第3話 旅立ち
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「姫様がどこを探してもおりません。」
慌てふためいたのは、教育係の女性だった。ティナが教室になかなか来ないことを疑問に思い迎えに行ったところ部屋は内側から鍵がかけられていた。呼んでも呼んでも出てこないことを不思議に思い家来たちに報告、家来達はスペアキーを調達し部屋の中を見たが誰もいない。部屋の中は特に変わったことはなかったが、不思議だったのはベランダに小さな池のような水溜まりがあったこと、そしてそこから水がベランダの脇の隙間から流れ壁を伝いちょろちょろと流れていたことであった。
当日、姫は朝食の場にも現れなかった。実は、近頃、度々朝食を食べないことがあった。始めのほうは都度都度声を掛けていたが、最近は家来達も年頃の女の子のダイエットと思い特に気にしてなかった。前日の夕食は普通に食べており変わった様子はなかったし、夕食後はいつものように部屋に戻りった様子だった。それからティナの姿は誰も見ていない。城を監視している者たちもいっさい見ておらず、また城中の監視カメラの映像にも一切残っていなかった。ティナは忽然と消えてしまった。
一方、城下町では、前夜に起こった一部繁華街での火事でざわめいていた。火事の起きた場所はメイン通りから外れた細い路地裏にある店で、そこはエルティア国外のアダルトグッズを不法輸入して販売していた。店主は命に別状はなかったがその火事の勢いはものすごく、目撃者ははまるで爆発したかのようだったと口を揃えて証言した。幸いその店に隣接する建物等はなく被害は最低限に抑えられた。朝を迎え、野次馬達が火事の跡をみながら、こんな燃え跡見たことないなどと口々に語っていた。同じく消防隊員も首をかしげていた。
王も事態を聞きつけ公務を中断し城へ戻った。王はすぐに事態を悟った。最悪の事態だ。やはり彼女は心の底に深き闇を作っていたのだ。こんなことを国民に知られては王国の存続が危ぶまれる事態だ。また、部屋の状態から彼女が魔力に目覚めたであろうことも想像ついた。そしてこれは彼女の命に危険が及ぶ。
家来達は総出でティナの行方を捜した。
町の人々は城の内外のその物々しさに不安を募らせた。
王は城内の者たちにティナが居なくなったことを極秘にすること、ティナの事を尋ねられたら病で病室で過ごしていることにするようにと命じた。
騒動は各地で1週間ほど続いた。ティナが居なくなってから数日後、各地で数人の男が行方不明となっていることが分かった。地域等に共通点はなく、町中で酒を飲んで豪遊していた男、飲食の繁華街でスカウトをしていた男、独身で一人暮らしをしていた男、など様々であった。捜索するもまったくの行方不明で誰も遺体は発見されなかった。また、城から離れた別の町でも不法にアダルト書籍等を扱う店舗が数店舗火事になった。同じく爆発するかのような火事だったという。消防が火の元を確認するも出火原因が全く分からなかった。しかし1週間後以降は、また事件も発生せず普段通りの生活に戻った。
王は気が気ではなかった。四六時中家来に国中の捜索をさせた。しかし一切見つけることができなかった。
まずは生きていて欲しい。それだけを願った。
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ティナは、城下町を流れる川のほとりから静かに外に出た。初めての魔法の実践で緊張したが家の風呂などでさんざん練習したので自信はあった。
自分のことがわからないように最大限変装を施したつもりだ。前日の夕食後、部屋に戻るとすぐさま髪の毛を自分で短く切り、帽子と太い黒縁眼鏡をかけ、よくわからないイラストの描かれたトレーナーに半ズボンにスニーカーに自分の体よりも大きいリュックを背負う。リュックには本、食料、数日生活するための着替えや金などを入れた。川に映った自分を見て、その昔の漫画に出てくる田舎の少年のような姿があまりにもバカバカしく思わず笑ってしまう。
