第9話 やっぱりこの世界が好きだ
僕の曲に誹謗中傷コメントが付いた日。
フォロワーもそれを見つけていて、心配してくれた。僕が女性なら、弱音を吐いて、落ち込んでることを素直に吐き出せたのかもしれない。
でも僕は、変なところで男女差別を無意識にしているところがある。時にそれが自分を追い込んでしまおうとも、どこかで「男とは」「女とは」と決めつけている部分があるのだ。
本当は、心臓が爆発しそうなくらいドキドキして、同時に相手に対しての憤りで頭の血管が切れそうなくらい腹が立っていたのに、心配してくれるフォロワーに対して、平気なフリをした。
みんな、僕の強がりを見抜いていたのだろう。それ以上、その件に触れることはなかった。でも、「ブロックの仕方」「運営会社への違反通報の仕方」「コメント削除の仕方」などを教えてくれたのだ。
僕は、表では平然を装っていたが、裏ではみんなからのアドバイスを必死に読み、やるべきことをすべてやっていた。多分、僕がそうしていることを、みんなは気付いていただろう。でも「なんだよ、結局、落ち込んでたんだ。素直じゃねえな」とは、誰も言わない。
そう。僕のフォロワーたちは、僕よりずっと大人だし、【音楽世界】の大先輩たちだ。あ、大人ってのは、年齢がってんじゃなくて、精神年齢ってことなんだが、正直、フォロワー全員の実年齢なんて把握していない。
歌う曲で、なんとなく年齢が予測できるが、若い子でも自分が生まれる前の歌を歌ったり、僕より年上でも、最新ヒットソングを軽快に歌う人もいるから、一概に投稿曲で年齢予測は出来ないんだけど、それでも自分となんとなく話題が合うと、「年齢が近いんだろうな」くらいの予測は立つ。
実際、実年齢なんて関係ないのだ。要は、音楽が好きで、好みが似ている。僕が聴いたことがないジャンルの曲を知ってて、歌ってくれることで思いがけず名曲に出逢うこともある。そういう愉しみがあるのが【音楽世界】なのだ。
そして、落ち込んでいる人がいたら、さりげなく寄り添ってくれるフォロワーが本当に多い。決して、優しさの押し売りではなく、本当に「さりげなく」なのだ。そうしてもらえることで、僕は僕のプライドを保っていられた。
僕のプライドって何なのか、自分でもよく分からないが…
でもきっとプライドがあったのだろう。あの日以来、僕は曲を投稿できなくなっていた。
僕が、曲を投稿しなくなってからも、無理に投稿を勧める人もいない。投稿していた頃と何も変わらず接してくれる。曲を聴きに行ってコメントを残せば、変わらないコメント返しがある。
その心遣いが、今の僕には本当にありがたかった。
ショックで歌えなくなっているのは事実だった。おそらく、それをみんなも分かってくれているのだろう。
僕は、改めて思った。
「やっぱりこの世界が好きだ」
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