第零話−3 悲しい知らせ

「逃がすかよ!」


と言い、男が蓮華のほうに向かう。俺は落ちていた鉄の棒で思いっきり殴る。


「誰が追わせるかよ。こっちは命賭けるつもりで守ってんだ!」


俺は、そう言って、包丁を叩き、男から遠ざける。


 ~護が蓮華を逃がしてから十分経った時の蓮華の様子~ 


「ハァ…ハァ……此処まで来れば……」


私はとある交番まで来ていた。そしてその交番に入る。


「お巡りさん! 助けてください!」


そう言うと、中から数名の警察官が出てきた。


「どうされましたか?」


「わ、私……殺されそうなんですっ! 今、犯人を私の友達が抑えてくれています」


警察官は、私の様子から本当のことだと察してくれたのか、慌てた様子で、


「なんだって! 分かった直ぐに向かおう」


そう言うと、私に場所を聞き、三人の警察官がそこに向かっていった。残りの二人は交番で私の保護を任されたみたいだ。


「お願い……護……無事でいて……」


私は天に祈ることしかできなかった……。


 ~警察官が出動した位の護の様子~


 男が動けなくなるように、俺は、男の足を一本折った。男は痛みに悶え、苦しむ。そして包丁を回収する。


「さぁ、観念しろ! もう武器はない。お前の企みも終わりだ!」


そう言うと、男は笑いだす。


「何がおかしい!」


「やっぱりお前、ガキだな……」


そう言うと男は後ろから物を取り出す。それは『銃』だった。


――こいつマジかよ……相手は高校生の女子だったんだぞ。俺の乱入は予測不可能のはず。それにこの場所は人通りが極端に少ないことを知っていたら、蓮華が叫んだとしても、人が気付く確率が低いことも知っているはずだ。まさかコイツ……断られたら本気で殺そうとしてやがったのか……。


そう思いながら、俺は歯軋りをする。


「おい、テメェ、なんだその目は?」


「ずっとこんな感じだっただろ?」


俺は続けてこう言った。


「答え合わせをしよーぜ。おっさん」


「答え合わせだと?」


「そうだ。答え合わせだよ。お前がこんなことをしようとした経緯をな」


「探偵や警察のつもりか?」


「まぁ、そんなもんだ」


「良いぜ、言ってみろよ。ガキ」


そうして俺は言った。


「お前は、確かにこの近くに住んでいた。そして普通に暮らしていた。だが、ある日その普通は壊れた。その理由は分からないが、何かによって壊れた。その日から何日か立った日に、お前は見つけたんだろ?蓮華を。そして心を動かされた。そして、お前は毎日、蓮華を見るようになっていた。そんなある日、蓮華がSNSを始めたことを知った。俺と蓮華の会話を聞いていたなら、分かるはずだ。そして、蓮華の趣味も知っているはずだ。そこで、お前はSNSを利用して蓮華に近づき、そして、今日という日を迎えた。つまり、お前は、蓮華の半ストーカーだったんだよ! ――どうだ? 大体は合っているだろ?」


「そうだな。殆ど正解だ。それにしてもあの時隣にいたガキがお前だったとはな。それに何故俺があの娘のことを見ていると分かった? お前は俺の知り合いでも何でもない。今日が初対面のはずだろう?」


「蓮華がある日を境に、下校中に視線を感じるって言っていたからな」「なるほどな。じゃあ、答え合わせも済んだ事だし。そろそろ茶番は終わりにしようぜ。俺は絶対にあの娘を俺の物にすると決めたんだ」


――なんちゅう執念深さだよ。コイツ。


「蓮華は物じゃねぇし、奴隷でもねぇ! アイツも一人の人間だ! お前の勝手な都合で、蓮華の人生を変えてんじゃあねぇよ!」


そう言って、俺は棒を振り下す。


 「バンッ!!」という音と共に俺の腹部から血が流れ出す。


「クソッ……」


俺は痛みを我慢し、男を殴る。男は倒れこむが、もう一発、二発…と撃つ。その一発は俺の胸部に当たってしまった。だが、最後の力をふり絞り、俺は男の銃を弾き飛ばす。


 すると後ろから、


「何だ! 今の銃声は!」


という声と共に、三人の警察官がやって来た。


 三人のうち二人で倒れている男を素早く押さえつける。三人目が俺に駆け寄って来た。しかし、俺の腹部を見ると、すぐさま救急車を手配するよう連絡する。俺は声を振り絞り言った。