あの時の男どもの話が完全に正しいとは思わなかった。父だって家来だって美容師だっていい人ばかりだ。でも嘘であるとも思わなかった。
真実を知りたい。そんな汚い私利私欲のために少女が犠牲となっているなんて許せない。数年間ずっと胸に詰まり続けていた。
真夜中。川のほとりから階段を伝い道路に出る。
眠らない夜。ネオンが昼の太陽よりも眩しい。目立たぬようコソコソと辺りを見ながら川沿いを歩く。
川沿いの道を歩いていると酒に酔ったチャラい感じの男2人が女性に声を掛けているのが見えた。その男の一人が女性の腕を無理やり掴もうとし、女はそれを強く振りほどきバッグを振り回しながら何かを言って走って去って行った。男たちは大笑いしながら路地裏のほうへと入っていく。
頭に血が登るのを感じる。すぐさま男達を追いかけ、辺りを見渡し男2人と自分だけになったことを確認し声を掛ける。
「ねえ、あの、あのさぁ。今、女の人に何をなさって・・・。いや何をしてたの?」
男たちはびっくりして振り返り、不思議そうに、そして不機嫌そうにじろじろと舐めるように見た。
「なんだ?変な恰好したガキだなあ。・・。ん、あれ、女、女か?おい、女だよなあ。」
もう一人もジロジロと見る。
「いやどうだ?んん?女の子っぽいなぁ。」
女の子とわかると、男たちはまた馬鹿にしたような態度に変わりヘラヘラと話し始めた。
「ねえ、お嬢ちゃん、いったいこんな夜中にこんなところで一人で何してんの?僕たちと遊びたいの?」
ケラケラ笑いだした男たちを睨みつけ、怒りのまま真っ赤に燃やした右手を男達に振りかざした。腕からは灼熱の赤い明かりが解き放たれる。
男たちは路地裏の壁や道が赤い光に覆われるのを不思議に感じた瞬間、自分の体もたちまち高熱に満ちて溶け始めるのを感じ、暴れ、苦しみで叫ぼうとした。しかし体もくねらすのが精いっぱい、声を出す間もなく服は燃え、体はマグマのように濃く赤い溶融状態になり縮んでゆく。やがて男たちの体は悲痛でゆがんだ表情とともに燃え尽き跡形もなく消えていった。
外に出てすぐさま嫌なものを見た。あの時の男達の話はやはり本当だ。
男達は女に何かをしていた。とても紳士的な状況には見えなかったし女性も嫌がっていた。それに私をみて少女だとわかった後、馬鹿にした態度で遊ぼうと言ってきた。普通、こんな真夜中に少女が一人でいたら心配してくれるのが当然ではないのか?
いくら汚い男どもと言えどその消えていく姿には心が痛んだ。ティナは怒りに任せてしてしまった自分の行動を正当化しつつも半分後悔した。
しかし、道中また同じ過ちを繰り返してしまう。
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ティナには外の様子を見ること以外にも目的があった。父が話してくれた母と初めて出会った密林。そこに行きたかった。
ビッグケーキの麓の湖から島の西南西の海へと流れるトルキ川を下り、原生林を抜けると一部木々のない草原がある。父はそのあたりで出会ったと言っていた。
ほんの少しでも良いから母を感じたいと思った。写真の中の姿と伝えられた話でしか記憶にない母。そして勇気と力を分けてもらいたいと思った。
城下町の川はそのまま東の港のほうへ流れビッグケーキ方面へはつながっていない。まずはビッグケーキまでたどり着きたい。ビッグケーキへ行くにはここから北へ向かい、ビッグケーキからエルティアの北東に流れるもう一つの河川まで行き、川伝いに移動するのが手っ取り早い。ビッグケーキにつけばその麓を歩いて行くことでやがてトルキ川へ出れるだろう。
ここ数年ずっと計画を立てていた。野宿する方法。寝る場所を確保する方法。サバイバル術の本を何冊も読んだ。幸い金は腐るほどあるので食事や生活には困らない。。ただ、現身長、145cm。すこし大きくなったとは言え、まだどう見ても子供。ホテルを予約したり、寝泊まりできるカフェに入るのは不可能だ。なるべく人目に触れないようにする必要がある。しかしながらなぜか使えるようになった不思議な魔法のおかげでそれも不自由なさそうだ。
