第8話 エルティアの森

 あくびは翌日昼のエルティア行の高速船に乗った。

 夜、エルティアに着く。近くの小汚いホテルが予約されておりそこで宿泊した。ホテルの従業員のほとんどがあくびを不思議そうな目で見た。全体的に狭く、エレベータもところどころ痛んでいる。部屋もあくびにとっては窮屈なほど、でもそれでも掃除は良くされているし従業員も話しかけると差別することもなくとても丁寧な対応をしてくれた。ホテルの夕食、朝食はビュッフェ形式。腹がはちきれんばかりに食べた。優雅なひとときだった。

 

 翌朝、チェックアウトし10時ごろホテルの入り口に行くと、小汚い車に乗った背の低い猿のような男が待っていた。ツアーの案内人だった。

 「エルティア サバンナツアーご利用ありがとうございます。今日のあなたは運がいい。他のお客様は一切おらず貸し切りですよ。」

 いつだって、貸し切りだろう。見るからにこんなのに依頼する奴なんて変わった奴だけなのがわかる。

 農業用の軽トラのような車に乗って、エルティアの原生林地帯へと向かう。車は高速道路を今にも分解するのではと思うような鈍い音をたて突っ走る。都市部から抜けると周りには美しい自然が広がる。この日はとても天気が良く、前日雨が降ったせいか空気が澄んでした。遠くにビッグケーキが日の光を浴び白銀色に輝きながらそびえたつのが見える。その眩さが実に神秘的で美しい。

 「この間、グレートフォール2が少し出たんですよ。」

 案内人が言う。高原にはシカや牛も数匹見える。都市部があんなに高度な発展を遂げているのに少し行けばこんなに美しい自然が残る。この王国の特徴だろう。案内人はその自然の美しさや国の政策、国の歴史などについてずっと横で語っていた。魔女伝説について尋ねると、

 「魔女ねえ。昔からこの国にいるって噂だけど誰も見たことはないし知らないですよ。忌まわしき過去もあって国王もいないって言いきっちゃっているし。でもさ、根強く信じている人は沢山いるよ。おばあちゃんが多いかなあ。それをさ、おとぎ話のように孫に言い聞かせたりして。魔女がこの国を守ってくれているってね。」

 盗聴器を通した雑音混じりの音声からは良くわからなかったが、あのミヤコという女は何か裏で悪い事をしているように聞こえた。国を守っている?そうなのか。

 

 何時間も走り、高速道路を下りこの男と2人で昼食を食べる。ひときわ大きなデブの女と、小っちゃい猿のような男。その不釣り合いさを周りが微笑ましく見つめる。

 昼食を終え幹線道路を森のほうへとずっと進む。また車に乗っての長い道のり。次第に道は土や砂利の道へと変わり、車はさらに分解するかのような音をたて進む。案内人は珍しい動物がいるたびに車を停めその動物の説明をしてくれる。

 「あれが一角ウサギです。あ、穴に隠れちゃいましたね。いやあ見れるなんて本当に運がいい。あのウサギの角は煎じて飲むと血行が良くなるとか言われてるんですよ。そんなもんで密猟者が狙うわけです。絶滅危惧種に指定されていて、ずっと狩猟を禁じられてますよ。天敵に合うと、あの角で戦うんですよ。ウサギなのにとても勇敢な性格なんです。」

 聞いているふりをする。本当にこんなところに医者がいるのか?それでウサギの角から作った粉でも飲まされるのか?もしかして騙されているのかと思い始めた。

 

 途中、珍しい猿や鳥など見学しながら奥地へと進んだ。

 太陽が夕日へと徐々に変わり、きれいにあたりを照らし始めた。光が脇を流れる川に反射しきらきらと輝いている。

 「では、本当にここで良いんですね?今晩はテントでも張ってそこに寝るんですかい?密猟者いるかもしれませんから気を付けてくださいね。私は暗くならないうちに帰ります。では。」

