第12話 帰国

 城の廊下は基本走ってはならない。どんな緊急事態であっても国の中心である城に勤務する者は、取り乱すことなく冷静に行動すべきだ。日頃からそのように教育されている。

 しかし、この日はそれは不可能だった。家来の一人が廊下を壊さんばかりの猛ダッシュで王の部屋へと向かう。その勢いでガンガンと扉をたたき返事を待たず王に向かい叫ぶ。

 「お嬢様が帰られました。」

 アーランドソン王は家来の無礼など一瞬のうちに忘れすぐさま立ち上がり、机の書類をまき散らし部屋の扉も閉めず、そして日頃の教育も忘れ廊下を猛スピードで走る。

 「ティナはどこだ。」

 取り乱し、どこへ行くべきかも確認していない。

 「王、逆です。こちらです。裏門です。」

 一緒に走って追いかけてきた家来がハアハア言いながら王に伝える。王はつまずきながら廊下をUターンし来た道のほうへと走り始める。


 昼過ぎ、城の裏門に何事もなかったかのようにティナが戻ってきた。門番はティナがあまりに変な恰好をしていたため最初気が付かず、また、まさか誰にも見つからずに人が裏門まで来るとは想像してもおらず仰天した。

 アーランドソン王はティナの姿を見ると、その数十年前の貧乏小学生のようなヘンテコな姿に仰天しながらも生きていたことに胸を撫でおろし感激のあまりボロボロと涙を流し、そして娘を何年かぶりに抱きしめた。ティナはどれほど心配かけていたのかを悟り、父に「本当にごめんなさい。」と謝った。

 

 アーランドソン王は、すぐに落ち着きを取り戻すと、家来達に姫が帰ってきたことを城内のものに周知するよう伝えるとともに、ティナと2人きりで話がしたいと伝えた。重要な話のため誰も近づかぬよう部屋の外に家来を数人配置するとともに扉に鍵をかけ、誰にも会話が聞こえぬよう奥の部屋へと入った。

 「どこに行っていたのだ。ティナ。」

 ティナは言いづらそうな仕草で何も言わなかった。

 王は、ティナが誰にも気が付かれず城を抜け出したこと、また戻ってきたこと、ここ数日間ティナが誰にも発見されていないことから、ティナが魔女である可能性が極めて高いと悟った。しかしながら慎重に探るように話した。

 「ビッグケーキ麓へは行ったのか。そして誰かと会ったかい。誰と会ったかは言わなくても良い。行ったか、行っていないか、そして会ったか、会っていないかだけ教えてくれればよい。」

 「ええ、行きました。そして、一人の人に会いました。」

 ティナは静かに答えた。

 「それは女性だったかい?」

 「ええ。」

 「そうか。おばあちゃんと会ったのだな。」

 ティナはまた言いづらそうにうつむいた。王は、魔女であることに間違えないと確信した。

 「ティナよ。私は男性だ。しかし、この国の王やその兄弟はお前たちと同じく掟により縛られている。特別な契約が交わされているのだ。だから、お前が今隠そうとしていることは私は知っても問題はない。私もその秘密を他人に漏らすようなことがあれば呪いで命を失うであろう。私はおまえが使えるであろう魔法は使えない。しかし同じ立場なのだ。話してごらんなさい。」

 ティナは恐る恐る自分がシホホネスにいたことを伝えた。

 「そうか、そしておばあちゃんには魔女として生きる術を教えてもらったのだな。本当に良かった。」

 

 ティナはずっと気になっていた。あの老婆は私のおばあちゃんなのではないかと。するとミヤコさんももしかすると近い親戚だったのか。

 「何はともあれ本当に良かった。」

 アーランドソン王はティナを一切叱ることなくただただ安堵した。むしろ、娘が今は亡き妻に似ている事を少し誇りに思うほどであった。


 アーランドソン王はティナのどこで手に入れたかも分からないような滑稽な服装を着替えさせた。またティナが少し疲れている様子を見せたため少し横になるよう伝えた。

 その夜も家来や兄弟には2人だけで部屋で食事がしたいと伝え、食事は部屋に持ってくるよう命じた。

 

 アーランドソン王はティナに責めることは絶対にしないと約束し、数日の出来事について話すように言った。ティナは最初喋りづらそうであったが、徐々に話し始めた。出て行った目的を聞き、大変申し訳ない気持ちになった。

 「ティナよ。本当にすまなかった。許してほしい。魔女には秘密や掟がありそれを伝えるまでは家から出したくなかったのだ。まさかあんな変な者たちが訪れるなど想像していなかったのだ。すまない。」