先ほどの男たちには私が女であることがすぐに見抜かれてしまった。もう少し工夫しなければならないし子供であることもなるべく知られないように工夫する必要があるなと思った。
とりあえずは北のほうへ歩いて移動することにした。夜、子供が一人だと目立つ。なるべく人目につかない道を選ぶ。途中、気持ちの悪い店があり咄嗟に頭に血が登り罪を犯す。
途中、道端に転がっている自転車を見つける。ワイヤーの鍵がかかっていたが熱で溶かし使わせてもらうことにした。これで随分と早く移動できる。
数分も自転車で進むとすぐ繁華街から遠ざかり、あたりは最低限の光しかない暗い道へと変わった。道の両脇には長閑な田んぼが広がっている。数分に1度車とすれ違う。
明日になれば城から抜け出したことがすぐに知れ渡るだろう。なるべく遠くへと移動した。
数時間走り、遠くまで来た。近くの神社に人口池があったので、この日はこの池の中で一晩過ごした。
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よく朝、バスや電車を乗り継ぎ、隣町についた。食事や、変装のための道具を仕入れることにした。
町で買いものしたり食事したりして過ごすのがとても新鮮で楽しかった。たまに見知らぬおばさんや警察官が心配して声を掛けて来たが、「お父さんは今トイレに行ってます。」「両親にお買い物の練習って言われて買い物してます。両親はあちらで待ってます。」などと適当な嘘を付き逃れた。もう城からはかなり遠く離れた町まで来た。しばらくの間、城の者達は追ってこないだろう。追って来ても水に隠れれば良い。慌てることなく、町の生活を楽しみながらゆっくりと町へ町へと移動し北へ進むことにした。
ある日の夜、訪れた町で歩いていると、スーツ姿の男が声を掛けてきた。またある日は、堂々と児童ポルノのようなものを持った恰幅の良い男が歩いているのを見た。
また我を失い過ちを犯してしまう。
しかし、はっきりとわかった。スーツの男が女を仕入れ、恰幅の良い男がそれを買う。女が商売の道具に使われている。あの時の男達が言ったことは本当だった。
数日後、目的の川についた。川を伝いビッグケーキの麓へと移動した。それから森の中を歩きトルキ川上流の湖へと歩いて向かった。途中、森林の中にあった池で一夜を過ごした。
また数日後、湖からトルキ川を移動すべく水に入るが、ここからは場所が不明確だ。たまに川から出て、辺りを確認しながらゆっくりと川に沿って移動した。
8回目だろうか。適当な場所で川から上がり周りを見渡すと、誰かが何度か通ったであろうけもの道を見つけた。けもの道は木々の斜面に沿って斜め右方向に緩やかな傾斜でつながっていた。不思議に思いながらその道を歩み進める。道は適度にデコボコがあったがむしろそれが歩きやすかった。そのまま数分進むと、左手に数本の木が生えている平地が現れた。そして良く見るとその平地の木の近くに女性らしき人が一人何かをしていた。
恐る恐る女性のほうへ近づくと、女性はこちらを見て、脇に持っていた銃の先を向けた。すぐさま身を屈め手を上げた。
「こんなところに、子供が一人で。どうやって来たんだい。」
その老婆は危険がないと察知すると銃を降ろし落ち着いた口調で話しかけてきた。その老婆はところどころに皺はあるものの肌はつやつやしており、すらっとした体つきで、若いころは相当の美人であることを思わせる顔つきをしていた。しばらく老婆はそのきれいだが鋭い目でこちらを見つめていた。
ふと森から不思議な声がした。
『あんた、もしかして魔女かい?』
後頭部後ろ辺りから聞こえたように思えた。しかし振り返っても後ろには誰もいない。もう一度老婆を見る。
「え、魔女。魔女って何?」
