グレスとミザカ③
少し前、結界内でロザリアがフェスリーに跨っていた。
その前に膝まづく全ザガールの兵達。
一方ラミアに最後の魔導士が討たれた時、ジェイは遠隔で魔法を使い結界を開いた。
ロザリアの腕輪からはジェイが話しかける。
「少しの間だけ開くから、直ぐに来てくれこの人たちは案外頑固者達だよ、それと外は真っ暗だお前達の結界の鎧に暗視機能を付けたから使ってくれ」
グレスに声を掛けるロザリア
「行きますよ、グレスさん」
グレスが変な反応をする?
「恐れ多いことですが、よろしくお願いします」
恐る恐るフェスリーに跨るグレス。
ロザリアはサンクスに残るように言う。
「サンクスはここに居てくださいね」
だがサンクスは行きたいようだった。
「俺も行きます、何か役に立ちたいんです、走って行くので先に行っててください」
「分かりましたサンクス、外は暗いので気を付けてね。そう言えばジェイが暗視機能を付けたとか言っているわ」
外に出たフェスリーは足から炎を出す。
そんなに強力に出している訳では無いがそれで虫は焼かれ寄って来ない。
それと不思議なことにフェスリーは少し中に浮いているようだった。
ジェイに言われたように結界の目の部分を手で上下すると確かに暗闇だった周りが明るく見えてきた。
だが色は無く白と黒の世界。
フェスリーに跨るロザリアは何もグレスと語らなかった。
今現在でもロザリアにはあの時の城を攻められた状況が浮かんでくる。
つまり同じ話題が無いと言うことでは無く何も語れなかったのだ。
彼女の心境は色の無い今の周りの状況と同じだった。
走り始めるフェスリー、それは一刃の風が走るようだった。
「ひゃ~早いな、でもまだフェスリーには慣れないもんな、さて俺も頑張って行くぞ!!」
虫の中結界で身を守りサンクスも外に出た。
サンクスも暗視機能を使ってみた。
「なんだよ、色が無いじゃないか、でも色が無いから怖さも半減するから良いかな・・・、でも姫をグレスと一緒に行かせてしまったのはまずかったかな?」
だが少しすると明るい顔になった。
「大丈夫さ、ジェイがいるから大丈夫だよ、きっと」
グレスは少女の小さな背中を見て自分と比較するように考えて居た。
(こんなにも、か細く幼い少女が自分が進むべき道をちゃんと選んでいる。これが人の上に立つ者のだろう。それに引き換え俺はミザカのことで動揺している)
グレスにはまだ見えないのだろうが暗視で見ているロザリアにはラミア達が見えた。
ラミアは二人に近付き二人を追い詰めているようだった。
「フェスリー、ラミア様にグレスを連れて来たことを伝えて」
フェスリーは頭を上に挙げると大きく嘶く。
フィ~ロ~リィ~リィ~
その声は遠くまで聞こえる高音でありながら鈴を鳴らすような心地よい嘶きだった。
声はラミアにも聞こえた。
「あなた達の迎えが来たわよ」
その言葉に恐怖する二人。
特にミザカは涙が止まらなくなっていた。
その涙の意味は自分でも分からなかった。
ラミアの後ろに4つの光が見えた時、ミザカは絶望していた。
やがてその炎が近づいてくる。
するとそれがフォグリスであることが分かると二人は不思議な反応をする。
「神獣様」
そう呟くといきなり跪く二人。
その後二人は頭を下げた。
結果フェスリーが近づいてもグレスに気が付いていなかった。
「サムリ、ミザカ、俺は無事だ」
その声が聞こえ、頭を上げた二人の前にグレスが立っていた。
ミザカは立ち上がりグレスの胸に飛び込んで行った。
神獣の前であること、そしてグレスが死んだはずであること。
そんなことは目の前のグレスの前では意味がなかった。
ミザカには今目の前のグレスが全てだった。
泣きながら「怖かった・・・怖かった・・・」それだけを繰り返すミザカ。
そのミザカを強く抱き締めるグレスだった。
だがその情景を見てサムリは何かを感じ取ったようだった。
「そうか、恐怖じゃなかったんだ」
サムリは理解した、ラミアが単純な恐怖を与えたのではないことを。
「どうりで俺も嫁と生まれてくる子供に思いがはせる筈だ、あの女の目を見た時に魅せられたんだな」
再度グレスとミザカはフェスリーの前に跪いた。
グレスは改めてロザリアに聞いた。
