第9話 初めての図書委員会
図書室に向かう途中にちょっと恥ずかしい、けど、佐藤さんと心の距離が少し近づくような出来事があった後は特にこれといったことなく、図書室についた。
今日は何だか色々なことがあったような気がするけど、実際は佐藤さんと話したこと以外はこれと言ったことはなかったと思うし、それだけ佐藤さんとのやり取りが俺の心の中に残っているってことだろう。
そう言えば、図書室に来るのって現代文の……夢長先生に連れてきてもらったとき以来だな。
俺の心の中での独白が外に漏れていたらしく、佐藤さんが小声で話しかけてきた。
「そういう人も多いらしいですね。あと、図書室では静かにですよ?」
そう言うと佐藤さんが司書さんの方を向きながら指摘してくる。
俺もそれにつられて司書さんの方を向くと司書さんが口元に一指し指をあてているのが見えた。あれは静かにというジェスチャーだろう。
そんなに俺の声は大きかったのか……俺は司書さんに無言で会釈すると、小声で佐藤さんに「ありがとう」と告げる。
俺と佐藤さんは2―Aと書かれた札、つまり俺たちのクラスの札が貼っている机に座る。
座ったことで人心地着いた俺は図書室の時間を確認する。時間は四時十分を指していた。
まだ時間があったことと夢長先生が来ていなかったため、俺は周りを、つまり、他の席の生徒たちに目を向けた。
……佐藤さんが言っていた通り、交換日記というか筆談をする生徒が結構な数いる。
それこそ、男女でやっている人に女子同士でやっている人、あと男同士でやっている人もいる。
男同士でやっている所は片方が笑いをこらえきれなかったのか噴き出して司書さん達に般若のような顔で睨まれていた。その後はそっとノートをしまっていたし、反省はしているみたいだ。
しかし、本当に男女問わず、というか恋人友達問わずやってるんだな。
教室ではあまり見ない光景に俺が新鮮さを感じていると、隣に座っていた佐藤さんが俺の肩を叩いてくる。
俺がそれに気づき佐藤さんの方を振り返ると佐藤さんがノートを突き出してきた。
先ほど話した交換ノートだろうか?
佐藤さんがノートを書いている様子がなかったため俺が首を傾げながらノートを開くと、一ページ目に
【まず初めに、林君は群青さんと一緒になりたくて図書委員に入ったのに私なんかと一緒になってしまってごめんなさい。】
と書かれていた。更に続けて
【もしかしたら、私にあまりいい印象を持っていないかもしれませんが、私としてはこれから一緒にやっていく林君と仲良くなりたいので自己紹介をさせて下さい。
私の名前は佐藤 紬です。
好きなものは 本、特に恋愛小説が大好きです。甘酸っぱい感じでちょっと切ないんだけどけど最後はハッピーエンドで終われるようなものが大好物です。
苦手なものは 鬱々とした展開とか、ですかね。誰も幸せになれないものとか、後、頑張ってる人が報われないような展開とかは苦手です。運動は全般苦手です。
趣味は……少し恥ずかしいのですが、実は小説を書くのが趣味ですかね?実は私、文芸部に所属していまして……そう言えば、知っているとは思いますが吉田君も文芸部なので交流があるんですよ?この前も吉田君に「湊をよろしくね」って頼まれちゃったんです。
休日の過ごし方は、基本的に本を読んで過ごすことが多いのですが、桜や紅葉、雪とかが降っているとそういう景色を眺めていることもあります。まあ雪は家の中でも見れるので家の中で眺めてることが多いんですが。雪の日は外、寒いですしね。
科目とかは必要ないかもしれませんが、一応、現代文と古文は得意なほうですかね?少しだけですけど。後、体育はとても苦手です。全然上手くいきません。
そう言えば、一年生の時はお互い図書委員だったので群青さんとも付き合いがあって一緒に夏祭りとか初詣とかに行ったりしました。もしかしたら、少しだけ、とは言っても個人情報に関わることは言えませんし、あまり期待されても困っちゃいますがお役に立てることがあるかもしれません。
一年間、よろしくお願しますね】
いや、長いな……。佐藤さんが何かを書いてる様子はなかったし、何よりも佐藤さんから目を離したのは席に座ってから周りを見渡している数十秒の間しかないからな……
そう言えば、交換ノートについての話題を出したのも佐藤さんだったなと思い出す。
あの時は偶然思い出しただけだと思っていたけど……
もしかして初めから俺にこの話題を振ろうとしてたのか?
試しに俺は自己紹介が書かれている隣のページに
【もしかして、事前に書いてきてたの?】
と書く。
すると、佐藤さんは目を大きく見開き、あたふたと一通り取り乱した後に……顔を赤らめ、もじもじしながら俯いてしまう。
図星だったか……というか、可愛いな、俺に交換ノートの話題を振る機会を伺っていたのか……何だったら、文字も可愛い。
折角、佐藤さんが一生懸命自己紹介してくれているので、俺も自分の自己紹介をしようと筆を取る。
しかし、それと同時に図書室の扉が開き、夢長先生が中に入ってくる。
「え~、では第一回図書委員会を始めます。交換日記、及び筆談をしている生徒は速やかにノートをしまいなさい。」
その声は非常にやる気がなさそうではあるが……まあ、いつもの授業の時よりはましか。
その後は役割決めをおこなったのだが、意外にもスムーズに役割が決まっていった。
因みに俺と佐藤さんは一年と二年全員がやるカウンター係、それと個別の係としては書架になった。
これは佐藤さんが去年ブッカーをやっていたらしいんだけど、不器用すぎて全然上手くいかなかったということを小声で伝えてきたのと、それなら書架をやりたいと俺が提案したことで決まった。
後は夢長先生が事前に図書委員のメンバーを見てカウンター係のローテーションを決めていたらしく、ローテーションが書かれたプリントが配られた。
それによると俺と佐藤さんのペアが一番初め、つまり、次の月曜日からが俺たちのカウンター当番と書かれていた。
正直、佐藤さんにいつ交換日記の返事……というか自己紹介の返事を返そうかと考えていたから丁度良かったな。
それからは夢長先生の「では、かいさ~ん」というやる気が感じられない掛け声とともに図書委員会はお開きとなった。
図書委員会が終わったので俺は佐藤さんの方を向く。
「俺はもう帰るけど、佐藤さんは?」
すると、佐藤さんは少ししどろもどろになりながら
「あ、え、えっと、……私はもう少し残ります」
と答える。
俺はその返事を聞き「それじゃあね」といい図書室を出る。
その後、下駄箱で靴を履き替え、校門を抜けようとした所で後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえ後ろを振り向く。
走ってきた人影、というか顔には見覚えがあった。
「あれ、佐藤さん?どうしたの?」
俺が声をかけるが佐藤さんはそれを聞かずに走り抜けてしまう。
その際に俺のチャックのついていない学生鞄のポケットに何かを入れていたのに気が付き、首を傾げながら俺はポケットの中に入っていたものを取り出す。
中に入っていたのは手のひらくらいの大きさの紙で綺麗に四つに畳まれていた。俺が紙を開くと、そこには
【本当は図書委員が終わってから直接言いたかったのですが、……恥ずかしくて言えませんでした。
これからよろしくお願いしますね。】
と書かれていた。
……可愛いな。
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