第13話『告白』

 仕事は全くわからなかったが友達はわかった。名は古賀、長身、長髪のいい男だ。私は父が亡くなるまで友達に会ってくるとの話は聞いたことがない。私も友達がいない。ほしかった。古賀が小さなメモを渡してくれたのでわかった。「今晩、飲みにいこう。面談室での話聞かせろ」「わかった。ありがとう」とのメモを返した。今ならラインで済むことだけどこれはこれで楽しいものである。

 終業時間になると古賀は私を捕まえてさっさと事務所を出た。私は父がどういう人間なのか知る必要があった。35歳の父を演じなければならない。また、国家プロジェクトは秘密だ。あとは本来の父とは少々違っても酒がごまかしてくれるだろうと思った。

 古賀は何も言わず先に進んだ。行き付けでもあるのか?顔が真剣なので何か悪いことしたのかな?と思っていたら居酒屋に着いた。「空いてるね!」「やっぱりここのバラが最高だよな山口」「真剣な顔は空いているかを心配してか……バカかこいつ」古賀はヨレヨレのバック、僕のは牛革製のばりとしたバックを隅に寄せて「とりあえず生2杯」と古賀が注文した。そして飲む前に話があると言い出した。「なんだよ、なんかやらかしたのか」「そんなんじゃない……好きな人いる……」「よかったんじゃん。誰よ?」「お前も知ってる人だ。」「え? 役所の人?」「うん……坂口さん」「え! うそだろ」「なんでうそつく必要があるんだよ」「ないけど……かわいいよね」「顔、スタイル、性格、センス……絶対無敵だよ!」「確かに無敵」「はい、生2杯」「乾杯」「焼き物どうしましょう?」私「とりあえず3千円くらいてきとうに焼いてもらえますか?」「3千円!」古賀が「大将ごめん。こいつバカだから。千円でお願いします」「あ。物価が違うのか……」「バカかお前は……」「ごめん、で、坂口さんはうちに来てどのくらいになるのかな?」「1年だ。ぴったり」「ふ~ん、告白するの?」「する」「なんで今のタイミングなの?」「彼女が部署異動するかもしれないとのうわさがうちの部署の野郎どもの間で広まった、野郎どもはみんなゲンナリしている」「バラうまいね、さがりもうまい、こんな昔からうまいんだ、生2で」「何を言ってるんだ、話を聞け」「聞いてるよ。彼女は彼氏とかいないの?」「それなんだよ。私生活が全くわからない」「それじゃ、おまえがどんなに熱くなっても、彼氏がいたらチャンチャンでおわりだ、生2とバラ4で」「それはお前の言うとおりだな……」「こうしないか?ふたりで彼女と友達ひとりをデートに誘う」で「4人でデートしていい感じだったら、今度はおまえがひとりでデートに誘う」で「脈ありそうだったら告白すればいい」「なるほどね。おまえいいやつだな」(だめだ、罪悪感で吐き気がする。しかし私は坂口さんとの交際を義務付けられたが坂口さんが複数人と交際するかは自由のはずだ。もしくは3人で交際するのはだめなのだろうか?そもそも何で俺なんだ……くそったれ。

「ごめん、自分のことばっかりで」「ぜんぜん、生2」「面談室の件はなんだよ?」「ああ、川の拡張工事でうちの家が立ち退きになるんだって。ボロ家だからラッキーだよ」「そうか、それはよかった。」(古賀こいついいやつだ。坂口さんの件で友達でなくなったりしたくない。この歳、本来50歳になると女より友達の方が大切だからね……)

 生ビールからチュウハイに変え、数杯飲んだぐらいからふたりとも記憶があいまいで古賀が初デ―トが楽しみだと繰り返し言っていたのは覚えている。「ここの代金は払う。そのかわり、あと万事おまえにまかす」と言って寝てしまった。「ラッキー!生1杯とバラ2本!」

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