第8話 異世界にも「正当防衛」って概念は有るのだろうか?

俺を捕らえたナノ ピコ フェムトの三人は、移動の途中で、あやしい集団を見付けて、その後を追っている。

もちろん、捕縛された俺も巻き添えで、森の中の細いほっそい道を、蚊などの害虫に刺されながら、集られながら、痒かったり、痛かったりしながら、でっかい蜘蛛の巣が顔とかに貼り付いたりしながら、そのでっかい蜘蛛の巣を作った、人の顔より大きいサイズのジョロウグモを見て、恐ろしさを感じながら、一緒に歩かされている。

手を縛られているから、害虫が集っても、払って避ける事も出来ない。

悲しくて泣きそうだけど、もう泣いても良いかな?


やばいからもう後を付けるのは止めようよ。うん。マジでさ。


と、心の中で思っているけれど、立場的に言えない。

マジ 泣きそう。


あやしい集団は、細い獣道の途中の木々が開けた広場を抜けて、更に森の奥に進んで行った。

ナノは、後を付けて行くつもりの様だ。


「取りあえずアユムだっけ?こいつをココに縛って置いて行こう」


そんな事をナノが言っている。

おい。そんな状態で、凶暴な獣に襲われたら、俺はどうすりゃ良いんだ?

まあ、こんな縄くらい、簡単に引き千切って逃げられるけどさ。


「そうだね。動き難いしね」

ピコも賛成してしまった。


「わかった」

フェムトもかよ!


逃げられないと思っているんだろうけど、簡単に逃げられるんだからな!

教えないけどね!


ナノを先頭に、直ぐ後ろにピコ、少し二人から離れてフェムトが行く。

俺は、木々が開けた広場から少し森に入った所の木に縛られてお留守番。


ゆっくりと進む三人。

周囲を警戒しつつ、集団が消えて行った獣道へ移動する。

そして、三人が広場の真ん中辺りまで移動したら、広場の横の木々の枝葉が揺れ出した。

その揺れ出した枝葉を潜って、数十人の男達が現れた。

森から現れた数十人の男達は、ナノ、ピコ、フェムト の三人を取り囲む。


「どうして俺達の仲間の後を追っている?」


リーダーらしき男が三人に質問をした。


「あやしいからに決まってるじゃない!」


ナノが半キレで答えたが、いや この状況で、それはダメな対応だろう。


「そうか?まあ良い。お前等の持っている物を、全部 貰おうか」


あ、山賊確定じゃん。


「やっぱり山賊か!」

「最近 行方不明になる人が多くなったのは、あなた達のせいね!」

「もう噂になってるから、諦めて領主様の裁きを受けた方が良い」


三人共に、この状況でも引かない。


まあ、身包み剥がされそうになっているのに、弱気じゃ大人しく捕まってしまうだけか・・・・・・


「大人しくしな!」


山賊の一人がナタの様な物を三人に向けて、降伏する事を促し、他の山賊達も、カマやオノやナタなどを構えて三人を囲んだまま、威圧している。


ギンッッ!


あ、やっちゃった・・・・・・

ナノが持っている斧で、自分達に向けられていたナタの様な物を払い除けた。

「大人しく捕まる気は無いよ!」

自分達より、ずっと体格の良い男達に対して、一歩も引く気の無い三人の中で、特にナノは強気だ。


[剣術を覚えました]


えっ?今ので覚えたの?

覚えるのは助かるけど、今の状態で覚えても、剣どころか、武器は何も無いし・・・・・・


[剣術の基礎を見て覚えただけです。これからより高い技術を覚えて行きます]


そうなんだ?でも、剣が無いのに覚えても戦えないよ。


[武器は作成可能です]


えっ?作れるの?


[はい。スマートフォンですから]


いや、武器の作れるスマートフォンなんて、聞いた事が無いし・・・・・・


[でも作れます]


まあ、この状況なら、作れるのは助かるけどね。


[足下に落ちている、大きな木の枝を手に持って下さい]


いや、縛られているし・・・・・・

簡単に引き千切れるけどさ・・・・・・


ブチッ


あれ?一番細い縫い糸よりも簡単に引き千切れた。

少し食い込んで軽い痛みは有ったけど、ティッシュで作ったコヨリ並に、簡単に縄が切れた。

縄を引き千切ってしまうか悩んで、どの位 力を入れたら切れそうか、千切る気も無く、軽く力を入れたら、縄が切れてしまった。

うん。自分の身体の異常な程の強化を実感出来たよ。


で、木の枝?これで良いのかな?

どう?


[分子配列の変更や圧縮などを行い武器を生成します]


右手に持っていた長さ5メートル、直径15センチ程の木の枝が光り輝く。


「生成完了しました。刃の部分はより高圧縮されておりますので鉄以上の硬度と強度が御座います」


右手には、小さ目だが一振りの剣が握られている。

重量といい触った感じといい、木製とは思えない出来だ。

あれだけ大きな素材モノを材料に使ったのに、今では普通の剣サイズ位の大きさとなっている。それだけ高圧縮されているって事だけどね。

真っ黒い刀に近い形状の剣だ。

テカテカと黒光りしている。これがその辺に転がっていた木の枝とは、どう見ても見えない。


これで、山賊がこちらに向かってきても、応戦出来る様になった。


あ、気付かれた!?


こちらに向かって弓を構えている。


ブシュッ!


[弓術を覚えました]


おい!今度は弓術かよ!射ている所を見ただけじゃん!

って、危ねぇー!


カンッ!


