明日への旅立ち②
会議の前に俺は結界の全体を砂にカモフラージュした。
これで遠目には砂丘にしか見えないだろう。
それを見ていたブロス達は大いに驚いた。
会議が始まっていきなり色々なことが議題となった。
もちろんイグル、グレスも参加することになった。
ただし俺は話についていけなかった。
俺が知らないこの世界のことが多すぎた。
まずラミアが知っているダカダのことを事前聴取された。
驚くことにダガダは砂嵐により外からの侵略から守られた場所であった。
その話を聞いてブロスはザガール国の新しい国の首都をダガダに置くことを提案した。
そこに数十万人の住民を退避させようというのだ。
ちなみに今居る二千人と言うのは国民の一部である。
ザガール国は今朝イグラ達を救い出した拠点だけではない。
そこは、占領軍が戦略的に選んだ者達だけが集められた場所であった。
実際には砂漠に点在するオアシス(水のある場所)を中心に小さな町が沢山あるらしい。
例えばイグルたちが元住んでいた所も数千人が住んでいたようだった。
それらの点在する拠点に住む者達を集めようという提案である。
もちろん占領された町だから、各地で戦いが起こるだろう。
だが、重要拠点ではないため駐在している敵の人数は少ない。
そこで小編隊でも戦えるとブロスは戦略を導き出した。
だが話はそれだけに収まらなかった。
ザガール国の周辺にサブラカン、ソマーン、クロカレーンの三つの小国が存在していた。
これらの国はザガール国より小さな国でありザガール国との友好関係にあったらしい。
ザガール国占領後、同時期にこの三国も占領されたようだった。
ブロスはこれらの国も同じダガダの周辺に中心都市を作って独立すべきであると提案した。
「砂嵐は魔法で顕現している防御のためのものだから規模は制御できるだろう。
ならばザガール国とその周辺三国はその場所でまずは防御を固め国の体制を立て直すことにしたらどうだろうか?」
そしてグレスは王政をやめ、地球で言う共和国制の導入を含め検討することを提案しだした。
ただし、そういう時期はまだ早いと思うので反対しておいた。
「まだ他国の意思が分からないだろうから検討すら出来ないと思う。
だからザガール国と三国が揃ってから議論することにすればいいのでは?」
グレスも色々と考えているようだった。
王政を止めるとまで提案するグレスにイグラは何も言わず少し嬉しそうな顔をしていた。
話が進む内に八賢者の一人が蟲の話を始めた。
サブラカンの王族の誰かに蟲が取り憑いているというのだ。
他国と違いサブラカンには兵器として開発可能な毒に関する知識が豊富だった。
新たな兵器を欲する占領軍はこの国の王族に蟲を取り憑かせた。
そして王立研究所で研究者から新兵器に利用可能な情報を掴もうとしているらしい。
誰も口々に弱音を吐き始めた。
「蟲か・・・」
「蟲さえいなければ・・・」
「疑心暗鬼という心の闇を利用した兵器だ。
抗う方法の無い我々には勝ち目がない」
「誰に憑いているか分からんし、おまけに見つけても直ぐに別の者に入り込むのだ。
やっとのことで憑いているものを特定できたとしても・・・
顔を見れば仲間だ・・たとえ蟲が付いていても仲間を倒すことは出来ない。
たとえ仲間を倒すことが出来ても蟲を即死させることは出来ない。
躊躇すればすぐに蟲はが自分に取り憑いて来るんだ」
「せめて憑いている者が分かれば・・・いや少なくとも憑いていないことが分かれば」
そうか、蟲は頭の中に居る、憑かれたものを倒せたとしても、その間に別の者に取り憑くだろう。
それなら俺たちが蟲を退治した方法、つまり『電波によって焼き切る』ことが最良の方法のようだ。
問題は誰に虫が憑いているかだが・・・
「ラミア?蟲って見えないの?
シルクスが最初に現れた時君は『蟲毒に侵された者』と言い切ったよね」
「見えるわよ、何というか温度が違うのよ・・・私の第三の目がそう言うのよ・・・」
「そうか第三の目・・・君たちには温度を感知する器官があったな。
そう言うことか、でも蟲である特徴とか何かある?」
「あるわ、そこの砂漠の中にサズル虫が住んでいるけど、それと同じ温度だと思う」
「そこまで分かればOKだ」
俺は会議の中断を要請した。
俺は蟲への対抗策を練ることにした。
ブロスは驚いていた。
「そんなことが出来るのか?
私たちが最後に降伏した原因の大半は蟲なのだ。
もしそんなことが出来るのであれば・・・おおっ、神に感謝せねばなるまい」
「「「もし出来るならセグリア王国の反乱軍にもその方法を教えてくれ、お願いだ」」」
八賢者達の勢いは物凄く、俺に勢い良く迫ってまるで土下座をする勢いで俺の前に跪いた。
「ちょっと待て・・おい」
それを制止するブロス。
「すまない、八賢者と言ってもまだ若く、本心では家族のことも心配なのだ。
彼らにとって蟲への恐れは大きい。
もし対策が出来るということは家族を守ることが出来るということと同じだ。
私からもお願いだ、蟲に対する方法があるなら彼らに与えてやってくれ」
『私たちが最後に降伏した原因の大半は蟲なのだ』
その言葉が重く圧し掛かってくる。
そうか、そうだろうな、そんなもので人を疑心暗鬼にしてその上仲間同士で・・・
本当に卑怯な方法だ。
「蟲は俺に任せておけ、だから三十分ほど時間をくれ」
そんな言葉を発していた。
そしてその言葉に呼応するように「ありがとう」と言う声と、八賢者の嗚咽が聞こえて来た。
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