第一話 転生

「誰……ですか?」


――この女性、明らかに人間じゃない。空から光と共に現れるなんて、映画や漫画じゃなければ、人間には無理だ。


その女性はゆっくりと此方に近づいてきて、


「神崎護さんですね。お待ちしておりました」


そう言った。しかし、今、目の前にいる女性と待ち合わせの約束をした覚えはない。第一、俺は死んでいるはずじゃ――。


「状況が呑み込めないんですが……というより、失礼ですが、貴女は誰ですか?」


「嗚呼、まだ名乗っていませんでしたね。私は、シエロ・アリア。日本担当の『女神』です。因みに私の担当は神聖です」


「ご丁寧にどうも……あと、担当って……?」


俺がそう言うと、女神は『パチンッ』と指を鳴らす。すると、先程まで誰も居なかった筈の女神の隣に、如何にも『天使』みたいな女性が居た。『女神』はその『天使』に何かを伝えると、『天使』は頷き、こちらに向かってきた。


「女神様の担当については私から……各女神様にはそれぞれご自身の担当があります。シエロ様は神聖、他にも幸運や、生命、等様々なものがあります。まぁ、貴方も知っている概念では、人間の七つの大罪みたいなものです。中身は全然違いますがね。――どうでしょうか? 分かって頂けましたでしょうか?」


それに対し、俺は静かに頷いた。するとそれを見た『天使』が『女神』の元へ戻る。


すると、今度は『女神』が話し始めた。


「護さん、貴方も分かっていると思いますが、貴方は不幸にも亡くなられました。現在、貴方の生前の活躍により、貴方はこれから言う2つの道の内、1つを選択する権利があります」


そう言うと、『女神』は1呼吸置いて告げる。


「1つ目は、『天国に行き、その後、時が来たら、また人間として生まれ変わる』2つ目は、『この姿、記憶のまま、新しい世界に『転生』する。』」


「て……転生!?」


異世界転生とか漫画やアニメでしか見たことないぞ……。生まれ変われるなら、また蓮華に会えれば……何て思っていたが……よくよく考えたら、会える保証は無いし、会えても今までの生活に戻ることは確実に無理だ……ならば――。そうして俺は女神に告げる。


「転生を選びます!」


「そうですか……。分かりました。貴方なら此方を選ぶだろうと思っておりました」


すると、先程の『天使』が、女神に話しかける。


「シエロ様、先程確認したのですが……神崎護さんを転生させてしまうと天界規約の第26条に違反を……」


「分かっています。それを承知の上で護さんを転生させます」


「どうなさるのですか? 万が一、転生させ、第26条に違反したことがバレたら貴女はどうなるか分からないのですよ!?」


「その時はその時よ」


「まったく……貴女という方は……分かりました。シエロ様がそれで良いのでしたら、そうなさってください。但し、私は庇いませんよ」


「大丈夫! あの時も何も無かったから」


――何か……揉めてる……? 天界規約がなんちゃらとか言ってたな……。


「あの〜、話に水を差すようで悪いんですが……もし難しい様でしたら、転生しなくて大丈夫ですよ」


すると『女神』が返事をした。


「お気になさらず。過去に1度破っておりますので」


――それ……ダメなんじゃ……。


「とにかく、貴方の希望通り、貴方を異世界に転生させます。」


そう言うと、『女神』は、『天使』に合図をする。すると、『天使』がまた、俺に近づき、話し始めた。


「では、貴方が転生する世界について、お話させていただきます。――貴方が転生する世界は、魔王に支配され、かつ、夜になると死者がアンデッドとして蘇る呪いを掛けられた世界になります。呪いは日没までに亡くなった方全員が対象者……つまり、転生者と言えど、例外ではありません。また、1度アンデッドになってしまうと元に戻ることは、どんな女神様の力を持ってしても不可能です。回避する方法は……死なない事、もしくは、復活魔法にて日没までに復活する事、この2つしかありません。また、貴方の世界にあるゾンビ映画の様に、アンデッドに噛まれたり、傷を負わされた場合でもアンデッド化しますが、此方については、症状によってはどうにかなりますので……これで大まかな説明は以上になります」