 「でも、お父様。あの者達が言っていたこともまるっきりの嘘ではありませんでした。確かにこの世は女性にとっては危険な場所なのかもしれません。」

 いったい何を見てきたのだ。変なものを見て勘違いしていなければよいが。

 ティナは1日1日を思い出すように話した。

 

 しかし聞いて行くうちに、なにやら引っかかるものを感じた。

 原生林の家でおばあちゃんと出会い、魔女の秘密、掟について教えてもらったところまでは良い。いやここも実は少し違和感がある。

 まず初めに気になったのはミヤコなる女性。初めて耳にする。そしてシホホネスで生活する他の家を貸してくれた?一体どういうことなのだろう。

 家の近くで自殺をしようとしている女性がいたので助けた。これは良い。しかし、気持ちが暗くなったときにおばあちゃんからもらった薬を飲んだと言う。あのおばあちゃんがティナに大量に薬など渡すだろうか?そしてそのような薬をおばあちゃんが持っている事も見たことがない。魔女の秘密の一つか。

 シホホネスではミヤコなる女性に仕事を頼まれたという。これも意味が分からない。

 シホホネスは裏で魔女狩りの組織があることは噂で耳にしたことがある。だがしかし、なぜミヤコなる女がそれを探っているのか。そしてミヤコなる女は、おばあちゃんと知り合いとか。ではなぜ王であるこの私に、そのことを一切教えてくれないのだろうか。

 

 そしてついに説明のつかない事をティナが話す。

 おばあちゃんに会ったときに、魔法をいくつか、そして魔女の掟については魔女であることを魔女以外に教えてはならない事だけを教わったと言うのだ。

 「ティナよ。一つ聞きたいことがある。原生林で出会った老婆はどのような女性だった?特徴、例えば服装や背の高さなど何でもよい。」

 「すらっとしていてお肌はつやつやしておりました。とてもきれいなおばあちゃんでした。」

 すらっとしている?否定するつもりはないが、おばあちゃんは足が少し不自由で杖をついている。原生林から城になかなか来れないのもそれが理由だ。そのせいであまり運動もできず、どちらかと言うとぽっちゃりした体型だ。

 「ティナよ。お前の会った老婆はいったい何者なのだ?あの原生林に老婆が他にも住んでいるというのか?」

 ティナは目を見開き驚いた様子だった。

 「私が出会った老婆は私のおばあちゃんではないのですか?」

 「おばあちゃんなら、お前と出会ったときに魔女の秘密や掟をすべて教えるはずだ。私の知らないこともすべてだ。そのような約束になっている。そして、そもそも引っかかったことだが、おばあちゃんならお前に城に帰るよう伝えるはずだ。シホホネスを勧めるようなことはしないだろう。そして私はミヤコなる女性の存在も知らない。」

 

 ティナはすぐさま立ち上がりエプロンを外すと、ものすごい勢いで部屋から出て行った。

 「あ、おい、ちょっと待ちなさい。」

 きょとんとしていた家来を引き連れ、急いでティナの部屋へと追いかける。着くとティナの部屋にはすでに鍵がかかっていた。スペアキーを持ってくるよう伝える。

 部屋を開け中を見ると窓が開いていた。洗面所からホースが引かれており、ホースからは水が出続けていた。

 また出て行ってしまった。思い立つと何も考えず行動に移すところは母親そっくりだ。妻も何度注意しても直らなかった。

 

 ほんの一時の親子の時間だった。またしばらく頭を抱える日々が続くのか。大きなため息をつき、しばらくの間風になびくカーテンとカタカタ揺れる扉を見つめ呆然とした。


 翌日、昼近くに老婆の家についた。

 家の中から、コトコトと小さな音がした。留守でなくて良かった。

 ドアをノックすると老婆はすぐに出てきた。

 「あらいらっしゃい。やっぱりあんただったのかい。来ることはわかっていたよ。さあお上がり。」

 おそらく、老婆も一度会った魔女のおおよその位置を把握する魔法を知っているのだろう。時間があったら教えてもらおう。ただそんな事よりも先に確認しなければならないことがある。

 人の招き方はミヤコとほぼ同じで決まって紅茶とお菓子を出してくれる。ミヤコの家でもこの瞬間が実はとても楽しみだった。特に手作りのお菓子はどれも絶品でまたいつかミヤコの家でそれだけを目的に行ってみたいと思う。