答えると、老婆の目から険が消え優しい顔つきとなった。しかしまた少しすると今度は戸惑いの表情に変わった。
「あ、あんた、変な恰好しているけど、もしかして姫様かい?」
少し躊躇したが、なぜこんなところに老婆がいるのか、そしてなぜ自分の事を知っているのか知りたく正直に答えた。それを聞き老婆は続けた。
「驚いた。だって、王女は病気で亡くなったと。」
老婆のつぶやきの意味が分からなかった。私の魔法と母の死が何か意味があるのか。
「さあ、おいで。あっちのほうに私の家がある。まあ、良くここまで来たね。」
言われるがままに、老婆の家へと向かった。
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平地から逸れた森の中の一角に古びた木の家があった。老婆の家のようだ。周りは木々、蔦、花々に囲まれ隠れていて遠くからでは容易に見つけることはできないだろう。
老婆は家に招き入れると椅子に腰かけるよう伝えた。しばらくしてから細かい肉入りの温かなスープを出してくれた。食べると不思議と体の奥から力が湧いてくるような感じを覚えた。数分後、またお茶とクッキーを出してくれた。
ここまで来た経緯、今の気持ち、そして数人殺めてしまったことを正直に老婆に話した。
「ニュースで少し見たわ。あれあなただったのね。」
「ついカッとなってしまい。私、一般の男性が女性を見下していたり、また女性を商売道具に使っているなんて信じられなかったのです。」
老婆は複雑な表情をした。
「『メルト』でお家を燃やしたのね。あともう『水の移動』ももう使えるよう。あなた、魔女について何も知らないようだけど、魔法はどこで覚えたのかしら?」
「水・・は、お風呂に入っていたある時、自分の体がお湯と同化していたことに気が付いたのです。とても不思議で。そのうち足、体全体、って試して。体全体が水に溶け込んだ時は体が浮いている感覚がとても気持ちよくてずっとこのままでいたいって気持ちになりました。不思議と呼吸もずっとできました。最初は怖かったのですがだんだん慣れてきて、ある日、一晩お湯の中で過ごしてみようと思って実際にやってみました。そしたら何の異常もなくむしろ体の違和感がスーっと抜けたような感じでとても気分が良かったです。
そのうちお城の池やお堀でもやってみました。不思議と洋服など濡れないことに驚きました。また無重力の中を自由に移動できることにも気が付きました。それで覚えました。
この熱で溶かす力も、ある日、思い出し事をし頭に血が登った時に手が赤くなって燃えていることに気が付き、近くの物に障ってみたらみるみるうちに溶けて。驚きました。これもたまにお城の庭から大き目な石を拾ってきて試し練習しました。外には危険なことが多いと聞いておりましたので自己防衛に使えると思いました。」
「ということは、あなた、他の魔女にはお会いしたことないのね。」
「ええ。私が魔女であることも初めて知りました。」
「それでは、教えておかなければならないことがあるわ。魔女がこの世で生きていく上で最も重要な事。」
真剣な表情をした老婆は丁寧な言葉に変え話を続けた。
「魔女には掟があります。その掟は背いた、または背こうとした瞬間、呪いにより死ぬこととなります。」
「呪い?」
「そう。魔女の力は言わば呪いでもあるのです。魔女が幸せに生きていく為の呪いで魔女は絶対に従うようにできているのです。これから言うことを理解し絶対に守らなければなりませんよ。いいですね。」
真剣に受け止め頷いた。
魔女の掟
・ 自分が魔女であることを魔女以外に知らせてはならない。認めてはならない。
・ 魔女がこの世に存在することを魔女以外に知らせてはならない。認めてはならない。
「魔法を人に見せることもいけません。あなた、幸運にも魔法を使ったところを誰にも見られてなかったようです。見られていたらおそらく生きてなかったでしょう。」
ぞっとし唾を飲みこんだ。
