第3話 初めてのレコーディング
【音楽世界】を入れてからの僕は、時間を見つけては投稿されている曲を聴くようになった。何曲も何曲も聴いているうちに、自分も歌ってみたい衝動に駆られた。
「どうやって歌うんだ?」
聴くことは出来ても、実際に自分で歌う方法が分かっていなかった僕は、適当にポチポチとボタンを押してみる。
”歌う”というボタンがあったから、まずそれを押してみる。すると、曲がたくさん出てきた。そして、その中から知ってる曲を押してみた。そこには、先にその曲を歌っていた人たちがズラリと並んでいる。曲の横には”歌う”ボタンがある。
それを押すと、さらに”歌う”ボタンがあり、押してみると、歌詞が表示され、一番下にまたまた”歌う”ボタン。これだけ念入りに「あなたは本当に歌うんですね!では聞かせてもらいましょうか!」と言われているような”歌う”ボタンの連続に、僕は挑戦してみたくなった。
勇気を出して最後の”歌う”ボタンを押すと、聴き慣れたイントロが流れてきた。僕は慌ててスマホに向かって歌い始めた。カラオケ店のように音程バーが画面に流れる。僕は、ワクワクした。久々に歌える喜びと、カラオケ店で見慣れていた音程バー。夢中で1曲歌い切った。
歌い終わると、これまたカラオケ店のように採点してくれるのだ。気持ちよく歌ったからか、点数が低くても悔しさはなかった。本当に久々に歌ったから、というのもあるのかもしれない。曲が終わると、僕の歌声がスマホから流れた。自分の声は自分が思っている声ではないと分かっていたはずなのに、そこから流れる自分の声が、なんだか気恥ずかしいような、新鮮なような…そんな気持ちでいた。
自分が歌ってるのに、なぜか心地よくて、1曲聴き終えてしまった。その後、何曲か歌ったが、ふと、
「みんなはどうやって投稿してるんだろう?」
なんて思ってしまった。確かに歌い終わった後、画面上に”投稿する”というボタンはある。”保存する”というボタンもあった。それを押せば、投稿できるのだろうということは予測できたが、その勇気がない。
「ならば保存しとくか?」と一瞬思ったが、それもせず、僕は、結局、投稿することは出来ないまま、その日は【音楽世界】を閉じた。
やはり、投稿する人たちはすごいと改めて感心した。僕にはその勇気がない。SNSのように、文字だけならこんなにためらわない。実際、僕もSNSはやっていて、感じたことや見たことなどを文字や画像投稿で利用している。
でも”声”となると、話は別だ。他の曲を聴くと、その曲に対してコメントがついていた。その内容までチェックすると、みんな好意的なコメントだ。でも中には、心無いコメントもあった。そのへんはSNSと同じだったが、今まで、誹謗中傷の類の被害に遭ったことがなかった僕としては、自分の歌に心無いコメントが付いたら…そもそもコメントが付かなかったら…と、考えずにはいられなかった。
投稿するしないは、今のところ、どうでもいい。それより、歌えたことが嬉しくて、僕は久々にテンションが上がっていた。
やり方も分からず…だったが、僕は初めてのレコーディングを終え、満足していた。
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