 「はあ?」

 そう言うと案内人はニコニコしながらお金をもらうと、あくび一人残しさっさと帰ってしまった。

 もうここまで来てしまった。引き返せない。地図を眺めながら川に沿って歩く。


 一応、川に沿って道らしき道がある。ただひたすら歩く。正直、この体だと歩くだけでしんどい。その上変なコバエも飛んでいるし、足元にも何がいるかわからない。

 30分くらい歩いたか。もう限界だ。道端のちょうど腰かけられる程度の石に座り水を飲む。こんなところでどうすれば良いのか。やはり騙されたのか。ここで死ねと言うのか。

 数分後、なんとか立ち上がり歩く。地図での正確な位置はわからないが、おそらく目的地はまだまだ先。こんなところでこんな形で死ぬんだったら「蛇の喉元」で死んだほうが良かったとさえ思う。

 

 と、正面から何かが近づいてくるのが見えた。小さなバイクのようだ。

 それはすぐに自分の元まで来た。老婆が運転していた。その老婆は私をジロジロと舐めまわすように見ると、

 「あんたが、あくびさんだね。大きいねえ。バイクの後ろに乗れるかしら。とりあえず乗ってみな。」

 と言った。自分でも心配だったが試してみる。バイクが後ろに倒れそうになるが、なんとか乗れた。

 「じゃあ行くよ。気を付けてね。

 あ、そう。あとあらかじめ言っておくけど、私に質問したり、話しかけたりすることは絶対に禁止。いいね。私が一方的に話すからあんたはただ素直に言うことを聞くだけ。わかったね。」

 そう言ってバイクでゆっくりと進んだ。良かった。ここで野垂れ死にだけはしなくて済みそうだ。

 

 バイクで転倒しそうになりながらまた30分くらい進むと、そこにバイクを停め、「ここからは歩きだ」と言われた。

 死に物狂いで木々で生い茂るけもの道を数分行くと、木々、蔦、花々に囲まれた小さな家に着いた。

 「あ、あのさあ、あんたが医者かい?」

 「さっき言ったろう。あんたは喋るの禁止だと。約束破るのかい。」

 老婆のドスの効いた恐ろしい声にたじろぐ。

 「とりあえずそこに掛けな。」

 言われた通りにする。老婆は奥の部屋に行き、数分後戻ってきた。

 「まあ、これでも召し上がれ。疲れたろう。」

 とても良い香りのするハーブティーとクッキーが出された。いよいよ意味が分からなくなってきた。毒でも入っているのか。

 その香りにつられ恐る恐る食した。こんなにおいしいクッキーがあるのかと思うほど美味しかった。体調にも変化はなかった。

 

 老婆はまた別部屋へと移動すると、また少ししてから何やらいろいろな器具を持って来た。

 「重度の精神病だってねえ。腕を出しなさい。特効薬の点滴を打ってあげる。」

 「え、あ、いや。」

 「素直に聞くって約束だろう?」

 そう言うと腕を消毒され、太い注射を打たれテープで固定された。

 「あたしはそっちにいるからね。そこに雑誌とかあるだろう。点滴が終わるまで自由に読んで時間でも潰してな。あ、あとお替りのお茶持ってきてあげる。おなかが空いているだろう。フルーツでも切ってあげる。」

 また老婆は奥の部屋へと移動した。

 

 それから2~30分ごとに老婆は私の様子を見に来た。しかしその時一切何もしゃべらなかった。

 雑誌も、秋のスキンケアやら、エルティアでブレイク中であろう人気男性グループのインタビューやら。いったい何なのだか意味が分からない。本当に自分は精神病なのかもと疑いたくなってきた。


 小屋の外からは鳥や何やら獣の声がこだましていた。

 もう3時間くらい経っただろうか。暇でしょうがない。もともと本など読まないから雑誌を見てても苦痛でしかない。テレビを見ながら酒を飲みたい気分だ。

 老婆がまたやって来た。また一切何も言わないな、と思った時、頭の真後ろのほうから声が聞こえてきた。

 『どうだい、気分は?』

 後ろを振り返るが誰もいない。天井にも床にも。

 『ん?どうだい、気分は。この声が聞こえるようになったのかい?』

 老婆の声なのか。老婆は別の方向を見ているし、一切口も動いていないが。

 「この声、あんたかい?」

 それを聞くと老婆は笑顔でこちらを見た。

 「あら、無事に成功したようだ。思ったよりも早かったねえ。

 本当はねえ、人間から、魔女もどきを創るなんてことはご法度なんだよ。掟では禁じられてないけどねえ。」

 耳を疑う。老婆はまた、奥の部屋へ行くと、何やら肉の煮込んだスープとパンを持って来た。

 「おなか空いたろう。これでも食べなさい。元気になるから。」

 言われた通りにいただいた。これもまた格別においしかったが、肉は今までに食べたことのないような独特の風味がした。食べると確かに体から力がみなぎるような感覚を覚え、手の肌のつや、顔の肌の触り心地など若返って行くのを感じた。いや、感じただけではなく見るからに間違えなく若返っている。

