【挿話】ラミアはフェスリーが羨ましかった

 ラミアの濡れた唇がジェイの口に重なって来る。

 それから長いキス。


「ラミア、なんか今日は積極的なんだね?何かあったのか?」


「フェスリーが『羨ましいだろう』って言ったのよ」


「『羨ましい』?何が?子供が出来るのが?」


「そうね、羨ましい」


「でも俺との間では子供は出来ないだろう・・・」


「そうよね、おかしいの私」


「でもフェスリーの言葉が分かるなんて凄いな」


「知らなかったの?と言っても私もさっき分かったから偉そうには言えないわね。

 実はフェスリーって人語を話せるようね」


「えっ?人語が話せるって?」


「そう言うこと、何故かフェスリーは黙っていたんだけどね」


「それなら今度話してみよかな、ロザリアは喜ぶんじゃないかな?

 でもフェスリーも仲の良いロザリアくらいには話をしてやっても良いと思わないか?」


「なぜフェスリーが隠していたのか良く分からないわ」


 また、長いキスをジェイにおねだりする。


 ジェイは何も知らない。


 そう、フェスリーは会った時から妊娠していたはずだった。

 でもフェスリーからは心臓の音は一つしか聞こえてこなかった。


 あの時私は感じた。

 そう、それは今日の戦いの中でフェスリーが精霊石を噛み砕いて飲み込んだ瞬間

 その時からもう一つの心臓の鼓動が始まった。


 ただし、それはフォグリスの心臓の鼓動とは異なっていた。

 まるで人の心臓の鼓動のようだった。


 私にはその時分かったのだ・・・・

 それに気づいたフェスリーが初めて私に向けて言った言葉


 『羨ましいだろう』


 その言葉通り、フェスリーが羨ましかった。


 本来、魔物と言うのは魔石から魔力を供給するものだ。

 精霊石からは精霊力のエネルギーなど貰うことは無い。

 なぜなら魔力を打ち消してしまうからだ。


 魔力を打ち消してしまうことは、単純に言えば魔物にとっては体に毒だと言っても良い。

 その大きな精霊石を何個も食べたフェスリーが無事な訳がない。


 そこまでしてフェスリーが欲しかったもの・・・


 聞いたことがある、魔力と精霊力を使うことで成立する混血。


 『キメラ』


 交わるハズの無い異種族が子供を授かる方法。

 相手がはっきり分からないので想像でしかないが、あの鼓動。

 たぶんフェスリーは人との子を宿していた。

 だから私に『羨ましいだろう』と言ったのだろう。


 もちろん通常は『キメラ』は育つことも無いし通常はそのまま朽ちてしまう命のはずだ。


 だがフェスリーはその子を生み出すために毒である精霊石を何個も飲み込んだのだ。

 生命誕生、そこまで来るには相当な年数が必要だったはずだ。

 相手が人であるなら、愛した者も既にこの世には居ないだろう。


 今眠ってるように見えるフェスリー。

 実は眠ってはいない。

 昨日まで健康だったフェスリーの状況は暗転していた。

 精霊石の大量取得でフェスリーの寿命は尽き始めている。

 そこまでしてもフェスリーは産みたいのだろう。


 同じ方法を使えば私も『ジェイ』との間に・・・可能性がある。

 それを実現したフェスリーが羨ましかった。


 そして今、なぜかジェイに優しくしたくなって、そしてジェイに甘えたくなった。 


 私は魔物、それなのにおかしい。


 長いキスをするのは愛を確かめたいから。

 一緒の時間が長く続いて欲しいと思っているから。

 だけど、二人の寿命の違いは大きすぎる・・・

 だから愛しあった証拠を残しておきたくなる。


 そんな望みが、私に羨ましいと思わせたのだろうか・・・


 何がそう思わせたなんてどうでも良い。


 私はフェスリーが『羨ましかった』のだ。

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