「他にも魔女には秘密があります。呪いが発動することはありませんが、絶対に人には知られないほうが良いことです。」
「それはいったい何なのですか?」
「それは追々分かる事です。」
そう言って老婆は教えてくれなかった。
「先ほど後ろ上部から響くように聞こえた声はいったい何だったのですか?あれも魔法ですか。」
「そう。魔女同志が秘密の会話するときのね。簡単だから後で教えてあげるわ。」
「ありがとうございます。あの、あと・・」
「何?」
「おばあさまは、王国の関係者なのですか?」
老婆は目をそらした。少し考えるようなそぶりをしてから「ええ。そうよ。」と答えた。
少し不自然だと感じた。この老婆は私のおばあちゃんではと思った。父やクリストファ叔父さんから祖父はもう他界し、祖母はどこかで暮らしているが会えないと聞いている。理由はわからない。
「あの・・」
「お姫様。あまり詳しいことは話せないの。このお話はこれでおしまいね。」
話を遮られ、モヤモヤした。
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数日、老婆の家で厄介になった。
魔女にしか聞こえない会話も教えてもらった。『超会話』と呼ぶようである。また、指で火をつける魔法、手を触れず枝を折る魔法なども教えてもらった。『メルト』の初級版のような魔法だそうだ。老婆はティナの魔法のその上手さにとても驚いた様子だった。
老婆は、母については知らないと答えた。父と母が密林で出会った話をすると、「そうだったのかい。良い話ね。」と答えそれ以上多くは語らなかった。
またある日の夕食の時、老婆に数年前のイベントの話をした。聞きながら老婆は険しい表情を浮かべた
「確かに、女が男よりも地位が低く、女が商売に利用されてたりするわね。」
「最後に訪れた男性はシホホネスの人でした。女性がより商売などに利用されていると言っておりました。」
老婆は何も言わずしばらく考え込んだのち静かに話し始めた。
「そうね。あなたがそんなに気になるのであれば、行って見てみるといいわ。シホホネス国にはちょうど私の知り合いの魔女が住んでいるから面倒見るよう話しておいてあげる。
シホホネスはエルティア南西のリゾート地から真南にあるから、水の移動でまっすぐ行けば数時間で着くわ。訪ねたらその子が生活環境とか作ってくれると思うから不自由なく生活できるはずよ。」
「あ、ありがとうございます。では明日にでも出発いたします。」
どうしてこんなに見ず知らずの私の面倒を見てくれるのか疑問を感じながら、でも素直に感謝した。老婆は続けた。
「もしかすると、その知り合いから少しお仕事を頼まれるかもしれないわ。そしたら聞いてあげて。」
「お、お仕事ですか?」
「そう。でもとても簡単なお仕事。誰にでもできるわ。」
その夜、出発の準備をし、翌朝、老婆の家を後にした。老婆から、出発間際にカプセル入りの薬を大量にもらった。
「風邪をひいたり、頭痛がしたり、体調がおかしくなったら飲みなさい。あとこの薬、精神的に病んだ時も効果があるの。寂しくなったり、辛いことがあって落ち込んだりしたときも飲むと良いわ。1回3粒まで。1日6粒までよ。」
「ありがとう。おばあちゃん。数日間とてもお世話になりました。では、行ってまいります。」
気を付けて行ってらっしゃいと手を振るおばあちゃんを後に、トルキ川を下りリゾート地を目指した。
途中、数回トルキ川を出てあたりを見渡したが、父から聞いた『母と出会った場所』のような場所は見つからなかった。どこも同じような景色でわからなかった。
リゾート地に着くとそのまま海に進み、方位磁石を見ながらシホホネスの方角へとまっすぐ進んだ。
青く透明な世界が延々と続く。
魚たちが下を泳いでいるのが見える。
海中の表情もどんどんと変化する。
数時間経っただろうか。やがてシホホネスへと近づいてきた。
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