「こ…この付近の……角に…カメラとモニターが……ある…それを…証拠に…………」


そう言うと警察官は頷き、


「後で取りに行く。今は君の保護、並びに犯人確保を優先させてもらう」


と言った。


 ――駄目だ、頭がクラクラする。意識も朦朧としてきた……。


「君! しっかりしろ!」


そう警察官は言う。


「君のお友達が君の帰りを待っている! あの子のためにも、しっかりするんだ!」――そうだ、蓮華が待っている。ここで力尽きるわけにはいかねぇ……。


 暫くして、救急車の来る音がした。そして、救急隊員が俺を救急車に運び込むと、俺は安心し、目を閉じたのだった――。


 次に俺が目覚めたのは病院だった。


 前を見ると、両親と蓮華がいた。蓮華は泣いている。


「泣くなよ……蓮華」


そう言うと、蓮華は、


「ま……護っ!」


と言い、抱きついてくる。


「重てーよ」


「ご、ごめん。でも、もう……もう帰ってこないのかと……」


――後々聞くと、俺は体内の銃弾を摘出する手術後、二日間寝続けていたらしい。


「蓮華、大丈夫だったのか? それにあの男は……」


「私は護のおかげで無事だよ……あの男の人は逮捕されたみたい」


「そうか……なら良かった……」


そう言うと、俺の両親が呼んだのか、医者が来た。しかし、やけに表情が硬い。


「護さん、目を覚まされましたか……すみませんが、そこのお嬢さん、少し退室して頂けますか?」


――嫌な予感がした。そういえば、さっきから撃たれた胸部が痛い。蓮華が退出した後、医師が俺と、俺の両親に向かって言う。


「護さんの事に関してなのですが……」


と言い、医師は一呼吸おいて告げる。


「後、一ヶ月生きれるかどうかの状態です」


「なっ……どういうことですか?」


「落ち着いてください。今から説明します」


と、医師は、慌てる俺に向けて言い、こう続けた。


「腹部にあった二発は取り除くことに成功したのですが、胸部の方にある一発が、場所が悪く、取り除けない状況にあります」


すると、父さんが医師に向けて、

「具体的に、その護の体内にある銃弾は何処の部位にあるのでしょうか?」と尋ねた。


そして、俺に向けて、安静にしてろ、と言わんばかりに目配せをした。


「それが……心臓内です……と告げる」


その言葉に三人の顔が青ざめる。


「――それは、本当ですか?」


「はい、間違いありません」


暫くの間、沈黙が訪れる。


 するとそれを盗み聞きしていたのか、蓮華が泣きながら入って来た。


「まさか、聞いてたのか? 蓮華」


すると蓮華はこくりと頷き、


「盗み聞きは良くない事だってわかってたけど……気になって……」


蓮華は続ける。


「昨日まであんなに楽しかったのに……あんなに元気に過ごしていたのに……いきなり護の余命が一ヶ月なんて……私が……私が甘い言葉に騙されたせいで……」


「蓮華、これはお前のせいじゃない! 全てあの男が悪いんだ!」


――そうだ、蓮華は悪くない。アイツが……あの男がいなければ、こんなことには……蓮華が泣くようなことは無かったんだ……。


病室がどんよりとした、重たく、暗い雰囲気に包まれる。そんな中、母さんが蓮華を連れて病室から出た。


 暫くして、医師も病室を出る。


すると、父さんが俺に話しかける。


「護、お前、蓮華ちゃんのこと好きだろ」


俺はその言葉に何故かドキッとしてしまう。


「幼馴染としか思ってないよ」


「じゃあ、自分の本心に気付いていないだけだ」


「何で俺が蓮華のことを好きだと思ったんだよ」


「あんな態度を取っていたら誰でも察する。多分、母さんも気付いているぞ」


「でも、ハズレだね」


「当たっているさ。それに、もし本気で外れていると思うなら、今までの護と蓮華ちゃんとの思い出でも思い返してみると良い」


そう言われ思い返してみる。


 ~五分後~


「どうだった? 思い返してみた感想は」


「なんつーか……その……」


俺はだんだん頬が赤くなり、体温が上がっていくのを感じた。


 蓮華との思い出を思い返した時、どの思い出も、俺の目には蓮華ばかりが映っており、それ以外は、殆ど思い出せなかった。そして、俺が蓮華に感じていたモヤモヤは、ある一つの結論と共に、消え去った。


「俺は……蓮華が……」


「ほらな? 間違ってなかっただろ?」


俺はその言葉にこくりと頷くことしかできなかった。俺が学校の女子に惹かれた事がないのも、納得がいく。――だけど、これから一ヶ月、蓮華とどう接するか……。


 俺の初恋と共に、そんな新しい悩みが生まれたのだった。


 暫くして、蓮華と母さんが戻ってきた。蓮華は落ち着いたようだった。――だが、俺には落ち着くなんて無理だった。心臓の鼓動が早くなって行くのを感じる。恋愛なんてしたことがなかった俺が、今日、恋というものを知った。だが、その相手が目の前にいる事だけで、恋愛慣れしていない俺は、頭が沸騰しそうになるのだった――。


 何とか落ち着きを取り戻し、俺はいつも通り(を意識して)蓮華と話す。父さんも、母さんも、俺を気遣ってか、退出していた。後、『余命一ヶ月』が正直認めたくない。初めて聞いたときは、あんなにもアッサリと受け入れることができたのに……。


 沢山しゃべった後、もう遅いから、と言って三人は帰っていった。


 ~夜~


 俺は、窓から空に輝く月を見る。見ながらため息をつく。


「あと一ヶ月か……」


そう呟いた。


 その後は段々眠気が襲ってきて、そのまま俺の意識は夢に移るのだった――。

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