「ロザリア様、あなた様は神獣フォグリスの巫女であるのでしょうか?」
「違います、私はこの子と友達なだけですよ、元々この子はラミア様とジェイ様の家族同様の存在のようです」
さっきから弱電センサーに反応がある、俺はグレスに相談する。
「グレス取り込み中すまないが急ぎなんだ。結界は大きくしておくのでここの全員を起こして結界内に退避させてくれ、どうやら別動隊が後ろから来るようだ」
サムリは知っている情報を教えてくれた。
「右二十名、左二十名の四十名でサンブルド王の魔導士が五名ずつ付いています」
「それ以降も襲って来るのかな?」
「いえ、それ以降は計画はありませんでした」
なるほど、もう相当深夜だからな、でも待てよそれなら夜明けまでの少しの間時間があることになる。
「お前達の家族はどうなんだ?」
グレスが気落ちした声で話した。
「多分明日には処刑でしょうね」
「お前達の拠点に敵は何人くらいいるんだ?」
「約五十名だったのですが今回これから来る者を考えると残り二十名くらいでしょうか?」
何とかなる人数だと思う、そうだ処刑される人質を救出しよう。
「こっちは今来ている魔導士を倒せば戦士四十名を追加できる、これで奴らの所に暗いうちに殴り込みに行こうじゃないか」
サムリが制止する。
「そんな無茶な・・・我々はそれでは生きてはいけない」
グレスはサムリを制止する。
「サムリ、もう気付いているんだろ伝承の通りのことが起きているダガダを目指す時が来たのだ」
俺はラミアと一緒に行くつもりでグレスに後を頼んだ。
「グレス、後のことは頼んだ、俺達はまずは奴らをやっつけて来る」
ロザリアが言い難そうに声を掛けて来た。
「私も行きます」
戦う手段も無く、戦うことで敵を気づ付ける心配をするロザリアを心配して声を掛ける。
「大丈夫なのか?」
「今回はセグリアの騎士団ではないので大丈夫だと思います。フェスリーも居てくれる、それとサンクスを迎えに行かないと」
「サンクスがどうしたって?」
「こちらに向かっているんです」
ここはジェイ組の総出撃になりそうだ。
「じゃあ、サンクスを拾って行くぞ!!」
サンダーボードに乗る二人とフェスリーに乗ったロザリアが敵に向かって行った。
途中サンクスを見つけた。
虫だらけの砂地を踏みしめながら襲い掛かる蟲にヌンチャクや棒を使って戦っていた。
「おーい、サンクス」
「ジェイ、もう終わったのか?」
「もう一仕事やらないといけなくなった、一緒に行くか?」
「もちろん」
俺はサンクスに近付くとヒョイと肩に乗せた。
サンクスはサンダーボードの速度に嬉しそうな顔になった。
「早いな、凄いや!!」
(肩の上に乗せるなんて、この世界じゃあんまりしないんだ、やっぱり父さんみたいだ。ジェイは父さんと同じ世界から来たのかな、だったら召喚者なんだ・・・)
そのころ魔導士たちは危機感を持っていた。
「先兵隊のライフシグナルが消えました。奴らは相当な力を持っているようです」
魔導士は精霊石を取り出した。
「我々も準備しておいた方が良いと思われますな、手伝ってくれますかな」
「もちろんですとも」
五人の魔導士たちは二つの精霊石を外に投げると一斉に詠唱を始めた。
「「我は求め其方たちの顕現を要望する、現れよゴーレム!!」」
やがて精霊石を中心として砂漠の砂が集まり五メータのゴーレムが顕現した。
そしてもう片方のグループもゴーレムを呼び出した。
ジェイ達の行く手に前に2体の大きなゴーレムが顕現した。
魔導士たちは俺達に気づく前にゴーレムを顕現させた。
だが俺には暗視スコープでゴーレムは見えた。
「おお巨大ロボットだ!!」
肩に持ったサンクスは反応した。
「ロボット?」
「ああ、そうかこの世界ではゴーレムみたいなもんだな」
「知っ・・・」
サンクスは何か言いたそうだったが言葉を収めた。
(知っているよ、お父さんも言っていたよ「ロボット」それは機械仕掛けの人形なんだろう、人が操縦するんだろ・・・やっぱり同じだ)
俺達に気づいていないとは言え、相手はゴーレム二体。
少し予定変更だ。俺はサンクスを下ろした。
