第6話 晩餐
楽しい親睦会が終わり、埃とカビだらけの寂しい我が家に帰宅する
少しでも家の掃除を進めようと奮戦するが緊張が解けて疲れたのか、あまり進めることが出来ずに時間だけが過ぎてしまった。
「お腹減った…」
帰りがけにスーパーで買った惣菜で夕食を済ませようとしているとインターホンが鳴る。
「はーい、今出ますよー」
ご飯時にタイミングが悪いと思いながら玄関を開けると
初谷縁さんが立っていた
「あれ?初谷縁さんどうした?」
「いやー引越して来て間もないから料理とか大変かなって思ってね、簡単なのだけどご飯を作って持って来たから上がっても良いかい?」
そう言いながらも彼女は既に靴を脱ぎ始めている。
「わざわざありがとう、だけどリビングとキッチン以外は埃っぽくて」
「へーきへーき!気にするな少年!」
「平気ならこっちは良いんだけど」
リビングに案内するとテーブルの上に飾られた惣菜を見てやっぱりなという顔をされた。
「当面の間は1人暮らしなんだから仕方ないだろ」
「別に何も言ってないよー、料理出来ないなら私が毎日ご飯作ってあげよっか?」
ニヤニヤしながらからかわれると顔が可愛かろうが多少腹立たしいものだ。
「そう言えばどうして俺の家を知ってたんだ?」
「あ、あー!それねー!何でか説明出来ないけどなんとなーく導かれたと言うか…これもしや運命では!?」
「うんうん、それで本当は?」
「やっぱバレたか、昔から嘘吐くの苦手なんだよな〜」
彼女を問い詰めると観念したようにおどけてみせた
「透君ってさ10年くらい前もこの家に住んでたんだけど、その時の事覚えてる?」
「いや、正直あまり覚えてないな」
「そりゃそうだ」
私達もまだこーんなにちっちゃかったからねーと言いながら手で小ささを表現している
今のおどけた仕草や落ち着いた話し方が学校やカラオケでの初谷縁さんのイメージとあまりにも遠く、まるで別人の様に感じた。
「ま、簡単に言えば私のお母さんと透君のお母さんが古い友人だったから家を知ってたってだけなんだけどね」
友人だったね…なるほど、言い辛い訳だ。
「そっか、母さんの…」
「ま、まあせっかくご飯持って来たんだし冷めないうちに食べよーよ!!」
「そうだな…」
話はこれで終わりと手を叩く彼女は気付けば喋り方も雰囲気も元に戻っていた
家がご近所さんなのかまだほんのり暖かいタッパーを開ける。
「おー、美味しそうな肉じゃがだ」
「でしょ?なんと私の手作りです!」
「それじゃあ早速頂きます」
「どーぞどーぞ!」
肉じゃがを口に入れるとほんのり甘く、優しい味がした。
「なにこれすっごい美味しい!!」
「本当!?口に合って良かった!!」
普段はスーパーの惣菜やコンビニ弁当ばかり食べているからか手料理が体に染みる
談笑しながら食べ終わった頃には大分遅い時間帯になっていたので家まで送る事にした。
「今日はご馳走様、本当にありがとう」
「どういたしまして!」
「それにしても美味しかったなぁ…」
「ね、ねぇ、そんなに気に入ったなら明日からもご飯作ってあげよっか?」
「いや、嬉しいけど流石に悪いよ」
「別に気にしないで良いのに…」
そう言うと彼女は少し拗ねたのか子供っぽく口を尖らせる。
「じゃあお言葉に甘えてたまに食べさせて貰おうかな」
今度は得意気にドヤ顔をしている、表情の忙しない子だ。
「私の手料理が恋しくなったらいつでも申すが良い!」
「ははぁっ、有り難き幸せ」
歩きながら話している内に彼女の家に着いた、やはりご近所さんだったようだ。
「送ってくれてありがとっ!それじゃあまた明日学校でね!」
「今日金曜日だから明日は休みだよ」
「あっ!そうだった、えへへ」
照れ笑いを浮かべる姿はあまりにも可愛く、天使が舞い降りて来たのかと錯覚してしまう程だ。
「それじゃあまたね」
改めて別れの挨拶を交わし帰路に着いた。
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