 茶菓子を出すと老婆も対面に腰を掛けた。一番聞きたかったことから聞いてみた。

 「おばあちゃんは、私のおばあちゃんではなかったのですね。」

 「そうだよ。あたりまえじゃないかい。一度だってそんな事言ったかい?」

 「いいえ。でも、私の事をご存じでしたし、私に魔法や秘密、掟を教えてくれました。それにこの国の関係者だとおっしゃってました。それにミヤコさんも私に優しくしてくれました。」

 「この国のお姫様を知っててもおかしくないでしょう。それに同じ魔女なのだから、秘密、掟は共有するのが当然よ。」

 「なぜ、私をシホホネスに?」

 と聞きながら理由を理解した気がした。私を魔女狩りの調査のために利用したということか。


 「あら、わかったようね。ごめんなさいね。」

 「なぜ、ミヤコさんもおばあ様も魔女狩りを憎んでらっしゃるのですか。」

 「あら、魔女にとって当然じゃない。私たちを狩ろうとしているのよ。ゆるせないじゃない。」

 「でもおばあ様はエルティアで暮らしております。ミヤコさんも普通に幸せに生活しております。積極的に活動する理由が他にもあるような気がしてなりません。」

 「小学生なのにとてもしっかりしているのね。さすがお姫様。」

 そう言うと老婆は過去にあったことを思い出しながら話してくれた。

 

 「私も子供のころシホホネスで生活していたわ。

 家はそれほど裕福ではなかったけど普通に生活していたわ。でも両親は何かと良く喧嘩をしていた。喧嘩の原因は良くわからない。私が寝静まった後や、私がいないときに良く喧嘩しているみたいだった。とても仲が悪かったわ。

 もちろん母は魔女だったし、私も小学校3年生くらいの時に特別な能力があることに気が付いたわ。公園で一人で遊んでた時に虫が顔めがけて飛んできて手で払おうとしたら虫が燃えて。そう、マジシャンがモノを消すときに火をバッて出すでしょ。あんな感じだったわ。母にそれを伝えたら、母がすぐに大事な話があるって言っていろいろと教えてくれた。

 思うとその日あたりから家庭はもっとおかしくなっていたわ。そして、ある日父から、『お母さんはしばらく田舎に帰って家には帰って来ない』って言われた。そして私は父の職場近くの別の家に引っ越すことになったわ。転校することにもなったし変だと思ったけど父の言う通りにしたわ。気が付いたら私は狭い部屋に監禁されていて。学校にも行けない、ただただ部屋にいるだけの生活がしばらく続いた。とても辛かったわ。

 そしてある日、父と他のスーツ姿の数人の男の人と何かの研究施設のような場所に車で連れられて、そこでまた監禁されたわ。そこで出会った人たちの事を今でも忘れないわ。テレビでよく見る政治家の人達だったんだもの。何やらこそこそと私を見て話してた。『ようやく捕まえた』『確かに魔女なのか』『どうやって利用する』そんな言葉がたまに耳に入って来たわ。そして、白衣を着た男が、私に魔法を使ってみろとか本当に魔女なのかなど質問してきた。言えるわけないわ。言おうとした瞬間死ぬのだから。だんだんとエスカレートしていって髪の毛を掴まれたり、棒で叩かれたり、ひどい言葉で怒鳴られたりした。地獄のような生活だった。」

 「お父様は、その時は居なかったのですか?」

 「居なかったわ。研究施設のようなところに連れられてから一度も会ってない。もちろん母も。後で思ったけど、もうすでに殺されてしまったのかもね。こうやって自由になってからも探したけど出会えなかった。」

 「ひどいわ。」


 老婆は近くの花瓶に目をやりながら続けた。

 「数日後、数人の男に連れられて、エルティアへと向かった。こう告げられたわ。『エルティアの城近くにある特別な教育施設に入ることになった。そこで生活するように。そして必ず生活する際はこの盗聴器をつけて生活するように。』と。盗聴器は体にきつく巻かれて取れないようになっていたわ。一緒に来た男たちもエルティアにいて、たまに盗聴器を交換しに来たわ。

 もちろん、他の人にも魔女の存在を知られることは禁じられているから、ずっと魔女であることを隠し生活したわ。それはそんなに難しい事じゃなかった。監禁されていた時の生活に比べたらエルティアでの生活はとても自由な時間だった。そんな生活が数年続いたわ。

 ある日、先生と同じくらいの、そう40過ぎくらいの女性が私にいろいろとお話ししてきた。名前をエリナって名乗っていたわ。エリナさんは何か私の生活の異様さに感づいたようでいろいろと質問して来てくれた。でも私は真実は話さなかった、盗聴器の事を知ってたから話せなかったわ。そしたら、エリナさん意味のない雑談をしながら紙に書いていろいろと質問をしてきてくれて。それで私も書いて回答したわ。その時『これから話す声が聞こえたら、紙で答えて』と言って、超会話で話してきたの。魔女だったわ。エリナさん、なぜか私が魔女であると感づいてくれたみたい。

