第12話『35歳の父への転生』
早朝覚醒が常だ。2~3時には目を覚ます。運が良ければ朝まであと一眠りできるがそうでなければ朝まで床で待つしかない。
その日は早朝覚醒せず朝までグッスリ眠れた。それが逆に不安にさせた。起きたらすぐに行動するタイプだか、暫く、天井を見つめていた。「なんか、見たことあるな……そうだ、おばあちゃん家だ」「昨日泊まったのかな……覚えていない」「さあ、起きよう」「文士さん、おはよう」「ばあちゃん、おはようございます」「文士? 父の名前だ」鏡を見て、新聞の日付を確認した。鏡に映ったのは私の父だった。子供の頃見た父の若い時の写真と同じだった。昭和40年だから35歳の父だ。「ふ~ん、こんなことあるの?」誰かに聞いているわけではない。父は公務員だったが人間関係もわからず、理系の仕事をしていたので「できるかな?僕、文系」とまず心配になった。
父は10人兄妹の長男だ。出生地はフッリピン。おじいさんがマニラ麻の貿易をしていたらしい。それでなのかわからないが父は船乗りになりたかったと聞いている。しかし兄妹の生活費を稼ぐために公務員になったらしい。分厚いハ―ドカバ―の本が本棚に並んでいたのを今でも覚えている。頭がかなりの良かったらしい。
私が物心ついたころには父はすでにアル中だったが、いつ、なぜ、そうなったかを知る由もなかった。「知ることができれば、僕のギャンブル依存解決の糸口を知ることができるかもしれない」私は自分のために父として生きることにした。
勤務先は名刺で確認した。県土木事務所だった。「おはようございます」「山口さん、おはよう、急で悪いが3Fの面談室に行ってくれ」「(相手が誰とも知らず)なんだっていうのですか?」「怒らずに、頼むよ。相手はかなりのお偉いさんだから……」「わかりました」
「失礼します。山口です」「入れ、待ったぞ」「すいません」入室するとス―ツを着た者が3名、白衣を着た者が3名座っていた。「座れ」「はい、タバコ吸っていいですか?」「いいぞ」ミニスターだった。私はこれをすってタバコを覚えた。
一番偉そうなのが口火を切った。「いまから言うことは命令だ。従ってもらう」「何ですか」白衣が話始めた「ある国家プロジェクトの最終段階にある。端的に言えばある女性と交際してほしいのだ」「女、いいですよ」「待ってください。彼女はロボットなんです」「女のロボット、いいですよ」「待ってください。このプロジェクトには莫大なお金と時間を要しました。彼女は過去に30名以上の男女と時間を共にし、カスタマイズを繰り返してきました。医師、弁護士、歌手、工場勤務、ホ―ムレス……そして最後にあなたと交際してほしいのです」「いいですよ」
お偉がたは一同互いを見合った。「こいつでいいのか?」「選択は間違いないのか?」と本人がいるのに議論が始まった。それで本人に決めてもらうことにしようということになった。一番偉そうなのが「名前は、坂口恵紫さん、そうもうおまえの職場で働いている」「え? となるところだろうが知らない。でもロボットでも普通に働いているんだ。すごいな」とは思った。「交際期間はまた連絡する、坂口さんの気持ちも配慮したいから」「僕の気持ちにも配慮しろ」と思ったが「あの、交際費は?」「出す」「OK」これで話しはまとまった。「坂口さんを呼んで」「はい」下っ端が呼びに言った。父に付き合っている人はいなかったんだろうか?と心配したがその時は2人と付き合えばいいやとふしだらなことを考えていたが、彼女が現れた「山口さんがいいです。山口さん、宜しくお願いします」「坂口さん……美しい」0.1発でKOされた。
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