第9話(35歳・完)

 大山課長から配属された人事課は多忙を極めた。1000名の社会保険と労働保険をデイリーで一人でこなし、役員会の資料の作成、許認可の資料の作成、現場訪問など終わりが見えなかった。


 配属して3ヶ月目くらいかな。ここ2ヶ月くらい寝ていない気がする。

 課長に言った。「眠れません」

「そう、困ったわね。T病院に行きなさい、それと日中寝たくなったらいつでも寝ていいから」

 T病院は総合病院で精神科を受診した。2時間くらい待たさせて

「次の方、どうぞ」

「はい、お願いします。」

「長くお待たせしてすみませんね」と先生。

これが現在でも私の主治医であるN先生との初対面だ。15年間、診ていただいている。先生は総合病院から専門病院に移られて今は院長をされている。私も先生に付いて病院を変えた。他の受診者への対応はわからないが先生は私が悪いこと(パチンコ)したら機嫌が悪くなるように感じた。それでもうそを言ったらもっと機嫌が悪くなることを知っているのですべてを正直に話している。私が死ねば最初に合点がいくのは先生だろう。というか理解できるのは先生だけだろうと思う。


 10年前、先生の診断は《鬱病》。10年後になんと《両極性障害》に変わった。この2つの病気の判別は一流の医者でも難しい。この15年で入院1回。2年間の自宅療養。自殺未遂1回

「死にたい」と思わないことが少ない

「薬は1日23錠服薬している」

「死にたい」

「ねむれない」

「早朝覚醒が直らない」

「くらくらする」

 これらを薬物療法で薬を変えながら、増やしながら、減らしながら今の服薬にたどり着いている。

 経験からうつ病より躁うつ病の方が危険だ。攻撃的になる。相手がバカに思えて仕方ない、えらくなったような気がする……これで会社を何回変わったかわからない。


 これから先も他人に自分が躁うつ病であることが決してばれないように生きていくことしかできない。

  

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