ザガール解放作戦③

 準備を終えそろそろ出発しようとするロザリア王女と俺。

 ここに居るザガール国の者たちはロザリアを巫女様と呼び、彼女のその勇敢な行動に惜しみない感謝を与えた。

 そうそうフェスリーは相変わらずロザリアのフードで丸くなって「もふもふ団子」状態になって眠っていた。


「あの人たちの思いを受けてしまうと、大変だが遣り甲斐のあることだと思うな、そう思わないかロザリア」


「私もそう思います、今までの私はなんと愚かな者だったのでしょうか」


「そういう考え方は違うな、そういうのを後ろ向きという、後悔なんてしなくて良いんだ、今が重要さ前を向いて行こうじゃないか!!」


 少し考えるロザリア、でも顔を俺にまっすぐに向けるとはっきりとした声で答えた。

「はい前を向いて進みます」


(回り道をしてまでも此処に来た甲斐はあった、ここでのことは大事なことだ。でもそれ以上にラミア様とジェイ様が私達にとって切り離せない大きな存在になって行く、そういえばサンクスはジェイに対して特別な思いを持ち始めているような気がする。少し危険な気がする、でも危険って?何が?変なの・・・)


 そして戦車は戦いへの道を走り出した。


 ◆    ◆


 ミザカがグレスとサンクスがやっていることを興味深く見ていた。


「グレスさん、今度はどんな具合?火のエレメントを流してみたんだけど」


「不思議な気分だ、それと驚いたよ火のエレメントは感じることができる」


「やっぱりそうだな火のエレメントを最も大きく感じるようだねグレスさんの魔力属性は火に間違いない」


 ミザカは全くエレメントを感じることができず。

「凄いわグレス、でも私はまったく感じないわ・・・」


「亮先生に教えてもらった時に落ち着けとかよく言われた、瞑想の仕方まで教えてくれたんだよ」


「瞑想してしまってどうするの?怒りの力が無いと『激怒の戦士アンガーファイター』には成れないわよ」


「そうだ『激怒の戦士アンガーファイター』の練習の時は怒れ、怒れと教えられた。原理は同じでもより強力に発揮させるために怒れと練習させられた、それが逆に落ち着いて魔力を使うことを阻害していたんじゃないかな?」


 サンクスが偉そうに解説する。

「そうだね、魔力は術式を使って顕現する力だからね。頭を使わないとだめなんだ」


 少し苛立ったミザカはちょっと起こったかもしれない。

「失礼ねそれじゃ私たちがバカみたいじゃないの・・・」


「そうは言っていないよ。でも精密な術式の魔法もある、本当に微妙な魔力の調整が必要な場合もある。いつも瞬間の最大の力だけを出すことだけを考えていてはいけない。大きな力を出すときは落ち着いて魔力を溜めて顕現させるんだよ」


 グレスは大きな力に反応する。

「大きな力?」


「そうさ魔力を溜めること、そして一気に爆発させるんだ」


「それって分かるわ、殴る時の感覚よね、大技を使う時によくやってるもの」


「少し違うよ、魔力の場合溜める時間はその数十倍、いやもっと長い時間溜めることもあるんだ」


「なるほどな、その時だけの力を考えてはいけないということだな、なんとなくだが魔法が使えそうな気がする。ありがとうサンクス師匠」


 師匠と言われて悪い気がしないサンクスだった。


 そばにイグルが来た。

「そろそろ時間のようだ、それでは私の役割を果たしに行ってくる」


「イグル様、無理をしないでください」


「ああ、大丈夫だ作戦通り三か所に奴らを別れさせるよ、マグリのためにもやり遂げるさ」


 そう言うと管理楼の最上階に向かっていった。


 サンクスはグレスに尋ねた。

「グレス様マグリって誰ですか?」


 拳を作って黙っているグレス、その姿を見てミザカが言葉を発する。

「イグル様の奥様です、グレス様のお母さま、そして末端では在りますが王族でした」


「それじゃグレスも王族なの?」


「母はそれを隠すために奴らの前では俺が前妻の子であると言い続けた、それが証拠に『激怒の戦士アンガーファイター』に子供のころなれなかったのだとね、だが母はその後奴らに・・・・」


 固く握った拳が震えそして涙声になる。


「俺は王族であってはならないんだ」


「グレス様、でも今はザガール国には新たな王が必要なのです」


「違う、王族なんかいなくても・・・亮先生は王のいない国の話をしてくれた。そんな国の在り方もある。そうだまずは民のことを考えよう」


 その言葉を聞いてサンクスは思わず呟いた。


「まずは民のことか、ロザリア王女と同じだ」


「まだ成人前の王女がそのように・・・、あのような状況で王女はそんなことを考えていたのだな・・・・王族とはそういうものなのだな、俺など、まだまだだな・・・」


「そのようなことはありません、グレス様も立派です」


「ありがとうミザカ、だが俺は後ろ向きな話をしたのではない、もっと精進すると言っているんだけだ安心するがよい」


 ◆   ◆


 管理楼の最上階三人の管理者、デザート方面隊バグラ隊長、クレスト参謀、そしてゲラバ魔道参謀がロザリアを捕らえたことで安心して休んでいた。


 イグルはまずゲラバ魔道参謀のドアをノックした。

「ゲラバ魔道参謀様、お休みのところ申し訳ありません。急ぎの要件です」


「なんだイグル、急用とはどうしたのだ」


「グランズ様がすぐに来てほしいと言われましたので、何か新しい魔石がどうのと言っておりました」


「何!!新しい魔石?、奴はどこにいるんだ?」


 窓を開けるイグル、そこには基地内の南の端にあるテントの横で座り込んでいるグランズの姿があった。


「すぐに行くとするか、隣のクルーラに起きてこちらに来るように言っておけ」


「はい、分かりました」

 そういうとイグルは隣の部屋へクルーラを起こしに行った。


 薄暗い空はだんだんと明るくなっていく。


 そしてさっきまで砂漠を埋め尽くしていた虫たちは砂の中に消えていった。


 管理楼から見える遥か向こうにロザリア王女を乗せた戦車が管理楼を目指して進んでいた。

 空はだんだん東の方向から明るくなってくる。

 

