第16話『うそ、好き、嫌い』

 参道は賑わっていた。名産の餡餅店には長い行列ができていた。おみやげ屋さん、食堂、陶器屋などが連なっていた。しかし、この通りも町の通りと同様、例外なく変わってしまう。30年後には場違いなカフェ、コンビニなどができる。人同様、街も変わらないと生きていけないようにできているから仕方がない。

 女の子たちは左右のある店、ある店「見たい、見たい!」と直線には動けない生き物らしい。古賀をちらと見たが女の子たちを見ている様子はなく、考えごとをしている顔に見えた。思えば古賀について知っていることはほとんどなかった。ス―ツをラフに着ているがシルエットがこの時代のものではないような気がする。気のせいだろうか?「はい、ここからデ―トタイムにしましょう!まずは古賀と坂口さん、僕と田中さんでいきましょう」古賀「よし、がんばるぞ」坂口さん「ウフフ、お願いします」僕「田中さん、いきましょう。昔の僕を教えてくれる?」「仕事は昔から出来た。今、出来てないけど(笑)」「すいません」「リ―ダ―シップがすごかった。部下を守るためなら相手が誰であろうと歯向かった。見ているこちらは心配だった」

「あと、不平等に敏感だった。うちらは高卒でノンキャリでしょ。大卒のキャリアに劣等感を感じているように見えた。それで不平等な案件があると平等を力ずくでも勝ち取った。覚えてないの?超問題児よ」「人は忘れる生き物だからね~。覚えてない~(笑)」「まあ、上司の命令は聞かなかったわね。今と正反対よ。」「それはだめだな。死に急いでいるな。どこかにスイッチがあるのかな?調べてよ?」「いやよ。口説いているの?」「アハハッそうだよ」「まさか山口さんとこんなバカ話ができるなんて思ってなかった。昔からおもしろい人だったけれど私は避けてた。そのスイッチが入るのが怖かったからかもしれない」「そうですか。スイッチ?探してくれない?」「もう、怒るわよ」「アハハッ冗談だよ。今日、来てくれてありがとう。ちょっと訳ありで設定したんだけど田中さんとふたりだけでもたのしいな」「……うまいわね。すごくモテるっていううわさは聞いてる」「え? そうなの。ちょっと待ってよ。会社では上司の言うことは聞かなくて私生活では女たらしなの?最悪じゃん。」(お父さんあなたは何をしているの……)「私が聞いたのは、ある女性が山口さんにつきあってほしいって告白したんですって。そしたら山口さんは両指ふさがっているからごめんなさいっていったらしい。そしたらその娘は足の指でもいいからお願いしますと言ったらしいの、これって本当?」「本当(転生する前にも同じ経験してた)、でも僕は複数の女性と同時に付き合ったことないし、告白してくれた娘にどうしたら笑ってお断りできるかを考えてとった行動であり悪気はないんだ。わかってほしい。それに僕はその娘のことはほとんど知らなかったからお付き合いなんてできないよ」「やさしいのね。でも罪つくりよね。キッパリお断りすべき時もあるんじゃない?」「そうだと思う。でもキッパリお断りすればその恋に終止符が打てるのかといえばそうとは言えない。だから僕にはそれが出来ないんだよ。哀れな男だよ」


 2つのカップルは本殿前で合流し、おのおの思いで参拝した。そしておのおのを守り給う御守りを購入した。僕は交通安全の御守りを買ったが坂口さんが何を買ったかは確認できなかった。帰りの参道は山口・坂口、古賀・田中ペアでふらついた。

「疲れてないですか?動力は何?」「大丈夫です。水素です。」「水素!なるほど水しか排出しない」坂口さん「ちょっとそんなこと忘れたい」「そうだね。ごめんなさい」「手をつなぎたい」「古賀ペアは先の方だし大丈夫か!」「手つなごう」「うれしい」「休みの日は何しているの?」「掃除とハムスターのおうちの掃除」「ハムスター飼ってんだ」「うん」「名前は?」「ハム太郎」「アハハッそのままやん」「部屋はどんな作りなの?」「3DK」「え?ハムスターの家じゃなくて」「じゃなくて、広くていやになる」「は~広いね、坂口さんが選んだの?」「うんん、ここに住めって言われただけ。1Kでいいのに」「話が戻って申し訳ないけど今回のプロジェクトで坂口さんの相手に僕がなったのはなぜ?」「私が選んだから」「でもね、田中さんから話聞いたけど僕とんでもない奴だったみたいだよ」「私も1年いたから知ってる、無茶苦茶な人よね」「無茶苦茶っていうなよ、僕が考えるに目的を達成するのに手段を選ばない奴だったみたいだな」「そうね。誰でも出来ることではないわ。あなたがしたことすべて自分のためではない、ひとのため。自分がどういう処遇になろうと刀を抜いたわ」「格好よくいいすぎ」

「また話が変わって申し訳ないけど僕たちどうなるのかな?」「わからない。Dr.9が決める」「Dr.9?」「この国家プロジェクトはトップシ―クレット、県土木事務所に来たのは下部の下部組織。Dr.9の考えに国家が従ってる形ね」「Dr.9……ね。誰だ?まあDr.9もいいけど時間が限られているから次、温泉いかない?」「いくいく」「箱根、黒川、湯布院どこがいい?」「え~正直に言っていい?……箱根!」「決まりだ。写真のジョンレノンに会いに行くか!」「そのまえにうちにも来て!」「……うん」あと15歳若ければその場で押し倒してる。


 4人は合流し、帰途に立つ。おのおのの思いは離れては引き合うグラスのなかの氷と同じで冷たい冷静さは保っていた。

 


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