第3話 案外、友人から受け入れられた

通学路


「うおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!!」


【頑張ってご主人! 授業開始まで残り十分ですよ!】


「おんどりゃあぁぁぁぁ!!??」


 俺、車田博文。高校二年生。今、通学路を自転車で爆走中です。


─────────


 時刻は八時四十分。時刻は俺の古いスマホ…もとい『スマ子』が知らせてくれている。

 こんなギリギリの状況で、名前が欲しいとねだられたから一分で名付けた名前。

 だけど、当人は喜んでいたからよしとしよう。


(ってこんなこと考えてる場合じゃねぇ!?漕げ、俺!! この足が燃え尽きるまでぇぇぇぇぇぇ!!)


 もはや一刻の猶予もないこの状況。翌日の筋肉痛を覚悟しながら、俺は教室へと爆走を続けるのだった。


──────────


 桜丸高校 二年三組 教室


「神谷」


「はい!」


「岸辺」


「はいっ」


「菊池」


「はーい」


「車田」


「……はいっっ!!」


 全力を出した結果、チャイムには間に合わなかった。だが、出席確認には間に合ったのだった…


──────────


授業終了後


「はあぁぁぁぁ…疲れたぜ、ほんと……」


「博文氏、今日はずいぶんとドラマチックな登場でしたな。拙者、なかなか感動しましたぞ」


「ははっ、でもすげーよ! 鬼咲先生に許して貰えたなんて、俺見たことねーもん!」


「分かるわ~、てか何でそんなん急いでたん? 昨日の夜にハッスルしすぎた?」


 授業が終わると、クタクタの俺を囲むようにやってきた三人組。普段から四人でつるんでいる俺の友達と呼べる三人からの言葉。それに普段と変わらない日常を感じ、若干安心しながら返事をする。


──────────


最上春夫もがみはるお

 博文の友人。ぐるぐる眼鏡、小太りに加えて話し方も独特な根っからのオタク。

 だが、その姿から想像も出来ないほどテニスが上手い。趣味はネットバトル。テニス部所属。


神谷慶二かみやけいじ

 明るく爽やかな、短髪の好青年。スポーツ全般が得意だが得にこだわりは持っていないため、部には入っていない。

 成績はあまり良くないが、博文と同じくやらないだけ。


白鳥蓮美しらとりはすみ

 細目でポニーテールが特徴的な女の子。

 人をからかうのが好きな性格で、趣味は情報収集。恋バナからテストの範囲まで、色々詳しい。

 料理が得意で、家政部に所属している。


──────────


「してねーよ。ちょっとアラームに誤作動があっただけだって」


「あちゃー、残念! まあ新しいスマホにすると忘れちゃうかもね~」


「お、そうですぞ! 博文氏はもう最新のアキュホン12を使っているのですかな? 拙者にも見せて欲しいですな!」


「あー、ちょっとそれは…」


【ご主人ご主人! 私、ご主人の友人方にご挨拶したいです!】


「いや、とはいっても…って、は?」


 それは、突然の出来事だった。説明していない俺が悪かったのかもしれないけれど、はぐらかそうとしていたのにスマ子がガッツリと会話に絡んできてしまったのだ。


「…あれ? おい、博文。なんかお前の鞄から声がするぞ? あっ、もしかして手品か!? すげー!」


(スマ子ぉぉぉぉぉぉ!? ちょっとお前、なにしてんのぉぉぉぉ!?)


「博文氏の鞄から女の子の声が!? は、もしや…もしやもしやもしや!? 遂に拙者はフィギュアからの声が聞き取れるようになったのでござるかぁぁ!?」


 蓮美を除く二人が騒いでいる横で、打開策を必死に考える。


(だっておかしいじゃん! 普通はこういうことってバレないように上手く立ち回っていくのが普通だろ! いや落ち着け、考えろ。考えろ俺…!)


【その声は慶二さんと春夫さんですか? 初めまして、私はご主人のパートナーであるスマ子と言います! アキュホン7です!】


(いやもう止められなくね、これ? 二人に自己紹介しちまったよ、どうすんだよ!?)


 考える暇もなく、既に頭の中はパニック状態。だが、助け舟は予想外のところから現れた。


「…へぇ~。博文、あんた遂に完成させたんだ」


「…あえ?」


「惚けちゃって、このこの~。私もこっそりと協力してあげてたじゃん。『究極のAI』の研究ってやつを…さ?」


 それは助け船というより、もはや助けジェットスキー。

 飛び乗るのには相当な覚悟が必要そうだったが、今の俺には…行くしかなかった。


「…ったく、しょうがねえな。感謝しろよ、お前ら? なんせ、俺の世紀の大発明をお目にかかれるんだからなぁ!」


 もうどうにでもなれと鞄からスマ子を取り出す。究極のAIとかもはや意味不明だが、こいつらにならいける気がしなくもない。


【改めまして皆さん、私はスマ子です! これからよろしくお願いしますね!】


「な、ななな…なんですとぉぉ!?!?」


「ははっ、すげー!! 喋ってるぜ、すげー!!」


 こうしてスマ子は、俺の造った『究極のAI』として友人達の輪へと溶け込んでいくのだった…


「…貸し一つだよ、博文君?」


「…はい」

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