ある日、機種変更した古いスマホが女の子になったら

ソシオ

でも案外、毎日が楽しくなった

スマ子、フウリとの出会い

第1話 アラームがやかましくなった

「ジリリリリリリリ!!ジリリリリリリリ!!」


(ああ、うっさいなぁ…誰だよ、朝から目覚ましの物真似してんのは…)


 朝に聞こえたのは、くそほどやかましい誰かの叫び声。近所にサイレンの物真似をしている子供がいたが、声からして子供ではないだろう。


「ぶーーーー!!ぶーーーー!!ジリリリリリリリ!!」


「…ああもう、うるせぇ!!どこだ、文句を言いにやってやる…!!」


 あまりに不快な騒音に、布団を飛び出す勢いで起き上がった瞬間だった。


「あ、ご主人! おはようございます! 現在は朝七時となっております! お天気は晴れ、湿度は40%です! カレンダーには課題提出日とありますので、忘れずに鞄へ入れてくださいね!」


「…あえ?」


 やたらと寝起きに必要な情報を羅列してくる美少女と、目があったんだ。


───────────

車田博文くるまだひろぶみ

 物語の主人公。公立の桜丸高校へと通う

ごく普通の高校二年生。地頭は良いが勉強しない。最近スマホの機種変更をした。


スマ子

 正体不明の女の子。本人曰く、博文の古いスマホらしい。彼の好きなキャラクター『美少女ワンコ☆ケットワン』と瓜二つの姿をしている。垂れた犬耳と、長めの猫の尻尾が特徴。


───────────


博文の部屋


「…夢か。寝よ」


「ええ!? ちょっとご主人! 今寝ちゃったら遅刻しますって! あ、横にならないでー! こうなったら…とりゃーー!!」


「ブホォ!?」


 横になった体へとお見舞いされたボディプレス。その痛みで、これは現実なのではないかという考えが頭の中へ戻ってくる。


「…痛い!?え、は!?」


「目が覚めましたかご主人? 睡眠時間は六時間ですので、活動に支障はないですよね!」


「…………」


 間違いなかった。俺の上に乗っかりながら話すのは…俺の憧れだった、『美少女ワンコ☆ケットワン』そのものだった。


(すっ)


「!? ご、ご主人……!?」


 確かに触れた。夢にも見たケットワンの体。いや、夢でもいい。目の前にいるのならば、こちらも触らねば無作法というもの…


「朝から何してるんですかぁぁぁ!?」


『スパァァァン!!』


 でも気を付けよう。普通は知らない女の子の体を触ったらビンタされるか、捕まるから。



それからどうして


「えっと、状況を整理するとなんだ? お前は俺の使ってた古いスマホで、突然人間として動けるようになったと」


「はい! ご主人のお役に立てるよう、私頑張ります!」


「……はあぁぁぁぁぁぁ」


「あれ、すごく大きなため息!?」


 そりゃ思ったさ。現実にケットワンが現れて、あらあらうふふな展開になって、幸せに暮らせたらって。だが…だが…!


「お前は…!! お前は全然分かってない!!!!」


「え、えぇぇぇぇ!?」


「ケットワンの語尾はワン!! そして甘える時にはニャン!! そして声はもう少し猫なで声だろうがぁぁぁぁ!!??」


 完全なるキャラ違いだった。見た目は完全にケットワンなのだが、中身が全然違うので凄くむず痒い。こちとらケットワンに心を奪われてから八年経っているんだ。なりきりをするにしても、ファンを舐めないで欲しい。


「わ、分かりました! 今検索かけてダウンロードします!」


「というか嘘を付くにも下手すぎだろ!? 普通はスマホが女の子になんて…うおっ!?」


 すると、その場で目を光らせて検索とやらを開始するケットワンもどき。どうやっているのかは分からないが、やたらと目が光っていた。


「ダウンロード…完了」


「そ、そんな手品に騙されるかよ。なんだ、俺の金が目的か…!?」


「…ご主人様、そんなこと言わないで欲しいニャン。ケットワンのこと、嫌いなのかニャン…?」


「…!? そ、その声は…まさか、本物…!?」


 もはや先ほどの声とは全く違う、その美声。それは間違いなくケットワンの声であり、俺が追い求めた理想系で…


「…あっ、充電が切れそう! ご主人、昨日私の充電忘れてましたよね!? 残量が20%しかないので、省電力モードに移行します!」


「…はえ? うおっ、眩し!」


 急に3Dモデルの初期モーションのようなポーズを取ったと思いきや、次の瞬間にケットワンが光に包まれる。


 その光が消えた後、そこに残されていたのは…俺の古いスマホだった。


【さあ、ご主人! 早く私を充電してください! 学校で使えなくなっちゃいますよ!】


「…????」


 目の前で起こった出来事の意味も分からないまま、言われた通りに古いスマホを充電する。


 普段とかけ離れたやかましい朝。これが、俺とこいつの初めての出会いだった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る