第5話 巫女服を着始めた

次の日 朝

付喪神社前


 登校中の生徒達に、ひた向きに声をかける巫女姿のスマ子。

 そしてそれを監視するのは、怪しい二人。


「おはようございます! 今日も一日頑張りましょう!」


「おはようございます! あ、可愛い髪型ですね! とってもおしゃれですよ!」


「おはようございます! よろしければ、帰り道に寄ってみてくださいね!」


「…スマ子の奴、頑張ってんな」


「まあ、それは別にいいんだけどね? まさかスマ子ちゃんが女の子になれるとは…見抜けなかったわ。この蓮美の目をもってしても」


 茂みに隠れて見張るのは俺と蓮美。

 もうこいつに隠し通せる気がしなかったから話してみたら、ノリノリで付いてきた。

 だから二人組だ。


「というかお前凄くない? いや~朝起きたらさぁ、スマホが美少女になっててさ!  まじ困るわ~からの、把握したわ。ってどういう思考回路してんの?」


「事実は小説より奇なり。起こってるんなら付き合わないと損じゃないの~」


「…ほんとすげーよ、お前」


 この細目女、恐ろしい。生まれる時代が時代なら、まじもんの情報屋になっていたのではないだろうか。


『あの娘すげー可愛いな…』


『私、髪型誉められちゃった』


『何あれコスプレ? ウケる~』


「んだとこら」


「落ち着け博文君。なんかあった時に飛び出せばいいから」


 巫女巫女☆ケットワンの良さが分からないとは、あの女は分かってない。

 というかウケる~とかひけらかすな。

 あの種のタイプはやたらと周りに同調させるのが上手いから、本当に厄介だ。


(くそ、俺は屈しないからな! 俺は我が道を進む! 同調圧力なんかに負けねぇかんな! お前がウケても俺はウケねぇから!)


「ばーかばーか!(小声)」


「博文君、あんた小学生か」


 心の言葉に圧縮に圧縮を重ねて、出てきた精一杯の罵倒。

 関わったらめんどくさいことになるという、完璧な保身まで持っているからこれが最適解だと勝手に思っている。


「おはようございます! ぜひ、お時間がある時には付喪神社にお立ち寄りくださいね! 」


「あ、なに? もしかしてそういう客引き? 神社も大変~」


「つかなにその服、コミケ? コスプレじゃん」


「てか年近くね? あんたどこ校よ? 朝から学校にも行かないとかー」


(おいおいおい、何挨拶してんだよ!?  無視しろ…っていってもあいつには分からないよな! ちくしょう!)


「あ、写真いい? とりまつぶやくから」


「いいね、ちょいバズりそ~」


「え、ええと…?」


 挨拶したら突然絡まれて、あからさまに困惑するスマ子。

 あいつは善意で頑張ってるのに、それを面白がって邪魔するなんて、さすがに黙って見ているのも限界だった。


「ああ、くそ!! もう我慢ならねぇ!!」


「よしいけ博文! 捨て身タックルだ!!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 蓮美トレーナーの指示を受けて、『車田博文Lv16』の攻撃。

 だが相手は三人。正直、苦しいバトルが予想されたのだが…思わぬ所から救援がやって来た。


「その子困ってんだろうがぁぁぁぁ!!」

「拙者の巫女巫女☆ケットワンに何してるでござるかぁぁぁぁ!!」


 うわ、やせいの春夫が、とびだしてきた!


 突如現れた、暴走オタク二人の突撃。

 その恐ろしい光景に、迷惑三人組は『うわきも』とだけ言い残して去っていった。


「へっ、勝手に言ってろ。お前らはお淑やかをググって頭に叩き込んでから、おととい来やがれ」


「むむ、博文殿!? いや、奇遇でござるな~、実は拙者も密かに、この娘に何かないか護衛していたのでござるよ」


 確かに春夫が登校して来ないとは思っていたが、まさか俺達よりも先に登校ないし潜伏をしているとは思わなかった。

 そう考えると健康的な生活を送っているのに、なんでこいつは痩せないんだ…


「ご、ご主人と春夫さん!? えっと、もしかしてずっと見ていらしたんですか…?」


「まあ…そうなるな」


「拙者は感動したのでござる! こんなにも巫女巫女☆ケットワンを忠実に再現した衣装、きっと並々ならぬ苦労があったはず…! 同士を助けるのに理由はいらぬでござるよ!!!!」


「…そういうことだよ。だ、だから勘違いすんなよな! 別に、お前が心配だったわけじゃないんだからな!?」


「そ、そうなんですね…しゅん…」


「ごめんよ、俺が悪かった。めちゃくちゃ心配だった。無事で良かった。ほんと安心した」


 照れ隠しを真面目に答えられると、心が痛い。だから咄嗟に謝罪の言葉が出てしまった…

 …のだが。すぐにそれは失態だったと、思い知らされることになる。


「……!! ほ、本当に本当ですか!? ご主人、本当に私を心配してくださっていたんですか!?」


「な、なんだよ。悪いかよ、心配だったよ! ばーかばーか!」


「…………ご、ごっしゅじ~~~~ん!」


「うおぁ!?」


 余程嬉しかったのか、感極まって飛び付いてくるスマ子。惜しげもなく顔をすり付けてくるのはいいけれど、正直周りの目が痛い。

 

「ちょ、だから何してんのお前!?」


「えへ、えへへ…! ほらほら、やっぱりですよね~! 私と離れるなんて考えられないですよね~! やっぱり、寂しかったんですよね~!!」


『朝から何やってんだあいつら…』


『噂のバカップルってやつ?』


「…博文氏、これはどういうことでござるか…? 拙者との不恋の誓い、忘れたというのでござるか……!?」


「各地で誤解のフルコンボじゃねえか!? 一旦離れて!? お願いだからモラルを持とう!! な!?」


「んもう、恥ずかしがらなくていいんですよ? 今日もいっぱい使くださいね、ご主人!」


 その言葉に凍りつく周囲の空気。


 そりゃそうだよ。使って言ったら、もうそういう意味にしか聞こえないもん。


(…ははっ! スマ子のおっぱい柔らけぇや!)


 白目をむきながら顔をひきつらせ、思考を放棄する。

 そして、慶次のような笑い方をして諦める。


 この後、春夫の誤解はスマ子の正体を明かすことで解消されたのだが…しばらくは、俺に対する変な噂が飛び交うことを覚悟するのだった。

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