ふぅー・・・

「あっぶねぇー!剣を作っておいて良かったよ。剣で避けられた・・・・・・」


[弓の作成をおすすめします]


「えっ?あっそうか・・・・・・ここからなら弓で攻撃する方が、安全に戦えるのか・・・・・・」


先程と同じく、落ちている大き目の木の枝を手に取る。


[分子配列の変更や圧縮などを行い武器【弓】を生成します]


手に持った木の枝が光り輝き、光が消えると、手の中には弓が形成されていた。

こちらも真っ黒い弓だ。


[矢は魔力で圧縮した空気を使用する事も出来ます。随時 木の枝や石などを変化させて矢に加工する事も可能です。どちらを使用されますか?]


「取りあえず、直ぐに撃ち込みたいから、空気を圧縮して矢を作ってくれ!」


[了解しました。弓を構えて下さい。アユム様の右手に空気の矢を生成します]


「クソッ!異世界に来て早々に戦闘かよ!」

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

山賊の武器を持つ手を狙って空気の矢を連続で射る。


「ぐっ!なんだ!?何か手に刺さったが、何も見えんぞ!魔法か!?」

「いてっ!」

「うぐっ!」

「あつっ!あいつか!?木に隠れていた奴が撃ってる様だぞ!」


あ、こっちに狙いが移った様だ。

不味いぞ、三人を助けようとしなきゃ良かったかな?でも、良さそうな人達だったし、人の住んでいる所まで連れて行って貰わなきゃならないし・・・・・・

やるしかないか!


ガギンッ!

ガッギリギリギリッ


ナタの様な物を、生成した剣で受け止める。

剣術以前に、こいつら凄く鈍い。

疲れているのか?楽に受け止められた。


ギャリンッ!

バシッ!


相手の武器を剣で弾き飛ばし、剣の峰で打ち据える。

あれ?もう動かない。

死んでないよね?


「おい!あいつ つえぇーぞ!一斉にかかれ!」


先程のリーダーらしい奴が檄を飛ばす。

いや、半数以上がこっちにって、来過ぎだろう!またハードモードかよ!


武器を弓に持ち替えて、近付くまで弓で攻撃を加える。


「いてっ!」

「ぐっ!」

「ぎゃっ!」


ガキッ!


オノっぽい武器で殺しにかかってきた。

マジかよ。


でも、俺としては異世界来て早々に、人殺しをしたくない。


バキッ!


ビシュッ!

バシッ!


襲い掛かって来る奴等を峰打ちにする。

うん。動かないけど死んでないよね?


今更だが、三人に合流しようと、歩みを進める。


バンッ!

バシュッ!

ギンッ!

ドンッ!


剣を振るう度に、剣術が補正されて技術が向上しているのが解る。

けど、それ以前に身体能力の違いからか、山賊の振るう武器の動きが遅い。

よく考えたら、弓で射られた矢も遅く感じて、剣で打ち落とせているのだから、山賊の動きが遅く感じるのは、身体能力の違いからだろうと、思った。


バシッ!

バンッ!

ビシュッ!

ドシュッ!

ビシッ!

バシュッ!


もう半数以上を打ち据えて行動不能にした。

ナノ、ピコ、フェムトの三人は、合流してから俺の後ろに隠れる様になった。

いや、ド素人の俺が護るって・・・・・・

あなた達 さっきまで俺の事を縛ってたよね?


ビシッ!

ザシュッ!

バシッ!


もう残り三分の一程度まで動いている奴を減らした。

退却しながら、弓で射て来るので、戦闘を止める事が出来ない。


このまま追うしかない。


追い掛けて行くと、崖の下の洞窟がいくつか開いている広場に出た。

洞窟の一つは、入口が格子状になっており、牢として使われているのだろうというのが解った。


ん?広場には女子供が沢山居る。

この人達も攫われた人達なのかな?

逃げ惑っている。


取りあえず、牢だと思われる洞窟の前を目指して移動する。


「なあ?行方不明になった人達が、あの格子状の入口の洞窟の所に居るかも知れないから、あそこまで移動するよ」


「「「わかった!」」」


三人共に良い返事だ。


三人はたまに襲い掛かって来る奴の相手をするだけで、基本的に俺の後ろに隠れたままだ。

俺は三人の護衛かよ!


バンッ!

ギンッ!

バシュッ!

ギンッ!

ドンッ!

ザシュッ!


獣道の邪魔な枝葉でも払うかの様に、山賊を剣の峰で打ち据えながら、牢らしき洞窟の前まで辿り着いた。


うん。やっぱり人が囚われている。


「今 助けてやるから安心して!」


ナノ達 三人を牢の前に残し、まだ襲い掛かって来る山賊に剣を振るいながら、リーダーらしき男に向かって歩みを進める。

山賊は、まだ諦めずに襲い掛かって来る。

しかも、峰打ちされて意識を失ってた奴等の中で、意識を回復した奴が、また武器を持って襲い掛かって来る。


正直 殺さずに対応するのに疲れてきた。

うん。イライラする。


リーダーらしき男の所まで、なかなか辿り着けないのも、イライラの原因だ。

そいつさえ打ち据えられれば、全体が諦めるだろうに・・・・・・


あーっ!マジでイライラする。

うん。キレそうだ。


キレたら勢いで山賊達を殺ってしまいそうだ。

いや、きっと殺ってしまうだろう。


「おい、こら。いつまで負けを認めねぇーんだ?これまでは生かしておいたが、これからは斬り捨てるぞ。歯向かう奴等は皆殺しだ」


[威圧の技術を獲得しました]


リーダーらしい奴も含めて、山賊達が武器を捨てた。

中にはションベンを漏らしている奴も居る。

えっ?威圧って、そこまで圧を掛けてない筈だけどな・・・・・・


あれ?ナノ ピコ フェムトの三人も、顔を青くして怯えている。

あれれ?いや、俺 超温厚だから!

そんな殺人鬼でも見る様な目で見ないで!

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