国無き王女は再興の夢を見るか③

 ブロスは王女に連れられその大きな結界内に入った。


 だが、その時今までに無い違和感を感じた。

「なんだ此処は!!、まだ太陽があんなに天を焦がすほど暑いのに此処はとても涼しい」


 そして王女を迎えるザガール国の人たち。

「「お帰りなさい、ロザリア王女様、イグラ様達もご無事で何よりです」」


「暑かったでしょ、どうぞ冷たいお水を」

 ブロス達にも水を差しだすザガール国の女たち。


「あ、ありがとう」

 不意に水を差しだされ、それでも礼を言い水を貰い飲んだ。


「「あ~~~っ、冷たく美味しい!!」」

 他のSTDメンバー達の声が聞こえてくる。


 そんな様子にブロスはロザリア王女を見ながら困惑した顔をしていた。

「どうしたのですか、ブロス国務大臣」


「もう、大臣ではありません。言い訳のしようもありません、私は敵に魂を売ったのです」


「それは過去の話、多くの国民を守るために苦渋の選択であったことでしょう。

 そして今は私を守るために全てを捨ててまで来てくれた」


 ロザリア王女の目には涙が溢れていた。

「ねえ、ブロス。


 私も王女と呼ばれるような存在ではありませんよ。


 国の無い王女なんて王女ではない。


 私は今回、嫌と言うほど何も知らないことと、何もできない子供だと言うことを思い知りました。

 多くの国や、そこに住む人達のこと等を何も知らない自分を知ってしまいました。

 そう、ここに居る人たちのことも誤解していました。


 ましてや、子供一人では何も出来ない・・・・

 自分の身が危険に晒されても無いも出来ない。


 それ以前に人を褒めることも裁くことも断罪することも出来ない自分を知りました。

 国があってこそ出来ることが沢山あること。

 国民が居てこそ出来ることが多くあることを思い知りました。


 お願いです、貴方達の手で国を再興してください。

 そして新たな国を立ち上げ国民を迎えてあげてください」


「もちろんです、そのためにお迎えに上がったのですから」


「お迎え?」


「貴方様の国セグリア王国を、またもう一度再興するため」


「私の国などありません。

 私の国は滅んだのです。

 国の無い王女など必要のない人間です」


「失礼ながら王女様。

 貴方様はまだ貴女様のことを分かっておりません。

 多くの国民が貴女様がセグリア王国を再興することを望んでおります。

 彼らが支配され過酷な生活を我慢できるのは心の中で王女が国を再興する信じているからです」


 それでも王女の顔はすぐれない。


「では言い方を変えましょう、ロザリア王女様の国。

 そしてセグリア王国の国民の国を、またもう一度再興するため貴女様を迎えに来ました」


「しかし私では何もできません。

 今回だって、ジェイ様やラミア様に合わなければ何もできなかった。

 知らなければ、ここに居る人たちだって、酷いことをしてしまったかもしれない」


「焦る気持ちがございますのですね。


 でも、失礼ながらお間違えになっては困ります。


 ロザリア王女様。


 ご安心ください。