 「驚いた。何だい、この食事は?」

 「魔女はねえ。人間の男の肉・エキスを食べると少し若返るの。精神安定にもなるのさ。これ魔女の秘密よ。」

 「なんだって。じゃあこれって。」

 「そう、数年前にこの森の向こうで仕留めた密猟者の肉。スープにして冷凍しておいたの。美味しいでしょ。その変わり様から完全に魔女もどきになれたようね。良かったわ。あと少し心配だったけど魔女の呪いも発動しない。ふふふ。」

 なんと本当に魔女になれたのだ。何か複雑な気分だ。

 「もう、今日は寝なさい。疲れたろう。明日から、魔女の掟と、必要な魔法を教えてあげるわ。」

 そう言うと、寝床へと案内してくれた。

 

 翌日から魔女の掟や魔法を教わった。

 なるほど、ミヤコが口が裂けても自分が魔女だと認めないはずだ。認めようとした瞬間死んでしまう。

 3日目ごろから習った『水の移動』。これで謎が解けた。後はねずみ島にティナが行った証拠を掴むだけだ。

 魔法は他に、『超会話』、『メルト』の2つを教えてくれた。老婆は「上手ではないが、覚えるのだけはまあまあ早いわね。」と言った。褒めているのだかいないのだか。

 

 老婆は、1週間程経ったある日、その日の昼過ぎに出発し『水の移動』でシホホネス本土へ行くと言い出した。老婆も一緒に行くとのことだった。

 トルキ川と呼ぶ川に足からゆっくりと入り、数日間、特に練習を重ねた水の移動を実践する。最初は老婆の手を取りゆっくりと水と同化し流れる。あとは移動する意思を強く念じると不思議と無重力空間に自分を放り出したかのように移動する。体がものすごく軽く気持ちが良い。ずっとこのまま居られそうだ。水の中をひたすら進む。疲労感は感じなかった。

 

 何時間経っただろう。シホホネス本土の人気が一切なさそうな狭い海岸についた。夜、すっかり辺りは真っ暗。弱い月明りだけがあたりを照らしている。老婆は辺りを慎重に確認しながら上陸する。

 道に続く階段を登ると砂利の空き地があった。一台車が止まっている。中から人が降りてきて老婆の元へ近づき、笑顔で抱きしめる。

 「叔母様。お久しぶりです。お元気そうで何より。」

 「ミヤコ。私もまた会えてうれしいよ。元気かい?無理してないかい?また会わないうちに美しくなったねえ。」

 「あら。叔母様も。いつまでたってもお美しいですわ。この間、手紙で教わったレシピ見てブフ・ブルギニョン作ったの。とてもおいしくって、お友達にも大好評・・・」

 しばらく二人だけの立ち話が続く。あたしの存在なんてどうでもよい模様。そんなに疲れてないと思ったが、水から上がって少しして疲労感を感じる。無造作に捨てられていたコンクリートブロックに腰掛ける。

 

 「本当、無理しないでね。私、あんたが変なトラブルに巻き込まれることだけが何よりも心配で。自分の人生だけを考えて生きてくれればいいんだよ。危険な事だけは止めてね。」

 「大丈夫よ。細心の注意を払って完璧に動いているから。叔母様もお気をつけて。」

 「ありがとう・・」

 そう言うと、老婆はまた海のほうへと戻るそぶりをした。1時間以上経過したか・・。やっと終わって帰るようだ。

 

