第3話(50歳)

 最近はやりの歌やアニメを面白いと思わない歳になった。聞かない、観ないということもあるのだろう。

 動画配信サ-ビスでは映画は自分が20才前後の頃の作品を見返し、アニメは10才くらいのものを好んで観ている。

 そもそもこんな歳まで生きるつもりはなかった。でもこればっかりは仕方ないし、母が健在なのでこれ以上の親不孝をするわけにもいかず首を吊るわけにもいかなかった。まあ、吊る勇気も恐ろしい衝動も今のところはない。


「山口さん、今日、残業2時間できる」

「はい、ありがとうございます」

 派遣社員でフィルターを作る工場で働いて1年になる。1年続いたのは私にしたら上出来だった。

 出来上がったフィルターを洗浄機に装着させてボタンを押す。それだけ。それでも

「山口さん、ここね、また間違えてましたよ。1回、2 回じゃないですよね」とすごく怖い福田さん。

子供がいればこのくらいの歳かなと思える正社員のリ-ダ-から叱られてばかりいる。

 福田さんは誰よりも早く出社して、誰よりも遅く退社する。猛烈?今でも使う?社員だ。密かに体の心配をしている。

「僕にも寝ないで仕事をした頃があったな」

今からもう15年くらい前になるかな。だからえ~と35歳のときだ。

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