第4話 帰り道に『鈴の音』が聞こえた


なんだかんだ放課後にて


「いやぁ、今日も良い汗をかきましたなぁ!」


「ははっ、やっぱ春夫つえーわ! 俺も『D.D』みたいな技作ろうかな?」


 春夫と慶二の試合(テニス)を見届けてから、四人でつるみながら話をする。

 ルールは1セットマッチで春夫の勝利。慶二も上手いんだが、春夫も見た目に反してむちゃくちゃテニスが上手い。

 俺は球技がからっきしだから、二人の相手にならないけど。


「でもD.Dドライブデブだからねぇ。強いのは認めるけど見た目は汚いよ? 砂ぼこりすごいし」


「蓮美、一応D.Dドライブディーって呼んであげよう? 春夫泣くぞ?」


「ふっ、見た目で判断しないで欲しいで、ご、ござるな…!」


【はわわ、春夫さんが半泣きに…! わ、私はかっこよかったと思いますよ、春夫さん! 今まであんな打ち方見たことなかったです!】


「ほーらスマ子ちゃんはこう言っているでござるよ~。見た目じゃなくて強さでござるよ~」


「うーん、バッドアシストスマ子ちゃん。こいつを調子に乗らせちゃだめよー。あ、私は家政部に用事あるからそろそろ向かっとくわ、じゃあね~」


 春夫をからかって満足したのか、そのまま家政部へと向かう蓮美。一回だけ料理を食べたこともあるけど、あいつのはなかなか旨かった。


「おう、また明日な蓮見ー!」


「おっと、拙者も部の先輩に用事があるのでござった。それでは同士達よ、また明日に会おうでござるな~」


「ん、春夫もじゃあな~…そんじゃ俺達は帰りますか」


「おう、行こうぜ博文!」


──────────


下校中にて


 慶二と一緒に帰路に着いてからしばらく。

 さすがに外でスマ子が喋ると問題になりそうなので、俺の持ってるワイヤレスイヤホンを慶二に渡して、三人で歩きながら話していた。


「ははっ、いいなー! 俺もスマ子みたいな奴ほしーわ、ぜってー退屈しねーじゃん!」


【えへへ、そうですか? ありがとうございます、慶二さん!】


「まあ、話し相手には困らないよな。新しいスマホは隠されたけど」


【むう、ご主人はあやつの話ばかり! もっと私を見てくださいー! あなたのアキュホンは私! はい、復唱です!】


「俺の! アキュホンは! アキュホン12!!」


【がーん! ひどいですぞ、ご主人~!!】


「お、若干春夫みたいな話し方になったか? 学習機能も完璧だな、博文!」


「オタク系ケットワンか…いや、却下だな。イメージが崩れて…」


『────チリン』


 それは、話している最中に聞こえた鈴の音。まるで耳元で鳴ったような音に驚いて横を向くが、そこには階段以外何もなかった。


「ん、どうした博文?」


「いや、なんかさっき鈴の音が…」


【ご主人も聞こえたんですか? 私も先ほどこちらの方向…『付喪神社』へ通じる階段から音が聞こえました】


「えー、俺は聞こえなかったぜ? そんなにうるさかったのか?」


「まあ…そうだな。真横に誰かいたみたいな、そんな感じだったんだけど…」


 付喪神社は桜丸高校の近くに建っている古い神社。だけど、そこに住んでいるのは『梅さん』と呼ばれているお婆さんだけで、参拝客も少ない。


【…ご主人、この場所に寄ってみませんか?】


「スマ子…うっし、そうだな。なんか気になるし行ってみるか。慶二もどうだ?」


「面白そーじゃん! いくぜいくぜ!」


 こうして下校中に付喪神社へと寄っていく俺達。緩やかな階段を登り、鳥居をくぐっていくと、その拝殿が見えてくるのだった。


──────────


付喪神社 拝殿前


 とりあえず奥へ進んでみると、拝殿の近くで落ち葉掃除をしている女性が目につく。間違いなく、彼女が梅さんだった。


「…おや、学生さんなんて珍しいねぇ。二人で参拝かい?」


「ああ、はい。そんなところです」


「なあお婆さん、ここで鈴の音って聞こえなかったか? こいつ、なんかこっちから聞こえたみたいでさ」


「え…!?」


 慶二の言葉を聞いた瞬間、少しだけ驚きの表情を見せた梅さん。そして、そのまま俺に質問をしてくる。


「聞こえたのかい、鈴の音が…?」


「ええと、はい…梅さんは何かご存じなんですか?」


「…いや、何でもないよ。もうすぐ取り壊されるって聞いて、昔に来てくれたが帰ってきてくれたのかもしれないね」


「あの娘…? それに取り壊されるって、本当ですか?」


「後継者がいないからねぇ…参拝客もめっきりいなくなってしまったし、時代の流れ的に仕方ないのよ」


 ちらりとその側に飾ってあった付喪神社の説明には、『物を大切に』と書かれていた。

 確かに、今の新しい物を作って古い物はさっさと切り捨てる文化とはあまり相性が良くなさそうな教えだった。


「婆さん…おっし、じゃあ俺は御参りしとくわ! 百円入れて、スマホ壊れないようにお願いしとこっと!」


「慶次…しゃあねえ、俺も百円くらい入れとくか」


【…ねえ、ご主人。私、あの方のお手伝いがしたいです。何か方法はないでしょうか?】


「あー…まあ、難しそうだなぁ。ここの参拝客が増えるか、後継者が見つからない限りは」


 物を大切に、という教えに共感したのか分からないけれど、スマ子は梅さんを放っておけないようだった。

 でも正直、たかだか一学生にそんな大層なことは出来ないわけで。諦めろと伝えようとしたその時、スマ子は驚きの行動を取ってきた。


【参拝客…そうだ、それですよご主人!  とーーう!!】


「え、ちょ、スマ子!?」


 とつぜん、かばんのスマ子が、とびだしてきた!


(いや、ほんと何考えてるのこいつ!?)


「お、博文、その娘誰だ? めちゃめちゃ可愛いじゃん! ははっ、漫画みてー!」


 どこから拾ってきたのか、巫女巫女☆ケットワンの姿で派手に登場したスマ子。

 いや、良く見たら俺の画像ファイルからだわ。やだ恥ずかしい。


「え、えっと…あなたは…?」


「お婆さん、ここは私にお任せください! 私がここで参拝客の呼び込みを致します!」


「…えぇぇぇぇ!?」


「お、いいじゃん! 俺も手伝おうか?」


 慶次は状況を楽しんでいて、俺だけが驚きの声を上げる。肝心の梅さんは、状況を飲み込めていなかった。


 こうして、俺のスマホというのを差し置き、神社で呼び込みの約束をしてしまうスマ子なのであった……


「いや、じゃあ新しいスマホ返して!?  現代でスマホ無しはマジでヤバいからぁぁぁぁぁぁ!!」

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