「俺はゴーレムを押さえに掛る。ラミアは魔導士を倒してくれ。サンクスはザガールの戦士たちの相手だ、無理をするなよ、それと出来るだけ奴らを殺すなよ」
サンクスは確かに強かったが子供だ、ラミアにも聞こえるように言うことでラミアは自分の仕事をしながらもサンクスもサポートするだろう。
小僧の武器は剣や槍ではなく棒やヌンチャクだった、つまりザガールの戦士を相手にするには最適だと思う。
「分かっているさ、任せておけ!!」
サンクスは張り切っていた。
フェスリーに乗ったロザリアが声をかけて来た。
「私はどうすれば」
「離れて見ていてくれ、どうもザガールの人にはフェスリーは神獣様のようだからね、魔導士が居る内にザガールの戦士たちが戦わないと彼らの家族が危ないんだ」
ロザリアは少し安心したように首を縦に振る。
「分かりました待機します」
「魔導士を片付けるまでは隠れていてくれ。ただしサンクスが危なくなったらフェスリーの姿を見せてザガールの戦士たちを大人しくさせてくれ」
そう言えばラミアは槍を投げていたはずなのに今は持っていた。
「あれ?槍?いつ取りに行ったの?」
ラミアは少し笑っていた。
「えっ?呼べば戻るのよ、知らなかった?」
「「そんな便利な機能があるのか?」」
俺の声にサンクスの声が重なった。
そう言った後直ぐにサンクスは棒を回転させながら投げた。
「戻れ!!」
サンクスが命令すると棒は戻ってきた。
「凄い、形が変わるだけじゃなくて、こんなことができるなんて、国宝でもこんな武器は見たことがないよ」
なるほどブーメランだな、小僧の武器の攻撃方法に幅が出来る。
そして全員再度前進を開始した。
サンクスはラミアのサンダーボードに乗せてもらっていた。
ラミアにしがみ付くサンクス・・・なんか照れているようだった。
俺達に気づいた魔導士はザガールの戦士たちを俺達に向けた。
だが俺はザガールの戦士を気にせず一気にゴーレムに向かった。
俺が近づくと2体のゴーレムは揃って俺を襲ってきた。
これは都合が良い、同時に息の根を止めてやる。
まずは
そして何も考えず一気に
ドドドッ、ドドドッ、ドドド・・・
絶え間なく爆発が続く。
その光景と爆音にザガールの戦士たちは動きを止め、魔導士たちは驚いていた。
その間にラミアとサンクスが敵を倒していく。
何も見えなくなった時点で
そこには石があるだけだったが、その石にまた砂がまとわりついてゴーレムになって行く。
「再生力が相当強いわけだな」
どうやら石は精霊石で結界に守られているらしい。
ならばもっと温度を上げれば良いのだろう、燃えそうな元素を集め酸素の量を調整すれば高温になる。
新たな術式を作り始めマクロ化する。
その間もゴーレムは俺を捕まえようと襲ってくる。
もちろん避けるのだがゴーレムは二体居るのだ。
一体のゴーレムが魔法を使ってきた。
俺の周りに炎の壁が出来る・・・
俺の結界の鎧はそんな温度では問題なかったのだが、温度が高くなると危ないかな?
(そうか、火炎魔法に関しても耐性が必要だな、みんなの結界鎧の耐性温度も上げておくか)
皆の腕輪の術式を少し変える。
並列意思で動作させているから簡単なものだ。
なぜかOSのインターネットでのバージョンアップの機能に似ているな?とか思った。
やっぱ職業病だな、それも前職だが。
俺が遊んでいる間にラミアが十名の魔導士を全員倒したと報告してきた。
怯んでいたとはいえ十名だぞ、本当にラミアは強いな。
だが俺の相手のゴーレムは動き続けている。
「ラミアすまない、今手が離せないんだ。フェスリーを連れてきてザガールの戦士達を大人しくさせて全員を安全な所に集めてくれ」
俺はゴーレムと戦わなくてはいけないのでラミアにお願いして、再度戦いに没頭していく。
出来上がった術式で
そして再度一気に
ドドドッ、ドドドッ、ドドド・・・
絶え間なく爆発が続くが今回は温度が上がっていた、その光景は先程よりも明るく白色に光り輝いていた。
今度はゴーレムも別々に行動している、別のゴーレムが俺を襲って来るので次のマクロを走らせることが出来ない。
とりあえず避けながらマクロを走らせる準備をする。
少しするとフェスリーがは走って来た。
あれ、みんなの所じゃなくてこっちに来た?
