ロザリアとサンクス③

 『俺が死なないと召喚できない者』を待ち続ける小僧。


 そんな馬鹿な小僧には関わらないでおこう、そう考えようとしていた。

 でも何かすっきりしなかった。


 きっと小僧の目がその話をするときにキラキラしていたからだ。

 真っすぐに期待するその目が俺には眩し過ぎたんだ。


「ジェイ、二人も起きたから食事を作ってあげたら?」

 ラミアに言われて自分たちもバタバタしていて何も食べていないことを思い出した。


「二人には消化の良いものを食べて貰うとしよう」


 そう言うとあの穀物で二人用のおかゆを作る。

 でも、白粥では味気ないので少しの塩分と薬草?を入れて作った。


「なんだ、葉っぱが入っているし、少ししかないからお腹の足しにならないぞ」


 小僧が文句を言うとロザリア様が窘める。


「サンクス、今の私達の体調に会わせてジェイ様が作ってくれたのです、感謝して食べなさい」


 本当に設定をロザリア姉さんと弟サンクスに変えた方が絶対にあっていると思う。

 俺たちの前で、この茶番は何時まで続けるんだろう。


「小僧それだけ元気があるならもう少し食べるか?」


 なんか生意気な小僧だが憎めない。

 俺も結構気に入っているのかもしれないな。


 ハンバーグを作っていたので小さく切って出してみた。

 ハンバーグは子供の食べ物の中でも王様だからね。


「なんだこれ?肉と野菜が細かくなっていて団子になっているのか?それとこのソースはおいしい」


 ロザリアを見るとロザリアもハンバーグが欲しそうだった。

 そこでロザリアの分も用意する。

「消化に悪いから少しだけにしておくよ、胃腸がしっかりしたら色々と食べさせてやる」


 ロザリアは一口食べると満面の笑みをたたえて。

「本当、なんて美味しいの、この味は今まで食べたことがありません」


 ロザリオも大袈裟に喜んでくれた、さっきまでの雰囲気と違い子供らしさが出ていた。

 そうさ、姫とは言えまだ少女だ。

 その少女がこの砂漠を渡るという過酷なことを決意しているんだよな・・・


 夜は更けて行った。

 同じ結界ハウスの中で仕切りを作って二人とは違うスペースでラミアとコーヒーを飲みながら話をしていた。

 もちろん話声は子供達には聞こえない。


「ラミア、あの二人の事なんだけど、どうしたらいいかな?」


「ジェイはもう決めているのでしょ?」


「そうか俺の考えなんか簡単に見透かされているようだ、だったら今何考えているか分かる?」


「一緒に来て欲しいとか考えているでしょ」


「その通り一緒に行って欲しい、そしてドラゴンズゲートという場所まで案内して欲しいんだ」


「なぜ、ジェイはあの子達にそこまで肩入れするの?」


「アクアのエレメントの勇者ヒーローとして召喚されたのは俺だ、でも俺はアクアのエレメントの勇者ヒーローでは無かった。俺とは知らずあんなにキラキラした目で話してこられて、アクアのエレメントの勇者ヒーローに期待しているんだ、せめて真似事くらいは出来るんじゃないかなとか思ってね」


「ジェイが、アクアのエレメントの勇者ヒーローだって名乗るの?」


「そんな子供の夢を壊すことはしないさ。でも気が付いて欲しいんだヒーローという存在は小僧の思っているような物じゃないんだとね、今の小僧の考え方は危険だ」


 そうだ妄信は危険だ。


「それよりラミアは付いて来てくれるの?」


「もちろん付いて行くわよ、気になることがあるのよ」


「気になること?さっきロザリアの顔を見て固まっていたことかな?何かあったのかな?」


「何か大事なことを思い出しそうになったの、でも思い出せなかった」


「じゃあ決まりだね、一緒にドラゴンズゲートまで行こう」


「但し、一つ条件があるの」


「条件?」


「私は人型で頑張るつもりよ、だから人間として扱って欲しいの、たとえ窮地になっても人型でいるわ」


 俺はその理由を聞けなかった。


 そうさ、俺にとってラミアは愛おしい存在であり姿は関係ない。

 ラミアにとって姿は自分の本性に直結していることだから重要事項だ。

 俺は、姿が銅だなどということを話してラミアが”邪の者”だとかそんな会話はしたくはなかった。


「分かった、その条件飲もうじゃないか、俺がラミアを守ってやるさ、そしてあの二人も守るさ」


 そんなことを言っているとラミアが甘えた声を出してきた。


「ジェイ、今日の対価、子供達の分も私が払うわ」


 濃厚な口づけが俺の心を溶かして行く。

 

 俺は何となくだがラミアが言っていたことが思い出された。


 『何か成し遂げなければならないことがあるのよ』


 俺だけじゃないラミアと俺が何か成し遂げなければならないことがあるんじゃないか?