そう言われ、俺は「ありがとうございました」と頭を下げた。


「ありがとう。では、あれを……」


『女神』がそう言うと、『天使』は一瞬で消えた。


 暫くして『女神』が話し始めた。


「では、護よ……叶が居ない間に……」


――叶? あぁ、さっきの『天使』のことか


『女神』は続ける。


「貴方の、生前の活躍により、貴方の生前の世界から、『現在生きている生き物以外』ならば、好きな物を一つだけ持って行く事ができます……が、流石に盗難は天界規約に引っかかりますので、持って行く事ができるのは、貴方が触れた事がある物のみという制限付きです」


――マジ?!


「あの〜、一つ質問が……」


「勿論良いですよ。何でしょうか?」


「今、身につけている物は無条件で持って行く事は可能ですか?」


「可能です。流石に転生時に何も身に付けていないなんて、酷ですからね」


――良かった〜。


それを聞き、俺は持って行く物を『女神』に言った。


「ありがとうございます……では、俺の部屋の物入れに入っている棚に、万能バックと書いてある棚があります。そこに入っている鞄を持って行きます」


「分かりました。貴方は、中身が残ったまま持って行く事ができますが……どうなさいますか?」


――え?! めっちゃラッキーじゃん!


「是非お願い致します!」


「分かりました……では」


そう言うと、俺の足元が少し光った。


 少しして、光が収まると、そこには愛用の鞄、通称『万能バック』があった。


中身を確認すると、確かに中身はそのままだった。因みに、蓮華を助けた時に使ったカメラの予備(あの時の物よりは、性能は劣る)も入っている。


 暇なので、少しバックを漁ってみることにした。


――予備のスマホ、モバイルバッテリー、カメラとモニター、懐中電灯、非常食(水も含める)、筆記用具……その他、色々入っている。少し大きめのバックだが、使い勝手はとても良い。


 暫く、万能バックを漁っていると、『天使』が戻って来た。その手には1冊の本があった。魔導書でも貰えるのだろうか……?


「その本は……?」


俺がそう聞くと、『女神』が答えた。


「此方は、簡単に言うと、貴方の転生先のガイドブックみたいな物です。重要な事からちょっとした豆知識まで、色々書いていますよ。因みに、作者は私です」


「女神様が書いたんですか?!」


「そうですよ。――というより、女神様と呼ぶのも良いのですが……護さんが宜しければ、アリアと呼んでくださると、此方としても幸いです」


「わ、分かりました」


「それと……」


そう言うと、アリアの手元が光り出す。光が収まると、その手には1本の剣があった。


「剣……?」


「此方も私が作った剣です。私が持っていても役に立ちませんので、貴方に授けます。――この剣の名は『華月』、世界でたった一つの、女神『シエロ・アリア』が作った剣です」


――何か強そう……!


「あ、ありがとうございます! 大切に使わせていただきます」


「そう言って頂けて、嬉しく思います」


「そういえば、転生先での言葉って通じるんですかね?」


「嗚呼、言い忘れていましたね。日本語は一切通じません。ですが……」


と言い、アリアは手招きをする。俺はそれに従い、アリアに近づく。


 アリアが俺の肩に触れた。何か、一瞬頭がクラクラしたが、すぐに治まった。


「これで、転生先で貴方の話す言葉は通じ、相手が話すことを理解出来るようになりました」


「ありがとうございます」


――これで、言語面、道具面はひとまず安心だな。


 「では」といい、アリアは続ける。


「そろそろ、此方の準備も済みましたし、貴方の準備が整い次第、転生させます」


「俺はとっくに準備出来てますよ」


「分かりました。では、これから貴方を転生させます」


そう言うと、足元に魔法陣が出現する。


「その魔法陣から出ないでくださいね」


そう言うと、周りが眩い光で埋め尽くされた――。


 目を覚ますと、そこには中世ヨーロッパを思わせるような世界が広がっていた。転生は無事成功したみたいだ。腰に『華月』を差し、背中には、万能バックを背負い、右手には、アリアから貰った本を持ち、俺の新たな世界での新しい人生は幕を開けるのだった――。

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