 ミヤコは丁寧に見送っていた。お別れの時間が終わるとミヤコがこちらへ向かってきた。その形相を見るなり、すぐさま立ち上がりなるべく姿勢よくした。

 目元全体がどす黒い闇に包まれ、眉間に皺が寄り、目はあの時みたように反転し眼球は限りなく細い。そのまま私を殺すかのような勢いだ。

 「さて、おデブちゃん。早速、魔女狩りの事務所とやらを教えてもらおうかい?この私を脅しておいて覚悟はできているんだろうねえ。まさかハッタリなんて言わないだろうね。」

 「は、はい・・」

 口が震えちゃんと声が出せない。


 震えるまま体を小さくしミヤコの車に乗り、いったんあくびの家に立ち寄ってからその事務所のある場所へと向かった。もう夜9時を回っていた。


 ひと昔前の経済の中心。同じような中層のビル群が建ち並ぶ。あまり最近CMなどで見かけなくなった有名メーカー、商社の看板が見える。今はどことなく時代遅れ感があり古めかしさを感じる。

 疲れ切ったサラリーマンがゆっくりとした足取りで帰路に立つ。若者の姿は少ないように感じる。道路沿いにある数軒の飲み屋にもぽつぽつと客が入っているだけで満席でにぎやかな雰囲気は感じられない。国は景気が戻ってきていると豪語しているが誰もがその恩恵を一切感じないと口々に言う。それを象徴しているかのようだ。

 タクシーばかりが行き来する。たまに高級車が丁寧な運転で走る。信号だらけでちょくちょく足止めを食らう。そのたびに横目でミヤコの様子を伺う。普段通りの顔だ。機嫌が良いのか悪いのか全く分からない。一言もしゃべらないのが不気味だ。ナビ通りにただ淡々と運転する。

 

 薄暗いビル群の一角。車を路上駐車する。無言で車から降り目的のビルへと向かう。

 入り口に誰もいない。外から見ると3階だけが明かりがついていて、他の階は真っ暗だ。ここの6Fが目的の事務所だ。ロビーの案内板を見ると1階から5階は植物の通信販売関連の会社のようで、6階には『生分解性プラスチック研究事務所』と書かれている。

 「本当にここなのかい?」

 もらった名刺にもそう書かれていて移転してはいなかった。教えてくれたその客もそうは書かれているが内部では違うことをしていると言っていた。

 「ま、間違えない・・と思う・・」

 横目でまた様子を伺うとミヤコもこちらを見ていた。初めてあった時のゴミでも見るかのような目でこちらを見ていた。

 

 「あなた。エルティアの魔女狩りのお話来たことある?」

 「え、ああ。少しだけ・・・。」

 なんだ急に。なぜこんな話をする。

 「ラウフ党の党首、急な病気で亡くなったって話だけど、魔女の呪いで殺されたって一説もあるの。

 急に苦しみだし、皮膚の表面が熱で溶け始めて皮膚がむき出しになり、全身空気に触れるだけで激痛が走る。その皮膚も熱を帯びてぽつぽつと赤くなりゆっくりと溶けるの。

 食事、水も一切受け付けない。食べたとたん胸に嗚咽を感じ吐き出してしまう。血が混じって真っ赤になって吐き出される。

 1日も経つと髪の毛はほぼ抜け、白髪になった毛が数本残っている。目も真っ赤に充血して飛び出しちゃって、瞬きするにもできない。1日後には乾燥してもう何も見えない状態。声だって発することができない。喋ろうとすると、嗚咽で血交じりの胃液が出てくるだけ。目鼻口耳から血交じりの汚いよだれや鼻水。でも激痛で拭うこともできないの。爪もみんなはがれちゃったみたい。骨も内部で溶けて弱ったみたいで、下手に動かすとポキッて音を立てて長細いスナック菓子みたいに簡単に折れちゃうの。

 ベッドの中でただただひたすら苦しみ続けるだけ。徐々に体が溶けていく。寝ようとするとさらに激痛が襲い寝る事も許されない。

 丸2日経った頃には、全身が半分くらいになっちゃって、まるで塩を掛けられたナメクジの途中経過のよう。顔なんて歯はむき出しで顔の骨まで見え始めてて、でも、それでも死ぬことはできない。心臓と脳だけは元気。部下たちもそれ見てあまりにも哀れで吐いたらしいわ。そんな状態で、最後喋り始めたらしいわよ。それは部下たちも驚くわよね。