 それで私の盗聴器を外してくれて、安全なところに逃がしてくれたの。でも男達もそれに気が付いたわ。私はエリナさんに連れられ町はずれの小さな小屋でしばらく隠れ住むことになったんだけど、エリナさんは男たちに捕まってしまったようで、それからエリナさんには会うことはなかった。その後も男たちは私の行方を追っていたみたい。捕らえて殺すかまた利用するつもりだったんだと思う。

 許せなかった。魔女を外交に利用するために私の母やエリナさん、私の人生を奪ったことを。それからずっと魔女狩りの実体を探しては復讐してやることにしたの。」

 「そうだったのですね。」

 「でも、魔女狩りを探すためにあなたを利用するなんて、私も同じようなものね。本当にごめんなさい。」

 「いいえ。でも、初めから言ってくれれば素直に協力しましたのに。ところでミヤコさんは?」

 「ミヤコは赤の他人よ。ある時に出会ってね。話をしたら協力するって言ってくれてね。なんかあの子こういうこと好きみたい。」

 

 その後、シホホネスでの生活の話をした。老婆は「大変だったわね。」と同情してくれた。

 また、一度会った魔女の位置を把握できる魔法を教えて欲しいと伝えると、なんとなく神経を集中して匂い嗅ぐと自然にできると教えてくれた。ところで、出会ったことはないがこの家から北西のほうの森の中にもう一人魔女が生活しているようだと教えてくれた。匂いを感じると言う。その人はたまに城のほうへと移動するとのことだ。おばあちゃんかもしれない。そう思い老婆にできる限りの場所を教えてもらうことにした。

 この日は老婆の家で一泊させてもらった。夕飯に男の肉は入れないで欲しいと伝え、数個余っていた薬も返した。

 そしてその翌朝、教えてもらった場所へと向かうことにした。


 この日は、朝から空は熱い雲に覆われていた。いつ雨が降ってもおかしくなかった。

 その場所は、トルキ川をいったん上り、トルキ川が大きくS字を描くその先端で陸に上がり、1時間ほど歩いた場所だった。草木が生い茂った道をしばらく行くと車が数回通ったことのあるであろうデコボコの轍道があった。それに沿ってひたすら歩いた。教えてもらったようにたまに上を向いて匂いに集中するが、草木の匂いしか感じなかった。地図上の位置を見た限りおおよそ近くまで来たと思えたころ、森の中から煙が立ち上っているのが見えた。あれだ。おばあちゃんが私の位置を察して合図してくれたのだろうか。興奮気味で、でも少し緊張しながらそちらへと向かった。

 

 それは森林に囲まれた小さな木の家だった。とても可愛らしく、町のお菓子屋さんのような感じを思わせた。

 家の周りはとてもきれいに手入れされており、雑草はなく代わりにきれいな青色の花が植わっていた。

 玄関でノックしようとすると、ノックする前に扉がゆっくりと開き、杖をついた女性がゆっくりと顔をのぞかせた。年齢は60から70くらいか。女性ははっきりとした口調で

 「ティナちゃん、お待ちしてました。どうぞ。」

 とゆっくりとした口調で招いてくれた。もちろん初めて会う人だが、私のおばあちゃんに間違えないだろうことが分かった。なぜか目に涙がにじんだ。

 「おはようございます。急に訪ねてしまいごめんなさい。」

 「あら、いいのよ。私から会いに行かなくて済むし。もうこの年でこの足だと歩くのも大変でねえ。」

 

 おばあちゃんはお茶とクッキーを出してくれた。クッキーは甘さ控えめでほんのりハーブの香りが漂い格別に美味しかった。

 「アーランドソンには聞いたわ。もう他の方に魔女の秘密や掟は教えてもらえたそうで。」

 「はい。でも、全部は教えていただけてないようです。おばあさまからあらためて教えていただきたいです。」

 「あら、そうかい。では食事でもしながらゆっくりとお話ししようかしらね。」

 おばあさんはゆっくりとした優しい口調で魔女の掟から教えてくれた。ほぼ知らないことはなかった。

 魔法についても知らないことはなかった。位置を知る方法はコツがあるらしく、あとでゆっくり教えてくれるとのことだった。また一つだけ秘密の魔法がありそれは教えなくてもいずれわかることだからと教えてくれた。魔女の秘密や情報については驚くことが多かった。

