第6話 神社が復活した

それから一週間後

付喪神社 拝殿脇にて


『超クオリティ!? 取り壊しの危機に陥っていた神社を救ったのは、まさかの「コスプレイヤー」だった!』


(…結局、スマ子はネットの記事に載ってしまった)


【見てください、ご主人! 私、すっごく可愛く撮れてると思いませんか!?】


 夕方、神社の隅っこで浮かない顔をしていたのは俺。嬉しそうに自分の写真を自慢してくるのはスマ子。

 まあ、可愛いのは認めよう。この写真に写っている見せる気のない長めのスカートは、『絶対的な聖域』を感じられるほど神々しい一枚だ。


 でも、朝にだけ現れる、まるで二次元から飛び出してきたような女の子が、高クオリティの衣装を着てるからって…少しでも拡散されたらこうなるとか現代やべぇよ。


「…どうすっかな、これは」


【にゃん? どうかしましたか、ご主人?】


 あんまり有名になると、必ず正体を暴こうとしてくる輩が現れるはずだ。良くも悪くも、こいつは純粋すぎる。

 もしも正体がバレて、未知の生物とか言われて研究対象にされたら、俺は…


【…ご主人?】


「…っと、いや。何でもねえよ」


 面と向かって話すのはなんだか気恥ずかしかった。まあ、仮にも四年の付き合いだ。

 とりあえず、どこの馬の骨とも分からない奴らに、うちのスマホはやれん!



──がらん、がらん──


 社頭に飾られている鈴の音が、また響く。

 今は6月。まだ夏ともいえない、春ともいえない何とも言い難い季節だ。

 ただまあ、外でぼうっとしていても苦にはならないのは、この時期の利点だと思う。


「…こんばんは、博文君。スマ子ちゃんとお話中かしら?」


「あっ、梅さん…まあ、そんなとこです」


 前回、あんなド派手な登場をしてくれたおかげで、梅さんもスマ子のことを話すしかなかった。とはいえ、この人もすぐに受け入れてくれたけど。

 正直、驚いていたのは俺だけなのかと少し不安になってくる。


「それにしても、ありがとうね。スマ子ちゃんのおかげで、この神社もしばらく大丈夫そうだわ」


【本当ですか? 梅さんのお役に立てたなら嬉しいです! これからも、もっともっと頑張りますね!】


「あはは…それにしても、当然のように話してますよね。梅さんはこいつを見て驚かないんですか?」


「そりゃあ、まあ…最初は驚いたわ。でもね、私…これがだから」


「二回目…?」


 その言葉を単純に捉えるなら、梅さんのスマホも変身したことがあるか、過去にそれを見たことがあるかだが…いや、昔ならガラケーか。

 いぶかしい顔つきで考えていると、梅さんが話を続けてくれる。


「…昔ね。ここには長めの綺麗な銀色の髪に、翡翠色の瞳を持った女の子がいてね。背はそうねぇ…このくらいだったかしら」


 そう言って、丁度俺の座っている目線くらいまで手を上げる。つまりはまだ子どもだ。


「ちなみに、どのくらい前に出会ったんですか?」


「私がまだ二十歳を過ぎたくらいだったかしらねぇ」


「えぇ!? それじゃあ結構…あっ。あんまりそういうこと聞いたらアレですよね…すみません」


「いいのよ、気にしないで。それで、その子は物を大事にする子だったわ。まだ若くて、精神的に不安定な私を叱れるくらいには、根もしっかりとしていて…」


 懐かしそうに語る梅さん。だけど、その横顔はどこか寂しそうだった。


【…その子に、何かあったんでしょうか?】


「…数年前まで、話していたんだけどね。たった一言だけ『自由になって欲しい』って言い残して、いなくなってしまったの」


「もしかして…その子が?」


「そうよ。あなたは『付喪神』って聞いたことがあるかしら?」


 付喪神。それなら聞いたことがある。

 たしか俺のやっているゲームでは、物を大切に扱わないと付喪神…つまりは妖怪になって人間を驚かせたり、襲ってきたりしたはずだ。唐笠お化けとか。

 とはいえ、結局のところは子供に物の大切さを教えるための作り話で、ナマハゲと似たようなもの。現代だと信じる子供の方が少ないだろう。


「まあ、名前だけなら。物を大切にしないと付喪神になっちゃうんですよね?」


「大体はその通りよ。そして、ここに祀られていた神様がその付喪神なのよ」


 名前に神とは付いているから、それもありなのだろう。別の神社でも、祀っているところがあるとは聞いたことがある。


【あ、私分かりました! その女の子が祀られていた付喪神だったんですね!】


「正確には、ここで祀られている神様ではないのだけど…付喪神なのは正解よ。あの子はよく言っていたわ、自分はただの風鈴だーって」


「風鈴の付喪神…でもなんで、急にいなくなっちゃったんですかね」


「…責任を感じていたのかもしれないわね。ここに来る参拝客も少なくなって、あの子も頑張っていたのだけど…なにぶん恥ずかしがり屋さんで」


 梅さんの役に立てなくて、彼女に後腐れがないようにいなくなってしまったということだろうか。

 それにしても、少し寂しすぎる別れ方だ。


【もしや、私たちの聞いた鈴の音もその子と関係があったりしますか?】


「ふふ、その通りよ。人の姿じゃ音が鳴らせないーって言うからお気に入りの鈴を付けてあげて、それからずっと付けてくれていたの。だから、戻ってきてくれたと思ったのだけど…」


 確かに、数年ぶりの再開なら梅さんも驚くわけだ。しかし、鈴の音が聞こえたとしたら近くにいるはずなのだが…


【…ご主人、私達で探してみませんか?】


「…え? でも学生さんを夜中まで外に出させるのはねぇ…」


「…梅さん、ここは寄りかかった船ということで。大丈夫ですよ、俺はどちらかというと不良なんで。夜には慣れてます」


 カッコよく、ニヒルな感じでセリフを決める。まあ、本当は夜なんてコンビニに行くくらいしか出歩かないけど。


「…ごめんなさいね、何から何まで。どうしてか、もう私には鈴の音が聞こえないみたいだから。あなた達にお願いするわ」


【お任せください!! そうと決まれば…トランスフォーム!!】


 もう慣れた感じで、スマ子が人間の姿へと変身する。服装は、気に入ったのか巫女服のままだ。


「呼ばれて飛び出てにゃにゃにゃニャン! プリティ☆スマ子、ただいま参上です!」


「…なんか変な検索履歴が残ってんなーとは思ったけど、それだったんだな」


 何はともあれ、お互いにやる気は十分。

 こうして俺達は、梅さんの為にも風鈴少女の捜索を開始するのだった。





(…ん? となると、スマ子も付喪神…? 物を大切にしないと付喪神になるなら…なんでスマ子は動き出したんだ…?)

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