 そうさ、俺たち二人でやり遂げることがあるんだ、きっと何時までも一緒だ。

 そう思い込もうとした。



 朝になると二人とも元気に起きていた。


「「おはようございます、ラミア様、ジェイ様」」

 ロザリアとサンクスの元気な声が響いた。


「ラミア様は良いけど、ジェイ様でなくて馬鹿ジェイに訂正だ」

 相変わらず小僧は憎まれ口を叩いていた。


「何ですかこれ?」


 朝食にロザリアの驚くような声が響いた。


「パンとコーヒー、コーヒーにはフレッシュと蟻蜜を入れてね、そうそうパンにはこっちのバターを塗るのよ」


 ロザリアは初めて聞く言葉に現物を見ながら食べる努力をしていた。

 そうそう、馬鹿のサンクスみたいに味見もしないで蟻蜜やフレッシュをドバドバ入れることはしなかった。


「コーヒーとかパンとかフレッシュとかバターとか始めて見るものばかりですが、美味しいですね」


「そうか、口に合って良かった、フレッシュとかバターはミルクから作るんだ」


「ミルク?動物の乳ですか?」

 ロザリアが興味深そうに聞いてきた。


「そうだ、こいつの乳だよ」

 そう説明するとフェスリーを連れてきた。


「「フォグリス!!」」


 二人は驚き大きな声で叫ぶと、立ち上がり後ろに下がった。


「おいおい、どうしたんだ、何も怖がらなくてもこんなに大人しい動物だよ」


「それは人間を襲う危険な魔獣だ」


「そんなことあるか、この通り大人しいし小さいんだ」


「ジェイ様フォグリスは成長すると体長三メートルになるんです」

 ロザリアはか細い声を出した。


「馬鹿なことを、成長するととか、今妊娠しているんだぜフェスリーはこれで立派な大人だよ」


 ラミアが二人を腕の間に抱え込む様に挟むと、こちらに連れて来る。

「貴方達の言うことが正しいけど、見てフェスリーはジェイに懐いているの、別に危険では無いわ」


「ホント?」

 そういうとロザリアはフェスリーに触れた。


「ふわふわだわ」


「そうでしょ、ジェイったら毎日お風呂に入れていたからね」


 俺としては納得いかないことがあった。

「えっ、お前本当は三メートル?そんなに大きいのか?」


 フェスリーは結界の外に出るという素振りをした。

 そして外に出るとフェスリーは一声鳴くと光に包まれた。

 やがて尾っぽまで入れると確かに三メートルはありそうな大きなキツネのような魔獣になった。


「あちゃ~、やっちゃったかな・・・、なるほどな大きいな、お乳をあんなに沢山出せる筈だな」


 魔獣というのは動物と違い魔石を体内に持っているらしい。

 その魔石により魔法が使えるらしく、フェスリーもそれで小さくなっていたようだ。


 なに小さくなる魔法だけなら問題はないさ、今まで通り俺たちの家族だ。


 だが、その考えはロザリアの一言でひっくり返された。

「これが爆炎魔獣フォグリスの本当の姿ですね、始めて見ました」

 

 おお、そうかい『爆炎魔獣フォグリス』なんて強そうな二つ名が御有りなのね。


「大丈夫だ、フェスリーは俺たちの家族だ怖がることは無い、なあフェスリー」


 そう声を掛けるとフェスリーは頷き、元の姿に戻った。


 こういう時の女の子は強いものだ。

 なんとロザリアはフェスリーを撫ぜたり、肩に乗せたりして一緒に遊び始めた。

 一方のサンクスは少し離れて見ていた。


 しかし、魔獣を飼うなんて俺も無謀なことをしたものだ。

 それも妊娠中だ、ネズミのような繁殖力だったらどうしようとか考え始めた俺だった。


 そんなこんなでその日は昨晩の話を二人に出来ないままだった。

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