第5話 カラオケ

忘れ物を取りに戻ったにしてはやけに遅い


「2人ともーー!お待たせーー!」


元気に駆け寄る彼女の手にはとても可愛い忘れ物が握られていた。


「夢久知さん大丈夫?初谷縁さんに無理やり連れて来られたとかじゃ」


「ちょっと!いくら私でもそこまで強引じゃないよ!」


「あはは、ごめんごめん」


「そういえばアリシアちゃんってカラオケよく行くの?」


相変わらず無口だがしっかりと首を横に振る


「そっか!じゃあ今日は楽しもうね!!」


静かに頷く彼女は無表情ながらも少しだけ嬉しそうに見えた。





「よーっし!!今日は盛り上がるぞー!!!」


「桜ちゃん張り切ってるなぁ」


「そうだね、遅くなったけど今日は誘ってくれてありがとう」


「気にするな、こっちこそ忙しい所無理言ったみたいですまんな」


「大丈夫、掃除は明日からでも出来るし」


「そこっ!!2人だけでなーに盛り上がってんの!!!!!」


「ちょっ、マイクを使ったまま叫ばないでよ初谷縁さん」


「皆私の歌を聴けーーー!!!!」


決して上手くは無いが楽しそうに歌う彼女を見てるとなんだかこっちまで元気になる


「…ぎ」


「ん?どうした?」


服の裾を引っ張りながら夢久知さんが何か喋りかけてきているが声が小さ過ぎてよく聞こえない


「…すぎ」


「え?なんて?」


再び聞き直すと彼女は俺の耳元にそっと顔を近付けた


「…見過ぎ」


「え、あぁごめん」


何故か反射的に謝ってしまった。


初谷縁さんは顔立ちこそ幼いが美少女と言っても差し支えなく胸も大きい


傍から見るといやらしい視線を送っている様に見えていたのだろうか


まぁ全く見ていないと言えば嘘になるな…


「透君、私の歌どうだった?」


「下手ではないけど上手くもなく、コメントし難い感じだったなぁ」


「友太君には聞いてません!」


親野君は意外とハッキリ言うタイプらしい


「俺は良かったと思うよ」


「本当!?ありがとう!!」


「じゃあ次は誰が歌う?」



「…歌う」



「「え?」」


小さな声が聞こえ皆が聞き返すと夢口さんは机の上のマイクを掴んだ。


「私が歌う」


「まさか夢久知さんが自分からマイクを持つとは」


「良いじゃん良いじゃん!!ノッてるねーアリシアちゃん!!」


顔が赤い様に見えるが大丈夫だろうか、無理してないと良いのだが…



「♪〜♪〜♪♪〜♪〜」



そんな心配とは裏腹に彼女は透き通る様に綺麗な歌声で歌い上げた。


「凄い!!!アリシアちゃん歌めっちゃ上手いじゃん!!!」


「おー!!意外な才能を隠してたんだな!!」


褒められ慣れていないのか少し照れた様子でモジモジしている。


「夢久知さんの声綺麗だね」


「ありがと」


皆と同じ様に一声掛けると彼女は一言だけ返してそっぽを向いてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る