「ゴーレムを操る3人の魔導士に大勢で移動中に襲われると守りながら戦うことになる今叩いておかなければならない」


 ロザリアは黙って座っていた。


「どうした、ロザリア緊張しているのか?」


「いいえ、大丈夫です。さっきザガールの人たちと歌を歌い踊りを踊り、そして思い出しました私の使命を・・私はそれから逃げることはできません」


 ◆  ◆


 イグルを送り出した後ラミアはゆっくりとロザリア達に合流すべく別れていた。

 そして残ったグレス、サムリ、ミザカ、サンクスは基地内の南の端にあるテントの横に潜んでいた。

 先ほどゲラバが見たグランズはグレスが変装したものだった。



 ミザカが少し落ち着きがなかった。

「ラミア様は一人で大丈夫でしょうか、それと私たちもゴーレム相手で少々不安ですグレス様うまくいくのでしょうか?」


「大丈夫だ、我々は我々にできる最善のことをするそれだけだ」

 

「分かりました、余計なことを言いましたね、我々は勇敢な戦士ですからね大丈夫でしたね!!」


 だが、グレスには迷いがあった。


 -- 怒りという負のエネルギーを重視した戦士で本当に良いのだろうか?

  私が子供のころ『激怒の戦士アンガーファイター』に変身出来なかった|理由≪わけ≫・・・


  母は私からは叔父にあたるガリアという母の弟の死から、私には戦士になって欲しく無かったようだった。

  「怒りはやがてエスカレートし自分を抑制できなくなります。全てに怒りを持ち何もかもを破壊することになるのです、ガリアは敵も味方も滅ぼして、最後に自分をも滅ぼした」

  そんな話をして泣き出す母を見ていた、俺は戦士化に対する恐れから変身ができなくなった。


  怒りは大きな力になることは分かる、だがその反面全体や周りのことが御座なりになるのではないか?

  戦うための力の根源、それが怒り以外にあると証明できれば我々は変われるかもしれない。


  そうさ、ロザリア王女は少なくともその答えになることを俺たちに示してくれているではないか。

  

 ◆  ◆


 イグルはクルーラを起こし、ゲラバ魔道参謀と一緒に、南に向かっていくのを見てクレスト参謀の部屋に向けて進む。

「クレスト様、大変でございます」


 布団の中で寝たまま話をするクレスト。

「どうしたのだ、まだ早いのではないか?もう少し眠らせろ」


「どうやらロザリア王女を奪還しようとセグリアからの抵抗軍の戦士らしき者がこちらに向かっております」


「戦士?我々の膝元に来るだと、そんな阿呆がいるのか?どの程度の規模なのだ中隊規模か?」


「それが一人です、ただし防御もなしに、この虫の居る夜の砂漠を渡ってきたようで、虫の死骸で道を作りながら進んでいます、どう考えても普通ではありません」


「バカなことを、そんなことができる人間がおるはずがない」


「窓の外を気を付けてご覧ください」


 クレストが窓の外を見ると女戦士が今は日が昇り少なくなってはいるが大量の虫をもろともせず駆除しながら進んでいた、そして歩いた後には見事に虫が全くいない道ができていた。

 溢れる虫は駆除されても、またその空いた砂地を埋め尽くすはずだ、だがくっきりと道ができていた。


「なんだあれは?そんなことができるはずがない・・・、そうか新規の魔法だなそれならその秘法を知れば我々にも有利だな。良いだろうあの女をつ捕まえるぞ、ベルトガを起こして参れ、すぐに出発する」


「分かりましたすぐに準備させます」


 イグルはベルトガを起こし、クレストと一緒に、東の門から戦車で出ていくのを見てバグラの部屋に向かった。

(なるほど虫が完全にいなくなるまでは戦車で戦うおつもりですか、さてラミア様に通じますかな?まあ頑張ってください)


 イグルに課せられた分断作戦は最終段階に入った。

「バグラ様、ロザリア王女が見えて参りました。起床ください」


 早く起こされて機嫌が悪いバグラ。

「まだ良いだろう、クレスト達に先に向かわせろ」


「それが不審な者たちが現れクレスト様もゲバラ様もそちらに向かいました」


「なんだと・・・、奴らは、どうして報告もなしに勝手なことをするのだ」


「お二人はバグラ様に報告するまでもない相手なのでお休みいただけとの話でした。しかし思ったよりロザリア王女が早く着きましたのでお知らせに参りました」


「しょうがないな、では準備するとするか、ギアナを起こしておけ」

 バグラは管理楼から見える位置にロザリア王女を乗せた戦車が見えるのを確認すると準備し始めた。


 イグルはギアナを起こすと彼らが管理楼の階段を降り始めたのを確認すると窓から合図を送った。

 その後イグルはグレス達と合流すべく南に向かった。


 合図はバグラが管理楼を降り、門を出るまでは外は確認できないという合図だった。


 その合図を確認するとロザリア王女はフェスリーに乗り、フェスリーはラミアの方向に走り出した。


「ロザリアとラミアを頼んだぞフェスリー」

 俺は一人でバグラというものと対峙することにしたのだ。


 管理楼をまじかに見る場所にまでついた俺の乗った戦車が止まる。

 そして門が開くとバグラがにやけた顔でこちらを見ていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る