第4話 コメントをしてみた
気分転換の方法を手に入れた僕は、リモートでの仕事も捗った。
そして、時間を作っては【音楽世界】を開いて、歌った。そのうち、歌った曲を保存する勇気が出た。
僕だけの曲が数曲保存され、それは自由に自分で聴くことが出来る。投稿するのは、まだ出来ないままだったが、それでも楽しかった。いつしか、【音楽世界】は僕の生活の一部になっていった。
他の人の曲を聴いているうちに、自分好みの声の人を見つけた。僕には出せない声で、歌っているその人は、曲の好みも似ている。僕が好きなアーティストの曲を何曲も歌っている。それをほとんど聴く。まるで、僕はこの人のファンにでもなった気分だ。
何曲か聴いた時、その人にはコメントの他に気になる数字を見つけた。正確に言えば他の人のところでも見ていた数字だが、特に気にしていなかった。でも急に気になって、その数字は何なのかを調べてみた。
どうやら、その曲を応援する時に送るアイテムの数みたいだ。確かに、【音楽世界】にログインすると、そのアイテムをもらえていた。僕のところにも数個のアイテムが貯まっていたのだ。
「これは、『あなたの曲を聴かせてもらいました。ありがとう』って意味で送るのかな?」
僕はそう思って、その人の曲にアイテムを送った。しかし、その人の曲にはあまりコメントはない。アイテムだけはたくさんあったのだが、みんな僕みたいに「聴きました」って感じでアイテムだけ残しているのだろうか?SNSで言うところの「イイネ」的な使い方なのかなと、自分なりに解釈した。
でも僕は、急にその人にコメントを残したいと思ってしまった。見ず知らずの人に、コメントを残したいなんて、僕にしたら珍しいことだ。SNSでもほとんどフォロワー同士のやり取りが多く、そのほとんどがリアルな友人で、和気藹々と楽しんでいる感じだ。逆に僕のSNSに、見知らぬ人からコメントが来たら、ビビりな僕は「誰だ!?」と焦ってしまう。
ということは、この人もいきなり見知らぬ人からコメントが来たら焦ってしまうかもしれない。僕は、結局、コメントするのを諦めた。その代わり、その人の曲にアイテムを送り続けた。
そんなことを数日続けていた僕のもとに、メッセージが届いた。【音楽世界】には、SNSと同じように個別のメッセージが送れる機能もある。そこに届いたメッセージの送信者は、僕がアイテムを送り続けたその相手だった。
僕はそのメッセージを開いた。そこには、
〈いつもアイテムをありがとうございます。今度あなたの曲も聴かせてくださいね〉
と書かれていたのだ。正直、驚いた。アイテムの数はいつもたくさんあった人だ。その人たちひとりひとりにこんな風にメッセージを書いているのだろうかと思ったからだ。
と同時に、なんだかとても嬉しくなった。僕は、
〈音楽世界を始めたばかりでやり方がよく分からなくて、曲は投稿したことがありませんが今度挑戦してみます〉
と返信し、その人のところに行き、新しく投稿された曲を聴いた。聴き終わった後、アイテムを送り、ついに!
コメントをしてみた。
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