第13話 もしかして

 翌日も沙良は神来公園へ行ってみた。もしかしてあの銀髪おじさんが飛行機に乗り遅れて、またここに来てる・・・わけないか。公園のベンチは空っぽだった。仕方ない。またちょっと吹いてみよう。沙良はベンチに座り、オカリナを取り出す。よし、スカボローフェア。


 するとまた後ろから足音が聞こえる。おじさん? 沙良は振り返った。


「あれ、香住さん」

「何よ沙良ちゃん。当てが外れちゃった?もしかして好きな男の子と思ったのかな?」


 意地悪そうに香住が言う。


「違いますよっ。オカリナを教えてくれたおじさんかと思っただけです」

「へー、沙良ちゃんはオカリナ、おじさんに習ったの?」

「はい。言いませんでしたっけ?」

「うん。聞いた事ないなあ、その話は」

「チロを森に返した次の日に、このベンチで髪が銀色のおじさんが一人でオカリナ吹いてたんです。明日に架ける橋」

「明日に架ける橋・・・」


「で、きれいな音だなって思って聞いてたら、そのおじさんが私に気がついて、それでオカリナを吹かせてくれたんです。それも買ったばかりの新品を」

「ほう」

「で、音を出してみるとね、あっちの森からチロが顔を出して」

「へ?」

「それで私、チロに気を取られて、返そうとしたそのオカリナを落としちゃって」

「うん」

「ちょっと傷つけちゃったんです。新品なのに」

「あらら」


 沙良は手にしているオカリナの一部を指して見せた。


「ちょうど、この辺に傷がついて」

「ふうん。割れたりしなかったんだ」

「はい。音もちゃんと出て」

「それは良かった」

「おじさんは思い出が深くなったって」

「へぇ、それは深い話だね」


 沙良はオカリナを掌で包み込んだ。


「それで、その人に昨日会ったんです。ここで」

「ふうん。近所の人かな?」

「いえ。飛行機で帰るって言ってたから遠くの人です」

「なるほど」


 沙良は香住の顔をじっと覗き込んだ。


「香住さん」

「はい?」

「ここからが大事な話です」

「え?」


「その人、薬剤師さんを探してるんです」

「薬局のオーナーさんなのかな?」

「いえ、そう言うのと違って、多分個人的に。そのおじさんは探している薬剤師さんを誤解で傷付けちゃったから謝りたいんだって」


 香住の眉がほんのちょっと動いた。沙良はズバリ切り出した。


「探してる薬剤師さんって、香住さんの事じゃないですか?」

「・・・」


 香住は答えない。


「病院で一緒だったって言ってました。この辺に住んでる筈だって言ってました。ぴったりじゃないですか?」

「そう、ね」

「香住さん、私に聞かせて下さい。今度おじさんに会ったら言わなくちゃだから」


「ふふ。ありそうもない事だけどね」


 香住は空を見上げた。

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