第5話 音楽世界に足を踏み入れた

 僕は、初めてコメントをした。

その曲は、僕には出せない裏声がとても上手で、聴きやすくて、なんならオリジナルアーティストより僕好みだったから、そのことを書いた。


 すぐにコメントの返事が届いた。どうやらコメントへの返信があると通知が来るらしい。そこには、僕のコメントに対して、とても喜んでいる気持ちが綴られていた。僕は、アイテムだけでは伝わらなかったことを言葉にして伝えて良かったと、嬉しくなった。


 そのコメント返信へ、さらにコメントを返した。しばらく、やり取りが続いたあと、別の通知が届いた。


”フォローされました”


という通知だ。この人が、僕をフォローしてくれたのだ。僕は嬉しくなって、フォローし返した。するとすぐにメッセージが届き、


〈フォロバ、ありがとう。これからよろしく〉


と書かれていた。フォローされ、僕がフォローし返しただけで礼を言われるなんて驚いたが、同時に嬉しくなった。


〈こちらこそよろしく〉


と返信すると、


〈始めたばかりなら、分からないことがあったら気軽に聞いて。俺も最初はフォロワーさんにたくさん聞いたから。使いながら、聞きながら、覚えていって楽しもう〉


と返信がきた。この言葉は本当に嬉しかった。正直、何もかも分からないことだらけだったからだ。そんな始めたばかりの不安な気持ちを察してくれたことが本当に嬉しかった。


 しばらくやり取りをしていたが、相手がこれから仕事だというので、この日のやり取りは終了した。でも僕のページのフォロー数が【1】となったことが嬉しくて、かなりテンションが上がっていた。


 やり取りの中で、分かったことがあった。「歌う時にはイヤホンマイクを使うと雑音が入らず、採点が上がること」「その日初めて曲を投稿するとアイテムがもらえること」「他にもアイテムをもらう方法があること」などだ。そして、何より、曲を投稿することで、フォロワーが増え、もっと【音楽世界】を愉しむことが出来るらしいということ。


 確かにSNSだって、投稿に共感する人がフォローをし合ってフォロワーが増えていく。僕の場合は、ほとんど知り合いだが、【音楽世界】を使ってることを知ってる知り合いはいないのだから、曲を投稿することでフォロワーを増やすしか方法はない。音楽好きな知り合いは多いが、このアプリを教えて共有するのは、やっぱりなんとなく恥ずかしいから教える気はない。


 となると、まったく知らない相手との世界を愉しむのも、今までにない何かがあって愉しいかもしれない。それには、曲を投稿することで、違う世界が拡がるのだ。考えただけでもワクワクする。ジャンルは違えど、ここにいるのはみんな基本的には音楽が好きな人たちばかりなのだから。


 僕は、音楽世界に足を踏み入れた。

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