、君は今から俺のことを殺すんだろ?だから待ってたんだけど」


すると少女がこちらの顔を覗き込んできた。


「え、殺すなんて誰が言ったの?私そんなこと言ってないよ。それとも君は相当頭がおかしなMさん?」


「え、M?ってか、えっ、殺さないの!?」


突然の殺さない発言に俺はびっくりして思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「えっ何で殺す必要があるの。逆にこっちが怖いんだけど」


「え?どういうこと?」


「何、急に変なこと言ってどうしたの?もしかして逃げてる時に頭でも打っちゃったの?もしそうだったらそれはごめんね」


「いや、別にどこも打ってはないけど、え?単純に理解が追いついていないだけ」


「理解?そんな必要ある?だってわざわざ味方の数を減らすようなことする人いる?現に私たちのチームはかなり向こうのチームとは人数差が出てきちゃっているのに」


「同じチーム?」


(俺とあの子って同じチームなの?ってかだったらなんで襲ったりしてきたんだ?)


「あ、もしかして同じチームなのに何で追いかけてきたかってこと?」


「そう、それ」


すると少女は「あ〜」と首を縦に振り、少しだけあざとい笑みを浮かべてから言った。


「それはね、君のことが気になったからちょっとだけ揶揄っちゃった」




二人で小屋の中に入り、彼女から詳しい話を聞いた。

どうやら、ゲームは二日前から始まっており、6時間ごとに鬼を交代して進めるらしい。そして、すでにこちらのルビーチーム(相手はサファイアチーム)が相当な差をつけられているらしい。また、俺が見ていたあの映像は最新技術で作られているものらしく最近世間でも実装されつつあるらしい。そして、俺が見ていたものはゲームの概要を簡単に説明したものだったらしく、しっかりとしたルールが書かれているところがあった。ここだけ見ると一見俺が間抜けみたいに見えるけど違うからな?あんな状況じゃ誰も気づかないから。マジで、ほんとに。


「だとすると、俺らのチームは相当やばいってことなんだよね。なんとかして立て直さないといけないってことか」


「そうなの。それにサファイアの方にはもうすでに5人も殺してる美濃部剛みのべごうっていう人もいるらしい。それに誰かが死んだりしたら通知きたり、リアルタイムで人数は更新されたりするの」


「そうなんだな。でも俺は武器とかそもそも一つも持ってないからどうにもできないんだよ」


「あぁ、そういえばそうだったね。さっきも何にも対抗してなかったし。着いてきて、アイテムボックスがこの小屋の裏にあるから」


「え、アイテムボックスあるの?だったら先に言ってよ、1秒でも早く自分を護りたいのに」


そういい、俺も彼女の後ろをついて行こうとしたが、急に彼女が止まりこちらに振り返り、


「むかっ!何よその言い方は!せっかく君のこと信頼して護ってあげようと思ってたのに気分を損ねることを言うなんて。というか、大体あなたの名前を教えなさいよ!なんて呼んだらいいかわからないじゃない!」


「あ、いやごめんなさい、すみません許してください。それと、名前は紫宮羽黒です。高校2年生です」


「もういいわよ別に。名前は紫宮羽黒ね、私の名前は花園栞はなぞのしおりよ。それと奇遇ね、私も高校2年なの」


それから彼女に連れてこられ、アイテムボックスに案内してもらった。

その道中で花園は一人で「紫宮‥‥‥しーくん?いや‥‥‥羽黒‥‥‥はーくん」などと変なことを言っていたが聞かなかったことにした。


(というか、自分でとか言う人もう一人いたな)
























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