第5話(35歳)


 ビルメンテナンス会社で勤めていた。

自社で雇用し、契約先でお仕事してもらうのが商いだ。社長が創業者で従業員は1000名の中堅企業だった。

 私の仕事は契約先のお客様対応、従業員の管理等であった。たが実際には作業することも少なくなかった。土、日は契約先会社がお休みなのでオフィス内、廊下などを剥離してワックスを乗せるにはもってこいだった。

 余談だがファミレスが企業化出来たのは当時の米国を視察した偉人がこれからは自動車化が進むと確信し、ロードサイドに店舗を作ったからだ。

 ビルメンテナンス会社も戦後、米軍が引き揚げた際、ポリッシャーを残したままでこれを日本人が使いこなして仕事にしたことから始まっていた。


オフィスで、

「山口さん、ちょっと」

「はい(なんかやらかしたかな?)」

 人事課の大山課長だ。(女性、やり手、厳しい、酒好き、ギャンブル好き……)

「あなた、社会保険労務士に合格してるわね」

「……」

「官報にのってる、後藤課長から聞いていたから確認したの」

「はい」

「人事異動させるから」と大山課長。

「課長、知識が多少あるだけで実務経験は全くないです」とあわてる。

「初めから経験ある人なんていないわよ」

 入社して3ヶ月経っていなかった。

 その頃の私は、「いやです」が強く言えなかった。それと将来、独立して先生と呼ばれて仕事がしたいとのもともとの願望もあった。

「わかったね。よろしくね」

 それから大山課長は既存の人事課に携わる社員をバッサバッサと退職させ、空いた机に私を据えた。






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