第34話 驚きの連続
群衆の間にどよめきが起こった。その場にいた誰もが唖然としていた。法王やロホランやゴーシュでさえも。
だが、花火や処刑人が斬られたことは、その後に起きたことと比べれば驚くに値しなかった。
切り裂かれた処刑人の腹から勢いよく吹き出したのは真っ赤な鮮血——ではない。紙吹雪のような、大量の白い紙片だった。
風に乗って舞い降りたそれを人々が拾ってみると、カードを半分に切ったほどの小さな紙になにか書いてある。文字を読める者は次のような文章を目にしていた。
『余の死後、王位は我が妻ロランジュの子に譲る——国王エゼル』
「これって……」
「先王様の遺言?」
にわかに群衆が騒然とする。紙片が届かなかった後方の人々にも瞬く間に事情が伝わった。
「ゴーシュ、これはどういうことだ?」
紙片を手にしたロホランに問われると、ゴーシュは青ざめた。
「で、デタラメだ! 皆さん、落ち着いてください。これは明らかな偽物です! だいたい、本物には国璽が押されているはずだ」
そのとき、少女のものらしい声が群衆の中から高らかに響いた。
「その通り! それは偽物です!」
うろたえた警備の兵の間から、フードを被った小柄な少女が処刑台の前に歩み出る。彼女は堂々とした足取りで特等席に座る法王に歩み寄ると、顔ほどの大きさの紙をその老人に渡した。
「本物はこちらにあります。法王様、ご確認ください」
老法王は目を近づけ、その紙に記載されたものを慎重に確認してから言った。
「ふむ……確かに本物のようだ。国璽も押されておる。そして、先ほどの紙と同じ文言がエゼル様の直筆で書かれている」
隣の席に座るロホランが驚愕に目を見開く。
法王は豪奢な椅子から立ち上がり、群衆の方を向いて先ほど渡された紙を頭上に掲げた。そして、大勢の聴衆に説教をするときと同じように声を張った。
「皆さん。これは紛れもなく本物の、先王エゼル様が
「馬鹿な……あれは〈真の神器〉の部屋に置いていったはず。そしてあの部屋には、正統な血統の者しか入れなかったはずだ……」
ゴーシュが声を震わせてつぶやく。
「どういうことかしら? 先王様は遺言を残さずに亡くなったはずじゃなかったの?」
処刑台の上のフレーズは、聴衆全員に聞こえるように声を張り上げた。
「む、無効だ! ロランジュ様はすでに亡くなられている!」
ゴーシュがすぐさま指摘すると、先の少女が再び大声で言った。
「では、わたしは誰だというのですか!」
少女がフードを上げて顔を見せる。その顔を見た瞬間、ゴーシュは思わず驚愕の叫びをあげた。
「ろ、ロランジュ様……⁉」
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