 

 ・ 男の肉やエキスを得ることで、若返り、かつ病気も治る。ただし多用すると死ぬ場合がある。

 ・ 魔女が子を産んでも、魔女とは限らない

 ・ 魔女同士でも子を授かる方法がある

 ・ 人から魔女を作る術がある。しかしすべきではない。


 おばあちゃんは加えて私の母について話してくれた。

 

 「あなたのお母さんは病気で若くして亡くなったけど、男のエキスを口にしていればおそらく死なずに済んだの。でも彼女、頑なにそれを嫌がってね。

 あなたのお母さんは、あなたのお父さんを心から愛してた。おそらく、お父さんと同じ男の人を食すなど絶対したくないって思ったんだと思うわ。

 とてもあの子を尊敬するわ。何事にもまっすぐだったし、真剣だった。

 だからあんな若いのに亡くなってしまったことはとても残念。ほんの少しでよかったから道を外れて欲しかったかな。

 ティナちゃんは、彼女にそっくり。とても素敵な子。でもあまり真面目すぎないようにね。疲れてしまうわ。」

 不思議な気がした。

 父も私の愚行を怒らず許してくれた。おばあちゃんもしっかりしなさいって言うどころか、少し曲がった生き方も大事と言っている。幸せに生きるにはそれも大事ってことなのだろうか。

 

 少し話をした後、近くを散歩した。

 曇りで、いつ雨が降るかわからなかったが、おばあちゃんは「大丈夫。まだ降って来ないわよ。」と言うので外に出た。

 おばあちゃんは杖をつき足を引きずっており、体も重い感じで非常に歩くのが遅かった。横に付き添って転んでもいつでも助けられるような体制を取りながら密林の轍に沿って歩いた。

 少し行くと草原に出た。雑草に混じり小さく赤い花が咲いていた。近くまで行きいくつか摘んで持ち帰った。

 「足が悪くて、なかなか一人で歩く勇気がなくてねえ。」

 でも、ゆっくりではあるが思ったより慎重にしっかりと歩くので、帰りは特に心配することなくゆっくりと歩いて帰った。

 

 お昼過ぎからは家の中の掃除やお庭の手入れの手伝いをした。家の中も外も見る限り十分きれいだったが、おばあちゃんから見ると気になるところがあったようで頼まれた通りにお手伝いをした。

 昼3時くらいから雨が降ってきた。雨は次第に強くなり、家が流されるのではと心配になるほどであった。

 夕方から夕飯のお手伝いをした。

 夕食のとき、シホホネスであったことをおばあちゃんと話した。おばあちゃんは特に感情に出さず私の話を素直に聞いてくれた。おばあちゃんは何もかも知っているようだった。

 「魔女狩りの話は聞いたことがあるよ。それに、あなたが出会った人のような立場にいる女性が年々増えているのも知っている。この国にも少なからず同じ立場で苦しんでいる人がいるのも。何かしてあげられないかと思うわ。

 でも、あまり上から首を突っ込むのも良くないと思う。余計なお世話になるし、かえって当事者を苦しめ新たな遺恨だけが生まれる結果になりかねない。あなたの気持ちはわかるし私も同じ気持ち。あなたにもすぐにわかると思うわ。」

 ゆっくりと、そしてしっかりとした口調で語った。

 完全には理解できなかった。でもわかった気がした。私のやろうとしていたことは半分間違っていたのだ。

 目の前のおばあちゃんのその姿は、お父さんが言っていた通り立派な女王の貫録を感じさせた。その凛とした姿を見習わなければと思った。

 

 おばあちゃんが雨の降りしきる外の景色を見ながら教えてくれた。

 「話してなかったわ。実はね、ビッグケーキの上には魔女が住んでいる村があるの。私たち魔女だけがグレートフォールの現れた時に滝伝いに行くことができるわ。この雨だったら明日現れる可能性が高いわ。良かったら行ってごらんなさい。これも魔女の秘密。教えちゃ駄目よ。」

 驚いた。目が見開き興奮した。

 「是非。滝伝いに上がれば良いのですか?どこから行けばいいですか?危険ではありませんか?」

 「私たちにとってはとても簡単よ。グレートフォール1、2は岩の中で繋がっているの。だから一本道。そして、上の村にはあなたのお母さんの双子の妹が住んでいるわ。会ってみてはいかが。」

 胸が躍った。魔女だけの村、そしてお母さんの双子の妹。双子の妹がいるなんて知らなかった。

 

 明日早く出ようと早く床についた。その夜は興奮してなかなか寝付けなかった。


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