フェスリーは俺を見ると嘶き始めた。
ゴ~~~オォン
それは前回聞いた声とは違って太い声だった。
そしてその後一気にフェスリーの体が燃え始めた。
その光は温度が高くなることを現すように赤、橙色、黄色、そして白色への変化していった。
ロザリア達の鎧結界の耐性温度を上げておいて良かった。
ロザリアは温度が上がって行く間、フェスリーに必死にしがみ付いていた。
「フェスリー行くわよ!!」
ロザリアがそう言うとフェスリーはもう一体のゴーレムに向けて走り出した。
ゴ~~~オォン
フェスリーはそう嘶くと、口から炎を吐き出した、その炎は体と同じく白色の高温の炎だった。
高速で走るフェスリー、そのままゴーレムに突進していった。
ズバ~~~~~~~ン。
ゴーレムの体に穴が開き、そのままフェスリーはゴーレムを通り抜けた形で反対方向に立っていた。
その口には精霊石を持っていた。
フェスリーはその精霊石をかみ砕くと飲み込んだ。
ゴーレム化魔法はフェスリーが咬み砕いて無効化したらしい。
俺の
爆発の後、そこには何も残っていなかった。
俺はラミアに合流すると弱音を吐いた。
「俺もまだまだだな。ゴーレムを二体倒せなかったよ」
「大丈夫よ、あなたは十分強いわ」
ラミアはそう言ってくれたが納得は出来なかった。
ゴ~~~オォン
フェスリーは嘶くとやがて炎を収めた。
ただ不思議だったのはフェスリーが少し大きくなったように思えた。
そこでラミアに聞いてみたが「精霊石の力じゃない?」という話だった。
「俺の倒したゴーレムも精霊石を残しておけば、フェスリーにあげれば良かったな?」
そう俺が言うとラミアは否定した。
理由は簡単で、フェスリーは妊娠中だから今は刺激の強いことはさせてはいけないと言うことだった。
そうだったフェスリーは妊娠中だったんだ。
一件落着となってザガールの戦士達を集めた。
フェスリーを見た者達は膝まづきロザリアを聖なる巫女様と呼んでいた。
その後ラミアはグレスを呼びに行き、全てのザガールの戦士が集まった。
俺たちが居た結界を大きくし全員を集めて作戦を話始めた。
ただし、俺が話をしても説得できないだろうからグレスに話してもらうことにした。
「伝承が本当になるとは思いもしなかった、だが今それは現実のものとなった」
グレスは今はロザリアの肩に乗っているフェスリーを両手で包み込むような仕草をしながら敬意を払うような声で言葉を続ける。
「神獣フォグリスとその巫女の登場とともにジェイ殿によりダガダへの道が開かれたのだ。そして驚くことに我がクラバト王の遺言が私の手に有る今は多くを説明できないがクラバト王もダガダへの帰還準備をしてくれている。我々はダガダへ行くことが運命付けられたのだ」
ザガールの戦士達の中からどよめきが聞こえて来た。
グレスは声を大きくし全員を鼓舞するように続けた。
「我々を強く束縛していたものは命の水だった。だがその命の水の心配はジェイ殿により無くなるのだ。これにより我々を束縛している相手はたったの二十人だ。この人数であれば我らザガールの戦士であれば制圧は可能である。そして村に残る2千人を解放し全員でダガダに向かうことにする」
「「「おおっ!!」」」
ザガールの戦士達は大きな声で応答し総攻撃の雄叫びを上げた。
さて俺の出番だ。
「では作戦を伝える」
だが雄叫びをあげる者達は興奮していた。
「そんなものは要らない、力で攻めれば良いのだ」
という声が聞こえて来たので反論しておく。
「作戦無くして何が勇気だ。無策で挑むのか?それは無謀と言う。お前達にとって家族の命は大事だろ、だが家族から見ればお前達は大事な家族なんだ。そうだお前達の命も大事な命なんだと心に刻んでおかなければならないんだ。命が無謀なことで失われることは許されないことだ!!」
あほの俺が偉そうに言える立場では無いが、言いたいことを言っておいて作戦を伝えた。
暗闇の中2千人の救出作戦は開始された。
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