第2話 新しいスマホにやきもち焼いてた
博文の部屋にて
充電中の一幕
「えっと、本当に俺のスマホ…なんだよな?」
【そうですよ! あなたが約四年ほど使い続けた、Aqqle社のアキュホン7です! えへん!】
しっかりと型番まで把握していた…というより、もうスマホからスピーカーを通して会話が成立していた。
どうやら本当に俺のスマホは自我を持ってしまったらしい。理由は全く分からんが。
「…そうかそうか、とうとう俺のスマホに自我が芽生えたか~! いや~嬉しいなぁ!」
【ご、ご主人…!! それでは学校には私を…!!】
だが、問題はそこではなかった。周囲を見渡しても…この部屋にはとある物が無かったのだ。
昨日手に入れた、とてもとても大切な物が。
「ところで…俺の新しいスマホ、どこやった?」
【…………ナ、ナンノコトデショウ?】
機械音声で、あからさまにすっとぼけてきた。
俺が地道にバイトをして、十万円もして買ったアキュホン12。昨日には機種変更を済ませ、確かに寝る前には引き継ぎ作業を進めていた。
それが今…何処にも見当たらなかったのだ。
「俺の、アキュホン12は、どこやった?」
【…ワタシ、ミテナイニャン。ソンナ、ピカピカノスマホ、シラナイニャン】
「てめ、このやろ! 絶対知ってるだろ! 何処にやったんだよ、俺のアキュホン12! 十万だぞ!? 十万したんだぞぉ!? 返せよ、たった一日しか触ってない大切なスマホなんだよぉ!!」
まだアプリを落として、指紋認証くらいしか登録していない新品スマホ。高校でも自慢してやろうと思っていたのに、このままだとそれすら出来ないのだ。
【お、俺のアキュホン12…】
「そうだよ、どっかに隠してあるんだろ!?お願いだから隠した場所を…!」
【わ……私が!!】
「え?」
【私があなたのアキュホンです!! あなたのアキュホンは、私なんです!!!!】
「……えぇ?」
問いただそうとした時、スピーカーから大きな声で叫ぶ旧スマホ。その様子はどうみても拗ねていた。
「…どしたん急に?」
【ご主人ひどいです!! あんなに肌身離さず、大切にしていたのに…!! 私、まだ動きます!! もっとご主人と一緒にいたいんです!!】
「ス、スマホ…お前…」
次の瞬間、スマホ形態からケットワン形態へと変身してこちらへと抱き付いてくる。
「ご主人、私…あなたと離れたくないです…!!」
「…四年も使うとな、バッテリーが劣化して充電効率が落ちて減りも速くなるんだ。それに、不要なデータも残ったままだったりするから動作も遅く…」
「ご~しゅ~じ~ん~!! お願いです、捨てないでください~!!」
流れで言いくるめようとしたけれど失敗した。けど、さすがに今のスマホを使い続けるのはちょっと…不便だ。
でも姿はケットワン。そこだけは非常に高評価だと思う、中身は全然違うけど。
「充電なら食事でも補えます! これからはおしゃべりもたくさん出来ます! 検索も頑張ります!」
「お触りはどのくら…痛い痛い痛い!! しめ、締め付けるな!! 折れる、背骨折れる!!」
下手なことを話したら、可愛い見た目に似つかわしくない力で締め付けられた。
あまりお触りの話題はしない方が良いみたいだ、そちらの耐性はかなり低そうだから。
そんな海老反り状態の俺の目に映ったのは、滅多に見ることのなくなった壁掛けの時計。その針は、七時三十分を指していた。
「…って、やべ!? もうこんな時間じゃねえか、
「ふふふ…早速出番のようですね! 私が朝ごはんを作りますので、ご主人は他の用事を済ませてください!」
「え、お前料理作れ…」
そう言い残して、こちらの言葉も聞かずに隅っこにある小さいキッチンへと向かってしまう。その姿に全くケットワンらしさは無かったが、これはこれで癒し効果があった。
(…まあ、俺のために料理を作ってくれようとしてくれるのは、嬉しいけどさ)
ここはお言葉に甘えて、さっさと布団を畳んでから鞄に入れる物を確認する。
このくらいの時間でも、二人で準備すればきっと間に合う…
「うーん、朝ごはん朝ごはん…あ! クックポットで調べて…えーと、アレンジレシピ? 人の料理はよく分からないですけど…よし、これにしましょう!」
「…ちょおぉっと待ったぁぁ!? ちゃんと他にも見て!? リテラシーを持ってぇぇぇぇ!?」
食料が魔改造される前にキッチンへと飛び出す。確かに情報の海から、本当に必要なものを選択するのは難しいのかもしれないな、はは。
俺は必死に偽ケットワンを説得しながら、頭の片隅でこう思った。
…これ、一時限目の物理に間に合わせるのは無理そうだな。
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