 すべてが出来る人など居ません。


 今までにも我々も何度も王国の再興に関して考え、失敗しました。

 そうなんです、たとえ素晴らしい勇者や賢者を何人連れてきても

 セグリア王国の再興は出来なかったのです。


 ただ数々の失敗の中から、我々は唯一王国の再興が出来る可能性を導き出したのです。


 それはセグリア王国の王族であるロザリア王女様です。


 王女こそ国の核になる方なのです。

 国の中心として核になることができる王女様の存在があれば

 国民を、そして国をまとめ上げることが出来る。

 その結果として『セグリア王国の再興が出来る』のです。


 ロザリア王女様、貴方は国民にとって、セグリア王国にとって

 それほど『大切な存在』なのです。


 もちろん全ての責任をロザリア王女貴様に覆いかぶせることはしません。

 我々が王女様を守り支えます。


 後は貴方様がセグリア王国の復興を声高に世界に向かって宣言するだけです」


 幼いロザリアの顔にはまだ不安が残ってた。


「私にはそのようなことが出来る自信などありません。

 そう言うと無責任に聞こえるでしょうね。


 そう、たぶん今はまだその時期ではないのでしょう。


 私はまだ子供です。


 もう少し勉強や経験を積み重ねる必要があるのでしょう。


 お願いです私を導いてください。

 ブロス、カーマイン、そしてSTD13の賢者の方々」


「「「もちろんですロザリア王女様、貴方様を支えましょう、そしてセグリア王国の再興を!!」」」


 その場にいたSTD13全員の声が揃った。


 涙をこらえその声に答えようとするロザリア。


「ありがとうございます・・・ありがとう・・・もう少し、もう少し待っていてください。

 皆の期待に応えられる王女に必ずなります」


 そうしていると何やらいい匂いが漂ってきた。


 反応するブロス達。

「うん?何やらお腹を刺激する、いい香りがしてきました・・・」


「そうですね、そう言えば安心したらお腹が減ってきました」


 そこへザガール国の女たちが遣って来た。


「さあ少し遅いですが朝ごはんにしましょう。

 さっきジェイ様とラミア様が食材を大量に出してくれたので、いっぱい作ったんですよ。

 ロザリア王女にも席を準備いたしましたのでどうぞこちらへ来てください」


「ありがとう、それでジェイ様とラミア様は?」


「なんか眠いとかであっちの部屋に入りましたよ」


「そうね、ほんとうに怒涛のような日でした。私も眠いかも・・・」


「ブロス達も一緒にどう?」

 ロザリア王女は躊躇なくザガール国の皆の座る場所に座った。


「それでは我々はこちらで頂きます」

 ブロス達は同じ列ではなく1列ずれて並ぶようにして座った。


 ロザリア王女は美味しそうにザガール国の者達と話をしながら食事を始めた。


 ブロスとカーマインはそんなロザリア王女の様子を見ていた。


「カーマイン、やはりだ。

 国の再興が出来るのは王族であるロザリア王女様以外にない。

 敵対してきた者たちすら今は味方・・・いや友達のようではないか?