 丸3日間、ただただ苦しみ悶え続けて、ついには跡形もなく溶けたそうよ。布団には服と一緒に溶けた後がどす黒い色で残っていたって。噂だと、その布団まだ城のどこかに大事に保管されているらしいわよ。過去の戒めとして。」

 変な汗が、眉間から鼻の横を経由して口の脇から入る。しょっぱく、苦い。

 「あなたは1ヵ月くらい、いかがかしら?」

 「ちょっ、ちょっと、まっ、待っとくれ、間違えない。ここなんだよ。看板は偽装しているんだ。男はそう言ってた・・・。」

 「その男だって、あんたみたいなクソデブでポンコツのイカレポンチだったんじゃなくて?」

 ひどい言われようだ。

 「この間言ったろう。俳優のスカイアイの変死。死体が半分溶けていて、遺体のあった現場、なぜか水が出しっぱなしで壁を水がしたたり落ちてて。密室なのに、急に女が現れた瞬間の映像が端のほうに映ってて。それ見せてもらったんだ。」

 

 ミヤコが目をつむり、何か考え始めた。

 お願いだから、信じてくれ。でもなんだか話していた自分自身にも自信がなくなってくる。これでもし違ってたらおしまい。1ヵ月苦しんで死ぬくらいなら「蛇の喉元」に行かせて欲しい。

 「わかったわ。じゃあいったんここでお別れ。あとは私が調べるわ。」

 ミヤコはそう言うと車のほうへ向かい自分だけ乗り込んだ。

 「言っておくけど、私、一度会った魔女の居場所を魔法で知ることができるの。どこかに隠れたって無駄。また会いましょう。」

 窓を開け、そういうとミヤコはそのまま車で走り去ってしまった。置いてきぼり。

 とりあえず良かった。これで少し自由な時間ができる。こちらはこちらの目的を達成するだけだ。

 

 それから、この『生分解性プラスチック研究事務所』の人間は不思議な体験をする。

 

 ある日ポストを見ると、いつも雑多に入れられている中身がなぜか整理されているように感じた。でも特に盗まれた資料等はなかった。


 またある日には、良くわからない男の子のような恰好をした女の子が高級なお弁当 ― でもとてもおいしそうには見えない ― のチラシを配りに来た。変わった子で『環境問題に関心があって勉強をしているから良かったらそのプラスチック製品を見たい』などと言い、オフィスの中に無理やり入って来ようとした。ここは事務所で実際は別の工場で作っているんだよと教えると、残念そうに帰って行った。


 ある日には、一般財団法人生活セキュリティセンターから沢山のリンゴが届いた。お礼にと思い電話をすると、誰も送っていないと言われた。たまに、誰かがこのようなサプライズのお中元、お歳暮などを送ってくる場合があるのでその類だろうという話に落ち着いた。リンゴはとても蜜が乗っていてとてもおいしかった。


 ある日には、朝、事務所に入ると、1匹のスズメが事務所内を飛んでいた。どこから入ったのやら。幸い、事務所内の書類などは散らかっておらず、被害はなかった。窓を開けると、スズメは一目散に外へ逃げて行った。


 ある日には、朝、事務所に訪れると入り口が水びたしになっていた。何かが原因で入り口の花瓶が倒れたせいのようで、花瓶も割れて散乱していた。しかし、それにしては水の量が多く感じた。いつ倒れたのかは特定できないが一晩経っているのに水が乾燥せず多く残っていた。その日の昼、取引先からの電話で『昨日は、珍しく遅くまで仕事されてたんですね。』と言われた。昨日は、全員定時近くで帰宅し誰も事務所には居なかったはずだ。『なぜですか?』と尋ねると、午後9時くらいにパソコンをみたらチャットのマークが出勤中になっていたからだそうだ。誰もいなかったはずだと伝えると、『見間違えか、たまたまかなあ。失礼いたしました。』と言っていた。

 

 最後の出来事については、職員らも神経質になった。他にも変わったことがなかったか、書類等で亡くなっているものがないかを調べた。また本部からそのような通達があった。一時的に事務所内が不穏な空気になりばたばたした。

 

 しかし調べた限り変わったこと、盗難にあったものは見つからなかったし、それ以降、特別変わったことは発生しなかった。

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