 そしてあんなに楽しそうに歓談し食事を一緒にされる。

 そんなことが我々にすぐに出来るだろうか?」


「その通りですね。

 我々は支配されて同じ兵隊としてザガール国へ挨拶に行かされた時も彼らを敵であると見ていました。

 そして肉弾戦しか出来ない彼らを見下していました。

 今では、たとえ女子供であってもザガール国の者だというだけで敵対視していたのは事実です。

 でもロザリア王女を歓談する彼らを見ていて敵だという感覚は無くなっています。

 ロザリア王女様のなされていること自体が我々に影響を与えているということでしょう。

 間違いありません。

 我々には無い王女の持つ王族の力なのでしょう。

 新たな時代の到来を感じます」


 ◆  ◆


 サンクスはなぜか調理をしているザガール国の者たちと一緒にいた。


 グレスに魔法を教えながら調理用の水や氷を出していた。

「サンクス師匠、炎だけどグローブを付けるとなんか制御できないのですが?」


「もう少しイメージを軽い目にしないと大きすぎるよ」


「こんな具合か?でも小さくならない・・」


 サンクスとグレスのやり取りを聞きながら、見様見真似でマネしているミザカ。

「さっきから聞いていることってこんな感じかしら?」


 そして何度目かのチャレンジを繰り返すうちに小さいが炎が出て来た。

「えっ?私も出来た!!」


「ミザカも魔法と使うことが出来るようになったのか?」


「分かりません、なんかお二人の話を聞いている内に何度かやってみたら出来るようになって・・・」


「エレメントを感じることが出来たのであれば魔法は使えるようになるよ。

 多分さっきの戦いの中でミザカはグレスの一番近くでエレメントを感じることが出来たんじゃないかな?」


「凄い、私も魔法が使えるようなれるのね。

 もっと教えて!!」


 そこへ料理していたザガールの女性から依頼が来る。

「サンクス君、水を貰えるかしら?」


「水なら任せてください、いくらでも出しますよ。

 それと冷やすための氷も足りないのであれば沢山通りますよ」


「サンクス師匠はモテモテですね、俺も早くそう言う魔法を使えるようになれないかな?」


「直ぐですよ、そんなに焦らなくても大丈夫」


「本当ね、魔法を使えれば、もっとザガールでも女戦士が増えるわ。

 だって私は頑張って戦士にはなったけどね・・・

 流石にあれ(アンガーファイター)は女性向けじゃないわよ。

 もし魔法戦士になれるなら、ザガール国の女性の参加者がいっぱい来るわよ」


「師匠、大忙しの兆しだよ・・・」


「いや、教育はグレスさんやザガールの人たちの仕事さ。

 俺達は行くところがあるから」


「そうだったね。

 王女様を守るんだったね

 でも師匠は何時までも師匠だよね」


「師匠は止めてほしいな。

 俺は兄弟子さ、師匠何て器じゃないからね。

 それにグレスさんの方が年上だろ」


「でも師匠は師匠だ」


 その様子を見守っているのはイグルだった。

 イグルにはロザリア王女の傍にいるブロス等の様子も気になっていた。

「なあサムリ、ロザリア王女の傍にいるのは元の国務大臣や防衛参謀クラスの者達ではないか?

 たしかサンブルド王国では邪魔者だから使い捨ての戦闘員扱いになっていたはずだ。

 このような状況であるにもかかわらず、ロザリア王女の王族にしかない何かが

 彼らを呼び寄せたのではないだろうか?

 これは私の希望だが、もし彼ら参謀クラスの者たちが手伝ってくれれば、

 分散された残りのザガール国民も救い出しダガダに集めることが出来るのではないだろうか?」


「また彼らの力を借りるということでしょうか?

 それはいくら何でも調子に乗りすぎなのではないでしょうか?

 彼らには別の目的が・・・彼らの国の復興の目的があるはずです」


「そうだな。

 だが我々は彼らに大きな借りを作ってしまった。

 今度は我々が返さなければならない。

 だが、残念なことにまだまだ我々には力が無いのだ。

 ならば我々はもっと国として自立しなければならんと思うのだ。


 鍵は王家の忘れ形見グレスだ。


 全てはグレスが国をどう作り上げるかに掛かっている。

 分散してしまったザガールの民たちを再び集合させ新たなザガールの礎を作るのだ。

 そして今私達に出来るのはグレスにザガール国という国を任せるということだ。

 たとえ私が返せなくともグレスがロザリア王女に借りを返してくれるのではないか、そう思っているのだ。


 今は私の頭で良ければいくらでも下げよう。

 そしてグレスにザガール国を渡すのだ。

 その国はきっとロザリア王女達の助けにもなると思うのだ」 


「イグル様、その意見には私も賛成です。

 そしてロザリア王女率いる元セグリア王国の民は信じるに足る人々だと思います。

 今回は力を貸して貰いましょう。

 そしていつか彼らが我らの力を必要とするなら我々は惜しみなく協力いたしましょう」


 イグルはサムリと共にブロス達の方向へ進んで行った。


 このイグリとブロスの話し合いの結果は明るいものだった。


 現在二つの国は国として体制は崩れ一つの国は国自体も失われていた。

 もう一つの国は国は残ったが他国の支配下に置かれ、それは国とは言えない状態であった。


 その双方が迎えるべき希望の明日のために協力関係を結ぶことに前向きな方向で合意するのだった。


 ◆    ◆


「ねえ、ジェイ!!」


 眠るジェイをラミアが揺り動かす。


「眠いんだ~もう少し眠らせてくれ」


 流石に戦闘続きの夜だった。

 ジェイはグロッキーだった。


 ラミアは口をジェイの耳の傍に近づけてそっと囁いた。

「いいのかな~

 今なら優しくするわよ~」


 そんな甘えたような声が夢の中にまで聞こえてくる。


 そのままジェイはラミアを抱き絞めた。

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